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第五十章:図書館

 梨花と私は駅までの道のりを歩いていた。でも今日はこのまま電車に乗

って帰るのでは無く……

「この辺に図書館なんてあったっけ?」

南町(みなみまち)に大きいのがあるけど――遠いから嫌だよね……?」

 南町って言うと――梨花の家の方か、私そういえばそっち行ったこと無

いなぁ……

「私、行ってみたい!」

 梨花は私の発言に、(うれ)しそうに笑顔で(こた)えた。



 私はいつもと反対に行く電車に梨花と乗り、見慣れない景色を(なが)めてい

た。碧町(みどりまち)もわりと都会だと思ってたけど――南町もなかなか……

「この先は結構田舎(けっこういなか)よ」

 しばらく景色を眺めていると、徐々に住宅地などが増え始めた。――さ

っきはまだ市の中央付近だったのか。



 碧本町(みどりほんちょう)と比べると少し建物が少ないけど――結構立派な駅前街に出た。

梨花は私の手を引っ張りながら、ぐんぐん進んでいく。

 ――そんなに(あせ)んなくても大丈夫だよぉ……

 図書館までは歩いて五分とかからなかった。三階建てのわりと広い建物

で、自転車がいっぱい停まっていた。

「ここの三階に勉強用の部屋があるわ――そこで一緒にやりましょう」

 普段だったら「えーっ、家でいいよ~」なんて言うのだけど……さっき

梨花の平均点を聞いたせいもあって、梨花と同じ大学に行きたい! と言

う願いのある私は断るわけにはいかなかった。

「平均四十点上げるのは無理でも、赤点回避だけはお願いね」

 階段を登りながら梨花は振り返らずに言った。――分かってるけど……

まさか、今日の英語自信がない――なんて言えないよなぁ……もう遅いよ。



 テスト時期なわりに、意外と人は少なかった。――まぁ、普通は家とか

学校でやるよね……

「ここにしましょう、参考書の棚が近くて便利だし」

 梨花は静かに椅子(いす)に座った。――さっきからなんとなく感じていた事な

んだけど――電車に乗った辺りから梨花の声が冷たい気がする。

「あら? 氷室さんじゃない?」

 後ろから声がして、私は振り返った。梨花も振り返り、その女の子は梨

花に「やっ!」と手を出した。

 梨花とその子はしばらく話していたが……何だか梨花の表情が、(おび)えて

いるような――何かを(おそ)れているような……

「でも意外……氷室さんが女の子連れてるなんて――」

「っ!」

 梨花の身体がビクッと震えた。

「中学の時はあんなに――」

 梨花の身体が小刻みに震え始めた。――理由はよく解んないけど……私

の大切な梨花を怖がらせるなんて――!

「ちょっとあなた? 梨花に何を言ったのよ?」

 私は梨花とその子の間に割って入った。……余計な事だったらごめん―

―でも私は、これ以上梨花が傷つくのを見たくない――

「あなた、氷室さんの友達? だったら――」

「友達だったら何だって言うのよ……!」

 私はなるべく小声で――でも強い口調で言った。

「梨花に何かしたら……私が許さないから」

 私は心臓がバクバクになりながらも、梨花を守りたいという一心で出来

るだけ怖い声を作って耳元で(ささや)いた。――梨花を怖がらせた子は、一人で

ブツブツ何か言っていたけど――図書館で大声を出すわけにはいかない事

に気づいたらしく、一発舌打ちをして部屋から出て行った。

「ありがとう……裕海」

 梨花の身体の震えが止まってきた。一体何が梨花をそこまで怯えさせた

のだろう――

「あの子、あること無いこと……(うわさ)話をすぐ信じちゃう子なのよ――で、

それを自慢気に色んな人に話すから……」

 梨花の目が(うる)んだ。

「何を言われるか……って怖くて……」

 いる、そういう人――真偽(しんぎ)を確かめずに自分だけが知っているって事に

優越感(ゆうえつかん)を感じているのか、人の悪口とか聞いてもいないのにペラペラ話し

だす人……

「大丈夫だよ……私は梨花の事――信じてるから」

 私は梨花の頭を()でた。――このくらいならしてても別に変じゃ無いよ

ね?



 私たちは閉館近くまでテスト勉強をしていたが、あまり詰め込み過ぎて

も……ということで図書館前で別れた。

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