第四十九章:テスト初日
今日は明日のテストに控え、午前中だけ休憩無しで勉強して――ちょっ
ぴりキスをして、梨花は帰って行った。
「じゃ、明日頑張ろうね!」
私は梨花が見えなくなるまで手を振っていた。――さて、一応最後の確
認を――
「朝から勉強会?」
振り返ると背後に姫華がいた。――いつからいた?
「いいな~……私も一月からは一緒に入れてね?」
入れる気満々だな……
「あのね姫華、受験ってすれば誰でも入れるわけじゃ無いんだよ?」
私は諭すように言ったが、
「大丈夫よ、私ここのところずっと机に向かってるんだから」
今家出てるじゃん。
「ねぇ……私の勉強疲れ、癒してくれない?」
姫華は優しく私を抱きしめた。――あれ? 姫華……凄くドキドキして
る……?
「姫華? 私まだ勉強が――」
「ちゅぅっ……♡」
姫華は私を抱きしめたままキスをした。顔は赤く――とても私をからか
っているようには見えない。
「ぷはっ……♡ 裕海ちゃん……裕海ちゃんがどう思おうが、私は本気だ
から」
姫華はそれ以上は何も言わず――無言で家に戻って行った。
「何なのよ……もぅ……」
だが、別に悪い気はしないかも――と思ってしまった自分がなんとなく
嫌だった。――私は梨花が好きなんだよ……ね。
「裕海?」
「裕海ちゃん?」
私がお姫様のようなベッドで待ってると――愛らしい服を着た梨花と姫
華がベッドの両端に座り、私に笑顔を見せた。
「今日はどっちからする?」
「私だよねっ? 裕海ちゃん」
両側から寄り添ってくる二人――私は二人を抱きかかえ、
「一緒にしよっか~」
梨花と姫華に身体を預けられ――私は幸せな気分でキスを――
「ジリリリリリリ……」
目覚ましを止め、私は夢の中での事を思い出し考えていた。
あのまま夢を見続けていたら……私はどっちとキスをしていたんだろう
……
登校すると、教室中の生徒が無言で机に向かっていた。普段大声でおしゃ
べりしてる男子も、入口付近に立って騒いでる女子も――今日ばかりは必
死に勉強していた。――やっぱり高二の年末のテストは大事だよね……
「灯、おはよう」
灯も真剣に教科書を眺めていたが、返事だけはちゃんとしてくれた。
「おはよう、裕海――頑張ろうね!」
私は「うん!」と頷き、席に戻り他の生徒と同じくノートを開き最終確
認を始めた。
「どうだったぁ……?」
昼休み、灯の口から出た最初の言葉がそれだった。――まだあと二時間
あるのに……
「双海さんは自身あるの?」
梨花が紙パックのレモンティーをストローで飲みながら聞いた。
「私はダメ……赤点はまぬがれたい」
「私も~……」
梨花の表情が険しくなった。――え? どうしたの、私たち何か変なこ
と言った?
梨花はレモンティーを飲むのを止め、
「え? 赤点って……?」
動揺した表情で私たちを交互に見た。――えーと、顔に何かついてる?
「ちなみに……こんな時聞くのもなんだけど、この前のテストって平均点
何点だったの?」
私は耳元で囁いた。次に灯も――梨花は黙って聞いていたが、サーっと
顔が青ざめていくのが分かった。
「それじゃあ……裕海と同じ大学行くってのは……」
「え? じゃあ、梨花は……」
梨花に耳元で囁かれ、今度は多分私の顔が青ざめた――梨花とは違う意
味で。
「え? ええ? ちょっと待って、そんな点数どうやったら取れるの?」
単純に平均点だけで四十点以上の差があるんですけど……
「やっぱ裕海、氷室さんに勉強教わったほうがいいよ……」
「灯だって私とそんな変わんないじゃん! この間は私の方が良かったし?」
「二人とも!」
ヤバい、どうしよう――梨花と同じ大学行くのが夢だったのに……かな
り勉強しないと難しいなぁ……
――かなり勉強する事自体難しいんだけどさ……
午後のテストも終わり、教室からは脱力した声が聞こえてきた。私も伸
びをして、椅子に寄りかかったが……ああ、まだあと二日あるんだよね…
…
「何よこの5.3.3って、4.4.3なら今日早く帰れたのに……」
灯がぶつくさ文句を言っている数字は、一日のテストの科目数だ。11科
目って言うのが多いのか少ないのかよく分からないけど、灯の言う後者な
ら午前中だけで終わるのに――と言う意味で文句があるらしい。
「明日と明後日、先生たちの会議があるのよ」
梨花は灯から試験日程表を取り上げ、
「こんな物見てても勉強にならないわ、早く帰って勉強したほうが良いん
じゃない?」
梨花なりに心配の意思表示なんだろうけど……普通の人が聞いたら多分
ムカつくと思うよ――その言い方。
「まあ、それもそうね……今日も銀士の家で勉強しよっと」
灯は鞄をかけ、私たちに手を振って教室から出て行った。