第四十四章:百合漫画
「裕海はテスト勉強どのくらい進んでる?」
梨花は机にノートを広げながら聞いた。
「まあ……そこそこ?」
私は言葉を濁した。嘘おっしゃい、あなた全然やって無いでしょうが。
「じゃあ……お願い! 今日は机貸してくれないかなっ!」
梨花は手を合わせ、頭を下げた。――まあ良いか、どうせ私集中できないし。
「良いよ」
「わぁ~、ありがとう! 後で裕海の好きなこと何でもしてあげる!」
思わず唾を飲み込んだ。……え? 何でも良いの?
梨花の集中力は物凄かった。私が即席テーブルで勉強をしていて、五、六回休憩や気晴らしを行っている間に梨花は一度も休憩を入れなかった。
凄く真剣な表情でカリカリとノートをとっている姿を見ると、やっぱ優等生は違うなぁ……と考えさせられる。
でも流石に四時間以上、何も飲まず食わずでいるのは身体にも悪いと思い、私は温かい緑茶を淹れに行った。
「梨花~……お茶入ったよ」
私が部屋に入ると梨花がハッとした表情でこちらを見た。――梨花はベッドに転がりながら、私の漫画を手に持っていた。
「丁度……休憩しようと思って!」
梨花は漫画本を本棚に戻し、テーブルの前に座り直した。
別に怒らないよ、そんなことで。
「裕海って結構、変わった漫画読むのね……」
まあ、よく言われるかな。でも面白いよ?
「梨花だって百合漫画読むんでしょ~?」
「そりゃ、そうだけどさぁ……」
梨花は恥ずかしそうに鞄からカバーのついた大判の漫画を取り出した。
「持って来た……」
待って――ってことは、学校でもそれを持ち歩いてたって事?
実を言うと、凄く興味がある。自分で買う勇気は無いから、読んだことは無いけど。
私はカバーをつけたまま梨花の百合漫画を読んでみた……が、
「――――!?」
最初一ページ目でもう、激甘な二人が同棲を始めていた。ページをめくるごとにどんどん過激に――なんてことは無いけど、良い意味でニヤけてしまうような展開が盛りだくさんで、私は気がついたら一巻全部読んでしまっていた。
「ヤバい、超良い……」
胸の奥が熱くなってきた。始終イチャイチャラブラブしていて、誰も邪魔しない――て言うか登場キャラみーんな女の子、こんな素晴らしい世界を書き綴った漫画があったのか……。
「続きは!?」
梨花は手を開いて見せ、
「テスト終わってから~」
そうきたか……!
「でも、」
梨花の顔が『ずい』と近づいた。
「日課はちゃんと済ませなくちゃね?」
「――――はぷ、ん」
最低一回しろ――っていうだけで、別に何回してもいいわけであり。私と梨花がキスを初めて止められるわけが無く――いつまでもいつまでも心から気持ち良いと感じる事のできるキスを続けた。
「ぷはっ……あー、もうこんな時間だ」
「泊まってく? 今日も家の親遅いから平気だよ?」
梨花はしばし考えている様子だったが、
「今日はいいわ。週末、勉強も兼ねて泊まりに来てもいいかしら?」
「いいよ、じゃあ明後日の放課後」
梨花は可愛らしいウィンクで応じ、すっかり暗くなった寒空の中、駅に向かって帰って行った。




