第四十二章:寝不足2
「ただいま!」
私は家に戻ると、手を洗う前にこたつに飛び込んだ。んー、温かい……。
「裕海、手は洗ったの?」
死刑宣告のように冷たい母の言葉が耳を貫き、私はしぶしぶ手を洗いに洗面所へと赴いた。
手を洗いながら思ったけど、やっぱり身体が冷えている。このままでは良くない。
どうせ今洗面所にいるし、私はついでにシャワーを浴びることにした。
「大丈夫かな、姫華」
私は服を脱ぎながら考えていた。
家の中でも流石にこの格好だとちょっと寒い――ましてや外で。まあ、今の私程は薄着じゃ無いけど。
「はぁ……、温か~い……」
頭からシャワーを浴び、素肌を温かいお湯が流れ落ちた。
氷のように冷え切っていた身体が、徐々に温まってくる。
「さて、あがるか」
室内用の私服に着替え、私は自分の部屋に戻りエアコンをつけた。
「はぁ……、勉強だぁ……」
私は一番苦手な科学を重点的に、今日も夜中まで勉強することにした。
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「ヤバい……寝不足だ」
目の下にクマでもできてるんじゃ無いかと思うくらい、非常に眠たい。
昨日は頑張り過ぎて、結局二時間くらいしか眠れなかった。
「裕海、大丈夫?」
灯が心配そうに顔を覗き込んだ。……何で灯は寝不足じゃ無いのよ。
「テスト勉強だよ~……」
「私は一夜漬けタイプなんだ」
灯の笑顔に少しイラッとくるくらい、眠かった。数学と現国の時間にこっそり寝といたほうがいいかも。
結局二時間とも寝ることはできず、科学と同じくらい苦手な英語で寝るわけにも行かず、結局午前中の授業四時間はギリギリ起きていた。
「ヤバい……、視界が朦朧としてきた……」
教室内の景色が白く霞み、耳に入る声や音も聞き取れなくなってきた。
これはもうヤバいかもしれない。
「蒔菜さん、ちょっと」
おもむろに梨花が私の頬をつねった。――ちょっと! 痛いんだけど。
「来なさい」
梨花は私の制服を引っ張った。ちょっ、やめて! 脱げっ……脱げる!
抵抗する気力も無かったが、引きずられる途中制服がめくれ、おへそが出てしまい――廊下にいた男子数人が妙な目で私を見てきたので、とりあえず眠気と戦いながらもちゃんと立って歩くしか無かった。
「梨花……私眠くて死にそうなんだけど」
「知ってる」
間髪入れず答えた。
なら今日くらい寝かせてよと思う。
「入って」
いつもの空き教室に入るよう言われ、私はフラフラする頭を支えながら教室に入る。
頭を支えながら振り向くと、梨花がドアの死角に正座した。
「裕海、ここで寝て」
梨花が撫でている場所は、いわゆるスカートとソックスの間に位置する領域だ。
実際梨花はこのところストッキングを穿いているため、一部の人種が騒ぐような境界線は存在しないんだけど。
「え? ええ!?」
びっくりして一瞬だけ目が覚めた。そっ、それは流石に恥ずかしいって言うか……。
「いいから、早く寝ないと時間無くなっちゃうわよ」
梨花に腕を掴まれ、私は梨花の膝の上に頭を乗せられた。
「りっ、梨花ぁ……」
顔がカーっと熱くなった。……これじゃ逆に眠れないよぉ~……!
「ほら、ゆっくりおねんねしてね……」
梨花の甘いボイスと、なめらかな指先で頭を撫でられ――、少しずつまぶたが重くなってきた。
「梨花ぁ……」
梨花の柔らかい太ももの上で、私は凄く気持ちよくぐっすり眠る事ができた。




