表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/132

第四十一章:寒空の下

「梨花!」

「こら! 遅いっ」


 入った途端デコピンをされた。梨花の表情は――別に怒っているようでは無かった。


「良かった。裕海、来てくれて……」


 梨花の目が潤んだ。

 この前、私は絶対裏切らないって誓ったのに。


「裕海? どうしたの……、痛かった?」


 私はいつの間にか、自分でも気付かないうちに涙を流していたらしい。


「大丈夫?」


 梨花が私の涙を拭った。梨花の心配そうな表情を見ていると、私の溜め込んでいたと思われる感情が爆発した。


「う、うわぁぁぁぁん……」


 梨花の胸の中で盛大に泣いた。別に悲しいからでは無い、梨花がこんなに遅くまで私を待っててくれた事、それでも嫌な顔一つしないで私を迎えてくれた――そんな梨花を私は……、私は忘れて寝てしまっていた。その事実が自分でも耐えられないくらい辛かった。――申し訳無かった。


「大丈夫、大丈夫よ……裕海」

「梨花……」


 私は泣きながら梨花の唇を奪った。はむはむと音をたてながら、梨花の唇を味わう――梨花はそんな私の頭を撫でながら、


「大丈夫よ、私は何があっても裕海の味方だから……」


 またドッと感情が渦巻いた。涙があふれるのを感じながら、私は梨花の唇を感じ――流れ出る感情を全身に染み渡した。


「梨花……」

「裕海……?」

「大好き」


 梨花は笑顔で、


「私もよ、裕海」


 梨花の胸に抱きかかえられ、私は――心からの至福の時を過ごした。



 ---



「あ、お帰りなさい」


 平然とした表情で私をお出迎えしたくれたのは、昨日私とキスをして、気を失うくらいショックを受けられたお方――宮咲愛理ちゃんだった。


「昨日は本当ごめんね?」

「いえ、私こそびっくりしちゃって……姉がまた余計な事を言ったらしく、申し訳ありませんでした」


 深々と頭を下げられ、私は余計に気まずくなる。

 どうにも居心地が悪いので、私は話を変えた。


「ところで昨日のお洋服は――」

「ああ、あれですか? 着たまま寝ている姉を見つけた両親が泣きながら怒って……」


 愛理ちゃんが指差した先にはゴミ箱があった。


「捨てられたの!?」

「拾ってクリーニング出しに行きましたよ、まったくもう……恥ずかしく無いんですかね?」


 愛理ちゃんは「やれやれ」とでも言うように、情けない顔をした。



 ---



 私は今日こそテスト勉強を! と机に向かったが、数時間やったところで頭に入って来る感じも無く、何をしても集中出来ないので私はなんとなく外を走る事にした。

 外は寒く、吐く息が白くなりかけていた。そうか……、なんだかんだ言ってもう十二月か……。


「はぁっ……、はぁっ……」


 身体が温まっては冷え、温まっては冷えの繰り返しで、汗をかけばかくほど身体の冷えがひどくなるので、私はしばらく公園のベンチで休んでから帰ることにした。


「ふぅ……」


 寒空の下飲む温かいココアは格別だ。冬の夜ってなんだか好き、寒いけど――空気が綺麗に感じる。


「にゃっほ、にゃっほ」


 口腔に広がるココアの香りに頬を緩めていると、妙な掛け声と共に足音が近づいてきた。

 ……何? 変質者?


 声のする方を見た瞬間、私はここから立ち去ろうと考えたが――声の主に私を発見され、その作戦は行動に移すより先に壊滅した。


「やっ! 裕海ちゃん」


 女の子走りで走ってきたその影は、奇抜な色彩をした制服のような物を着ていた。


「姫華の前の学校ってそんな制服なんですか?」

「そんなわけ無いでしょ! ただのコスプレ衣装よ」


 ただの――なんて言われても……ってかそんな格好で何で走ってんのよ。


「この格好で外走ると、色んな人にジロジロ見られるんだよね」


 じゃあ見てやろうじゃないの――ジロジロ……。


「きゃぁ、裕海ちゃんったらそんなにじっくり見ちゃって。なんなら中身も見してあげようか?」


 スカートの裾をつまみ上げかけた所で私はその手を押さえつけた。女子高生が街頭でスカートなんかめくるな。


「ところで裕海ちゃん、こんなところで何してるの?」

「試験勉強の気晴らし……」


 私は伸びをしながら答えた。


「姫華は何でよ?」

「私はアニメの真似を……」


 このアキバ脳が……。


「空気が綺麗だよね……」


 姫華が前髪を手で押さえ、少し身震いした。

 ……そんなフリフリの衣装なんか着てるからだよ。


「寒い……」


 確かに私も身体が冷えてきた。早く帰って温まろう――と思ったところで姫華に腕を掴まれた。


「温めて……?」

「姫――」


 言いかけ、振り返ったところで私は驚きに瞳を瞬かせた。

 姫華はベンチにうずくまり、身体をカクカクと小刻みに震わせていた。顔も白く、唇は真っ青だ。


「ちょっと! どしたの、大丈夫!?」


 私は姫華を抱きしめた。凄く冷たい、それに――、


「なんて薄い布地……」


 姫華の着ていた服は見た目は温かそうだが、触ってみると物凄く薄い素材だった。とてもじゃないけど、冬に着て外に出られるような物じゃ無い。


「えへへ……バカだね、私――」

「冗談言ってる場合じゃ無いよ!」


 私は姫華を抱え込み、一緒に走った。と言っても姫華はもう体温が下がりすぎて、とても走れる状態では無く、ほぼ歩く速度で公園から出た。


「大丈夫? 姫華、大丈夫!?」


 姫華は声も出さずにコクコクと静かに頷いた。目は半開きで、吐息は真っ白だった。


「頑張って! 姫華ぁ!」

「裕海お姉さん……。それに、お姉ちゃん!?」


 丁度公園を出てすぐのところで、厚手のコートに身を包んだ愛理ちゃんが、驚いた様子で駆け寄ってきた。

 良かった。探しに来てくれてたんだ……。


「裕海お姉さんは先に戻って大丈夫だと思います。お姉ちゃんの分のコートとカーディガン持ってきたんで、裕海お姉さんは早く帰って身体を温めてください!」


 的確な指示に私は関心しながら、愛理ちゃんに姫華を預け、私は急いで家に戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ