第三十九章:侵入者
灯たちが帰り、私はまた一人で漫画の続きを読んだ。が……読み始めた瞬間、愛理ちゃんの言っていた言葉と全く同じセリフが飛び出してきたので、私はなんとなく漫画を閉じた。
「そういえば、来週テストか……」
勉強しないと! と思うんだけど、お腹いっぱいお寿司とケーキを食べ、今日は疲れていたからか、私はそのままの格好で晩ご飯も食べずに寝てしまった。
「裕海お嬢様?」
私が目を開けると、ベッドの横に可愛らしいメイドさんが立っていた。――ああ、また妙な夢を見るようになったのか……と思い、私はボーッとその姿をしばらく眺めていた。
「起きました? ちゃんと歯を磨いて寝ないと虫歯になっちゃいますよ?」
あ、忘れてた。
私はハッと目が覚め、起き上がり歯を磨きに階下へ下りて行った。ついでにシャワーでも浴びようかと思う。
……ついでに言っておくと、もちろん目を覚ました瞬間、メイドさんは視界から綺麗に消滅していました。
食べてすぐ寝たせいか、なんとなく少し丸くなったように感じたが、そんな一日で変わるわけ無い! と自分に言い聞かせ、身体から湯気を立てながら部屋に戻った。
「お帰りなさいませ~」
私のベッドの上にメイド服を着た女の子が、身体をくねくねさせながら転がっていた。
私、まだ夢見てんのかな……。
「どこから入った?」
メイドさんは『ちゃらん』と左手で鍵を見せた。
「裕海ちゃんのお母さんに借りましたぁ……」
私は呆れと驚きと情けなさを感じ、後で母親に今後一切、他人に鍵を預けるな――と当たり前の事をキツく教え込まなくてはならなくなった。
「裕海ちゃんお風呂だったんだぁ……。もし知ってたら、偶然を装って一緒に入ったのになぁ……」
「お湯ぶっかけるわよ」
「でも今日は用件があって来たのよ」
当たり前よ、何も用が無いのにこんな夜中に入り込まれたら怖くて毎日ぐっすり眠れないわ。
「裕海ちゃんの通ってる学校の過去問もらえない?」
「? 定期テスト?」
メイドさん――の格好をした姫華は首をフルフルと横に振り、
「入試よ、私も新学期から裕海ちゃんの行ってる学校行くわ」
何を言っているのか、しばらく解らなかった。え? 受験問題の過去問をもらって、今から勉強して入るって言うの?
「一応、前の学校で単位はとってあるの。親の転勤が多いから一応そのへんは考えてるのよ」
そんな事考えるより先に、もっと常識を勉強して欲しいわ……。
「だからお願い、何でもご奉仕しますから」
言い方がよく解らないけど、まあ……別にもう使わない物だし、
「良いよ、今出すわ」
私が机に向かうと、後ろから姫華に抱きしめられた。
「この前の話……、考えておいてくれた?」
私は前を向いたまま、
「私は梨花のものだから」
「裕海ちゃんは裕海ちゃんのものだよ?」
姫華の声色が変わった。
「裕海ちゃんが選ぶの、氷室さんがよければそれでもいい――でも、私はいつまでも待つから……。例え一生振り向いてもらえなくても、私は裕海ちゃんの事を思い続ける」
姫華の腕が離れた。
「用件はそれだけよ……」
私は入試問題の過去問を振り向かずに渡し、手を使って出て行くよう促した。
「……待ってるから」
部屋のドアが閉まる音がして、私は振り返り鏡で自分の顔を見た。――こんな動揺してる顔……見せられないし。
私は悶々とした心を落ち着かせようと、科学の教科書をなんとなく眺めた。
その時私は重大な事に気付いた。
「ああ! 鍵返してもらって無い!」




