表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/132

第三十四章:宮咲姫華

 夜になるまで、私は本棚に並んだ少年漫画の単行本を少し読んでいたが、階下(した)から母にご飯だと呼ばれ、私は無駄に凝ってしまった肩を回しながら下へ降りて行った。


「晩ご飯何ー?」

「カキよ」


 カキ!?

 私はびっくりして食卓の上を見ると――楕円形のフライが何個かお皿の上に乗っていた。……ああ、そっちね。解ってた。――うん。


「明日、私出かけるから」


 母はカキフライを食べながら、脇に置いてあった手帳に何か書き込んでいた。


「社長さん、何かあったの?」

「なんか会食に行くから、その間留守番だって」


 どうでもいい事だから別に触れて無かったけど、私の母は二流企業の社長秘書をしている。――え? どうでもよくは無い?


「普段はいてもいなくても何も言われないのに……困った人だわ」


 愚痴をこぼしながらカキフライを口に入れるもんだから。……ああ、もう! フライのころもが食卓にこぼれてる!



 ---



 さっきの漫画の続きを読みながら、私は再来週のテストの事を考えていた。最近、ちゃんと授業聞いて無いから、どこが出るかさえあやふやなんだけど――。まあ、なんとかなるよね?

 私はベッドに転がりながらも、単行本のページをめくり――主人公が中ボスっぽいやつを倒している辺りで、私は眠気に負けた。




「んぁー……」


 私が目を覚ましたのは昼過ぎだった。もうすっかり明るくなり、日光が部屋中を照らしていた。


「ああ、今日梨花来るんだっけ……」


 枕元に置いてある携帯が光った。――メールかな……?

 メールに受信時間は朝の九時頃で、返信が遅れた言い訳を考えながら受信画面を開くと、


『ごめんなさい、急用ができたので今日は行けません 梨花』

「キスどうすんのよ!」


 思わず叫んだが、叫んだからと言ってどうこうなるものでも無く、外に聞こえると面倒な事になりそうだったので、私は深呼吸し――とりあえず朝――ブランチを食べることにした。



 バターだけを塗った食パンを黙々と食べながら、私は今日のキス相手の事を考えていた。……一番手っ取り早いのは姫華なんだけど、何されちゃうか分からないし。――たとえキスだけだったとしても、多分一回じゃ済まないだろう、へたすると一晩中くっつきっぱなしかも。

 明日持久走大会だから、あまり体力を使わないでおきたいし――霊能者さんとこが今日開いてるかどうかも知らない。


「どうしよっかな~……」


 玄関の呼び鈴が鳴った。誰だろう?


「は~い」

「裕海ちゃ~ん」


 姫華だった。とりあえず私は洗濯物などを別の部屋にしまいこみ、玄関のドアを開けた。


「氷室さんから頼まれたの」


 やけに嬉しそうな顔をした姫華が、そっと首筋にキスをした。


「今日は裕海の唇に一回だけキスをして良い……って」


 首から離れた姫華の表情はさっきの笑顔とは違い、獲物を見つけた獣のような表情をしていた。


「……ってことは、唇以外のところなら何回でもして良いって事だよね…

…?」

「え? ちょっと、きゃっ……」


 姫華は優しく丁寧に、私の首筋や耳、ほっぺたなどにゆっくりとキスを重ねていく。身体を這う姫華の手は、なんだか心が少しリラックスする感じがする。――力が抜け、大人しく姫華にされるがままになっていく。


「可愛いよ、裕海ちゃん……。凄く可愛い」


 姫華の舌が、首から耳にかけてを優しくなぞった。ゾクゾクする感覚が全身を襲い、正常な判断ができなくなってきた。


「っ……! 姫華?」


 目をツリ眼気味にし、姫華は私の耳に甘い吐息を吹きかけた。


「大人しく……して?」


 姫華のキスする場所が首筋へと下りていき――服をめくり、肩の辺りまで進出してきた。――そのまま少しずつ……二の腕、(ひじ)――手首へと……どんどん姫華の領域(ゾーン)ができていった。


「次は……」


 姫華は私を廊下に押し倒すと、洋服を胸のあたりまでペロンとめくった。

 普段なら抵抗するのに――。駄目、今日は力が入んない……。


「ここは初めてかな?」


 姫華は嬉しそうに私のお腹の上に顔を乗せた。そして……脇腹、腹筋を経て――おへそにキスをしたあたりで、姫華は小悪魔のような笑顔で私を見た。


「さて、問題――次にキスをする場所はどこでしょう……?」


 このまま下がっていったら。――駄目だよ、流石にそんなところ。

 姫華はまくっていた私の服を戻すと、スカートを少しめくった。舵手止めなさい、姫華ぁ……!


「この辺だったら見えないよね?」


 姫華は太ももの物凄く際どい部分にキスをした。

 それ以上下にすると、制服のスカート履いてる時キス跡が見えちゃうもんね……。


「裕海ちゃんがニーソックスとか履く子なら。もっと下の方にもできるのに……」

「姫華はそうなの……?」

「うん! 私ニーソっ()好き!」


 新しい言葉を聞いた。なんだそのニーソっ娘って!


「裕海ちゃんがニーソ履いてスカートの端っこ口にくわえて……。ベッドで甘~いポーズしてくれたら、私凄く嬉しい」


 あまりに突拍子もない言葉に、私はその情景を想像するより前に、


「お断りします」

「冷たいなぁ」


 姫華は私の身体に覆いかぶさった。変な間があるし――最後のキスかな。


「ちょっと(さび)しいけど、今日はもう最後にしようかな……」


 姫華は残念そうに私の唇にキスをした。――意外なくらい軽いキス、てっきり私は口中を舐め回されるかと思ったけど。


「裕海ちゃんは――」


 姫華はコクンと飲み込み、言葉を続けた。


「私とキスしたい?」


 これはどう言う意味でだろう。

 私が本当にキスしたいのは愛しの梨花ただ一人だけど、姫華とキスするのは今日体験して分かったけど――ちょっと嬉しいかも、まあ……感覚がマヒしてんじゃないかって言われればそうなんだろうけど……。


「私は裕海ちゃんの事が欲しい、身体的とかそう言う意味じゃ無くて、心から私の物になってほしい」


 遠まわしだけど、もしかしてこれって……。


「この言葉をどうとるかは、裕海ちゃん次第だから、返事はいつでもいい――ずっと後でもいい、でも……」


 姫華は玄関のドアに手をかけた。


「私が欲しい答えは、裕海ちゃんも分かってるよね?」


 それだけ言うと、姫華はつむじ風のように玄関から出て行った。

 私はスカートを半分めくられるという情けない格好で、しばらく廊下に一人で転がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ