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第三十三章:思い出

 放心状態の私を最初に発見したのは姫華だった。姫華は私の部屋に入ると、頭の中が真っ白になった私に、


「どうしたの? 裕海ちゃん」


 幼い頃の記憶が蘇った。ああ……昔も姫華が、私をこうして慰めに来てくれたっけ。


「姫華ぁ……! 梨花が! 梨花がぁ!」


 姫華は私の胸中をいち早く読み取ったのか、梨花の身体を揺さぶり、首に手を当てた。


「……?」


 姫華は首を傾げ、梨花の唇に手を当てた。


「息してるじゃん、気絶してるんじゃない?」


 私は姫華を突き飛ばし、梨花の左胸を押さえた。

 ――トクン……トクン。


「よ、良かった……」

「裕海ちゃんったら……。昔から全然変わってないね」


 姫華がクスリと笑い、


「ほら、昔も……」


 私は遠い記憶を辿(たど)っていった――

 思い出した。近所のお寺に遊びに行った時、ただ昼寝してただけのお坊さんを亡くなったんだと勘違いして、お寺の庭先に座り込んで号泣したんだっけ。


「確かあの時、死んだカエルとか池のカメとか、妙なもの並べて拝んでたよね」


 全部思い出しました。――カエルとカメとミミズとダンゴムシと、砂とキャンディの包み紙と、綺麗な石。

 とりあえず、そこら中にあった物を並べたんだよね――あの時の私は。


「裕海ちゃんは、昔から凄く優しい子だったよね――さっきのキスも、私を思って、氷室さんとキスしなかったんでしょ?」

「姫華……」

「でも、別に裕海ちゃんの事、諦めたわけじゃ無いからね?」


 え? 姫華……?

 一瞬気を抜いた――その一瞬を利用して姫華は私を押し倒した。手首を押さえつけられ、脚を絡められ――あ、ヤバいかも。


「裕海ちゃん……。いっぱい、可愛がってあげるからね」


 姫華の身体が密着し――顔が接近して来た。梨花とは違って――危ない色気を出す、絶妙な吐息を感じる。


「裕海ちゃん……」

「コラ! 人が気を失ってる間に!」


 いつの間にか目を覚ました梨花に、姫華は身体を掴まれ、姫華の身体が遠ざかった。……冗談でもキスを待つ顔しなくて良かった。



 梨花はしばらく頭がボーッとしてたようだけど、姫華がいる間は危険だって言って私の部屋にいた。

 明後日、持久走大会なんだけど、大丈夫かな……。


 なんだか走る前から疲れそうだと思い、今日は夜まで静かにそっとしておいて――と頼んだのだけど。


「夜中になったら……する?」

「明日の朝、色々準備して来てもいい?」


 とか、まともに取り合ってくれなかった。


「梨花は――明日も来て欲しい」

「キスだよね? 分かってる」


 梨花は任せなさい! とでも言うように胸をドンと叩いた。


「キスだったら、私がいくらでもしてあげるのになぁ――」


 姫華がペロリと唇を舐めた。

 本当にもう……。


「裕海の唇は私の物でもあるのよ、だから裕海とキスしたいなら私にも許可を得なさい」

 私の唇は私のだよぉ……!


「はん! 私なんて裕海ちゃんの成長前の身体を全部見たことあるんだか

ら!」


 そりゃぁ三、四歳の幼馴染なら一緒にお風呂入ったりもするでしょうよ。


「私なんて、裕海の発育後の身体をじっくり体験したわ」


 お願いだからもう止めてよ!


「もう止めようよ。……なんか中学生レベルの喧嘩になってるよ」


 主に内容が――何よ、発育後って。


「裕海ちゃん、私はもう大人だよ? 大人だから身体の付き合いもオッケーだよね?」

「宮咲さん、あなた分かってないわね……。裕海は身体を穢されるのが一番嫌いなのよ。思春期の男の子じゃ無いんだから、もっとプラトニックな――純愛を目指しなさい」


 なんか諭すように言ってるけど、あんな凄いキスしといて、プラトニックもへったくれも無いわ。


「何よ! 裸見たからって、偉そうにしないでくれる!?」

「裕海の身体は関係無いでしょ! さっきからなんでそんなに突っかかって来るのよ、あなたは」


 もし私が男の子だったら胃がキリキリ音を立てるくらい痛くなっているであろう、女の子同士の大喧嘩。

 こうなったらもう、張本人は黙っているのが身のためだ。

 灯もよく言ってる。君子危うきに近寄らず――だったっけ?


 私は梨花と姫華の小学生レベルの口喧嘩をしばらく黙って見ていたが、流石に疲れてきたので「続きは今度やれー!」と、半ば追い出すように部屋から出て行ってもらった。

 ――ああ、頭が痛くなってきた。

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