第二十五章:恥ずかしいメール
凄い、元気になった。昨日まであんなにボーッとしてたのに、今日はすこぶる調子が良い。
今日梨花に会えないって言うのが、ひどく悔やまれる。
「梨花に会いたいな……」
「~♪」
メールの着信音。私はメール内容を確認し、自分に本当に背後霊なる物がとり憑いているのか、改めて疑問に感じた。
『家族の買い物で近くまで来てるんだけど~ 何かいるものある? あったら買って行くよ 梨花』
凄い……嬉しい、私は風邪が治り、妙にハイテンションだったせいか、後で見返す度に悶えそうなイチャラブメールを送った。
『元気になったから、な~んにもいらない ……でも、梨花の事が欲しいかも……?』
送信ボタンを押してから、私は枕に顔をうずめ足をバタバタさせた。
――私の今の気持ち分かる人……いるよね? うん。
「ピンポーン」
メールを送って数分後、呼び鈴が鳴り、私は階下へと降りて行った。
「は~い」
ドアを開けると、顔を紅潮させ息を荒げた梨花が、待ちきれなさそうな顔で私を見つめていた。
「今日は思いっきり、して良いのね?」
私は両腕を広げ、その言葉に応じた。
「うん! 梨花……いっぱいして!」
その後は凄かった。廊下に寝転がって抱きしめ合いながら、愛らしい音を家中に響かせ、口中がねっとりするくらいお互いの口内を舐め回した。
脚を絡め合い、両手同士を握り――愛する一人の女の子だけを頭に浮かべ、私たちは身体も心も一つになった。
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「では、お邪魔しました」
乱れた服を整え、いかにも礼儀正しいお嬢さん――と言った風貌で、梨花は頭を下げ、おしとやかに帰って行った。多分私と同じで、頭の中はお花畑状態だろう。
――主に百合が咲いてると思う、辺り一面真っ白な百合の花。
でも気持ち良かった。身体的にって言うよりは、精神的に。――元気な状態で梨花とこれほどまでに愛し合えるのは、凄く――。
「あら、裕海、元気になったのね」
ドアがガチャリと開き、玄関で半ば放心状態だった私の目の前に母が登場した。
「わひゃぁ!」
妙な声を出し、飛び退いた。母はそんな私を特に気に留める様子は無く、
「そういえばねぇ、昔お隣に住んでた宮咲さん――今度こっちに帰って来るんですって」
宮咲さん? 遠い記憶を掘り出してみる。小学校に入るよりも前――お隣に住んでいた幼馴染が確か、そんなような苗字だったような――。
「姫華ちゃん!?」
「そうよ。ずっとこっちの隣は空家だったんだけど、転勤先から旦那さんが昇進して戻って来るんですって」
姫華ちゃんか~――。ちょこちょこ走る可愛い子だったなぁ……どんな風になったのかな?
「来週末には引っ越して来るそうだから、その時は一緒に挨拶に行かないとね」
「はーい」
返事してから思ったけど、そういうのって越してきた方がするんじゃ無いかな……。
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日曜日の朝、目覚めた私が考える事はたった一つ。
今日は誰とキスをしよう。
いえ、別に発情期だとかそう言うんじゃ無いんです。背後霊――そう、背後霊のせいで毎日キスしなくちゃいけなくて――別に? 女の子とキスしたくてしたくて我慢出来ないとかじゃ無いんですよ?
誰に対しての言い訳か分からなくなってきたのと同時に、私は本気でキス相手の事を心配した。
「どうしよう……。梨花の家までわざわざ行くわけにもいかないし……」
しばらく部屋をウロウロしていたが、私はある人を思い出し、髪を整え、制服を着て駅まで向かった。
「そのためにわざわざ来たの?」
保健室の先生は頬づえをついて、左手でボールペンをくるくる回していた。
「ええ……お願いです。私とキスしてください」
先生は少し戸惑っていたが、私があまりに真剣な表情をしていたためか、軽く、そっと唇を重ねてくれた。
シャボン玉が弾けるような、瞬きの時間だ。
「……これでいいのかしら?」
「ええ……多分」
どのくらいすれば良いのかは、私には解らないけど――。最初に霊能者さんとした時はこんなもんだったと思うし、大丈夫かな? うん。
「では、失礼しました」
私は肩の荷が降り、鼻歌などを歌いながら家へと帰って行った。




