第二十二章:メールでのキス
「あっ……梨花、駄目だよっ!」
「裕海、好きだよ?」
手錠と足枷を付けられ、壁に張り付けられた私は、素っ裸のまま梨花に襲われかけていた。
「裕海……」
色っぽい声を出し、私の身体を指先で撫でた。何かすることが梨花っぽく無い気が……いや、普段の梨花か?
「いっぱい可愛がってあげるわ」
梨花に色んな所を触られ、未知の快感に身をゆだね――ああ、このまま私たちだけの世界で……時が止まってしまえば良いのに――。
「ジリリリリリ……」
私は目覚ましを止めた。どうやら時は止まってくれなかったらしい
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「おはよう、灯」
「裕海ぃ! 昨日はどうしたの? ずる早退?」
私はこっそりと頷いた。灯は少し困った顔をしていた。
「大変だったんだよ。委員長さんと裕海、何か関係あるんじゃ無いかって言い出したバカがいてさ~」
「バカとはなんだよ」
突然の来訪者に、私は心臓が止まりそうになった。
「倉橋君!?」
「だって倉橋君じゃん、そう言ったの」
倉橋君は頭の後ろをかきながら、私を横目でチラリと見た。
「この間委員長と蒔菜さんが一緒にいたからさぁ……」
別に恋する相手では無いけど、やっぱ近くにいると少しドキドキする。
「倉橋君、よしなよ」
遠川さんまでやってきて、何か三人で言い合っていたが。――とりあえず私の席以外の所でやってよ。
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「じゃあ、私行くね?」
昼休み。灯もいつも通り教室を出て行った。さて、私も……。
「蒔菜さん」
この声は遠川さん? 私に何か用かな。
振り返るともう一人、驚愕の人物がいた。
「倉橋君!」
倉橋くんが隣で声は出さず、手だけで挨拶する。
さりげなく放たれた微笑は殺人的だ。
「今日一緒に食べない?」
あ、でも私は。
「蒔菜さん」
梨花が冷徹な表情で私を呼んだ。
「あれ? 委員長さんも一緒に食べますか?」
梨花は少し戸惑った様子だったが、静かに髪をはらい、
「たまにはそういうのもいいかもね」
珍しい四人で、昼ごはんを食べる事になった。教室の後ろの方に机を並べ――遠川さん、倉橋君が窓際、私と梨花が反対側に座った。
「ほら、倉橋君あ~ん」
「バッ……今日はやめろよ」
へー――、普段こんなにイチャついてるんですねー……。別に関係無いけど、こうあからさまに目の前でやられると何かイラッと来る。
「~♪」
メールの着信音がした。灯かな?
携帯を開き、受信先を見ると――梨花!?
私の隣に座った梨花は上品に黙々とお弁当を食べている、あれ? 勘違い、かな……?
メールを読むと、不可解な事が書いてあった。
『携帯の着信音切って頂戴 梨花』
何でだろ? とりあえず私は音を消し、開いたままにしておいた。
『突然ごめんなさい、キスしないでご飯食べるとどうも落ち着かないから……しましょう?』
「ふえぇぇぇぇ!?」
思わず叫んでしまい、一瞬色んな方向からの視線を感じた。
『違っ……バカぁ! メールでキスするの、試しにやってみるわね』
梨花を横目で見ると、左手を器用に胸の下に隠してメールを打っていた。
『裕海ぃ、ちゅぅぅぅ……、んっ……、んっ……』
私は思わず吹き出しそうになった。――だけど梨花は顔を赤らめ、真剣な顔でメールを打っている――私もやってみようかな。
『んんっ……梨花……梨花ぁ……!』
「へぷっ……!」
梨花が顔を背け、身体を震わせた。どうやらむせたらしい
『裕海裕海裕海裕海ぃ――!』
危なかった。何か口に含んだ瞬間だったら、遠川さんに吹き出すところだった。
『裕海、凄くドキドキしてる。可愛いよ』
思わず私は自分の胸を触った。――本当にドキドキしてるよ。
『可愛いよ、梨花……ちゅぅっ……ペロペロ』
梨花は黙ったまま下を向き、身体をカクカク震えさせた。最後のはちょっと余計だったかな……?
「梨花ちゃん、どうかしたの?」
「いえっ……別に何も?」
必死に平常心を保とうとしているようだけど、目は鋭いのに凄く嬉しそうに頬が緩んでいる。バレバレだよ?
『今の梨花凄く可愛いよ……もっといっぱいキスしてあげるね?』
『ゴメン……もう無理っ――続きは放課後しよっ……!』
梨花の返事を読んだと同時に、梨花は机に突っ伏してしまった。
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「ごめん、調子に乗りすぎた」
「やりすぎよぉ! もう……」
梨花は顔を真っ赤にさせて起こっていた。――一応言っておくと激怒してるんじゃ無く、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい照れながら、怒ってる振りをしてるだけだけど。
「今日という今日は許しません! 今からメールと同じことを私にしなさい!」
「可愛いなぁ、ツンデレさんっ」
梨花の顔がさらに赤くなってきた。――あ、鼻血が。
「裕海が変なこと言うからっ……!」
鼻を押さえながら、必死に冷徹な目をしようとしている――そう言うところが可愛いんだよなぁ。
「梨花……」
「何よ裕海……」
口ではそんな事言ってるけど、顔は期待でいっぱいの表情をしてるし、梨花の唇だって、私を誘ってるのなんか丸分かりだよ?
「そんな口しなくても、いっぱいしてあげるよ……?」
「前置きはいいから、さっさと始めなさいよぉ……」
梨花は口を尖らせ、目を少しそらした。――今だ!
梨花の柔らかい唇に舌を入れ、届く範囲を舐め回した。梨花は時々、気持ちよさそうな声を出し、大人しく私の舌を包み込んでいた。
「んくぅ……」
トロ~んとした目で見つめる梨花、ああ――私も無抵抗でキスされたいなぁ。
「裕海、して欲しそうな顔してる……」
梨花は私の意思を読み取ったのか、少し深呼吸してから私の唇をねっとりと舐め回した。
「んんっ……!?」
言葉では言い表せないような、恐ろしい程の心地よさ――大好きな人の手によって、私の唇は徐々に梨花色、梨花味に染められていった。
「んっ……んー!」
梨花の舌が少しずつ口の中に侵入してきた。普段ならガバっと来るのに――今日はゆっくり、ゆっくりと梨花の舌が私の口内を襲っている。
梨花の片手が私の胸に触れた。どうやら学校だという事を忘れているらしい。
「んみゅっ……りぅ……りっ……」
梨花に声をかけようにも、口を塞ぐように梨花の舌が絡みついているせいで声が出ない。
梨花はとうとう自身の制服を首元までまくり上げると、色っぽい目
つきになりながら、私の制服もまくり始めた。
「んっ……んー! んんー!」
学校でこんな格好にされるなんて。
梨花はそんな事お構いなしに、全開になった柔らかい素肌で抱きしめてくる。
「んんっ……んぅん……!」
ヤバい、気持ちよすぎて意識が……こんな所でこんな格好してるってだけでもドキドキが止まらないのに、大好きな梨花に抱きしめられて、愛らしくも攻撃的なねっとりとした舌で口を塞がれていると言う――。
もう、限界……。
私は気持ちよさのあまり――梨花の目の前で、それも凄く恥ずかしい格好で、気を失ってしまったらしい。