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第二十一章:ずる早退

 梨花の手をとり、私はずる休みならぬずる早退をした。誰も帰っていない時間にこうして梨花と二人っきりで帰れるなんて、凄く今日は特別な日と言う感じがした。


「裕海ぃ……、私もう我慢出来ないよぉ」


 梨花はさっきから身体をくねくねと私に押し付けてくる、あんまりやると私も限界来るから止めて、とも言えず――ただただ悶々と梨花の柔らかい身体の感触を腕に吸収していた。


「裕海ぃ……裕海ぃ……」


 名前を呼ばれる度、さっきから凄くドキドキする。

 もうこのまま梨花を連れて帰って、一晩中イチャイチャしていたい――なんて妄想が頭の中をよぎった。


「あ、漫画喫茶だって」


 梨花が指差した先には確かに漫画喫茶があった。でもこんな時間に高校生が入ったら、怪しまれるだろう。


「そこは大丈夫」


 梨花はメガネを取り出し、私を見て悪い笑顔を見せた。





「じゃ、突き当りの部屋使って下さい」


 梨花はメガネを外し、ふぅっと息を漏らした。凄いわ、梨花。


「流石でしょ?」


 梨花がメガネをかけ、真剣な表情をすると、超真面目な優等生――に見える(実際そうなんだけど)、だから誰も、学校をサボって来てるとは思いもしないようだ。


「ここなら個室だし、別にアレな事するわけじゃ無いから問題無いんじゃない?」

「う~ん……」


 梨花は嬉しそうに張り紙の注意書きを指差した。


「ほら! 異性間(いせいかん)でのわいせつな行為は堅く禁ずる、だって!」


 あ、何か今日の梨花は、良い意味で性格が悪く見える。




「何か読みたいのあるの?」


 梨花が割と大判の、そこまで汚れていない漫画を数冊持って部屋に入って来た。表紙は可愛らしい女の子が描いてある物ばかりで――ちょっと意外だった。


「梨花ってそう言う絵の漫画読むんだ」


 ちなみに私は少年雑誌とかの王道バトル漫画が好き、超能力とか出てくる冒険物とか。


「よく見てみたら?」


 私はその中の一冊を手にとり、少し読んでみたが――二、三ページ捲ったところですぐ本を閉じた。


「りっ、梨花? これって……」

「百合漫画~」


 梨花は顔を赤らめ、まるで宝の山を見つけたような表情で漫画を読み始めた。


「凄いよね、この漫画なんか出てくる子、みんな百合っ娘だよ」


 百合少女、リリー学園……タイトルとかもはやそのまんま過ぎるけど、気になったのでちょっと読んでみた。

 出てくる()、出てくる娘、可愛くて魅力的だ。

 どうやらこの漫画では、挨拶がキスって世界観らしい。


「まるで私と裕海の世界みたい……」


 ヤバい。不意を突かれ、時が止まった。


「ちょっと、変なこと言わないの」


 そう言いながらも、私はさっきから梨花とのキスの事しか考えて無かった。

 クリスマスの夜にプレゼントが置いてあるかを何度も起きて確認する子供のように、さっきから梨花をチラチラと見ていた。

 そんな私の視線に気づいたのか、梨花が色っぽい目つきをして近づいてきた。


「そんなに見つめちゃって……したいのね?」


 思わず私は首を思いっきり縦に振り、首肯してしまう。

 ――した後で思ったけど、私ったらそんな必死に主張して、恥ずかしい。


「じゃあ、次は私が攻める方ね?」

「へ?」


 私は壁に背中をくっつけ、梨花が両腕で私の横の壁を押さえた。さっき梨花が持ってきた百合漫画の扉絵にも似たようなポーズがあったけど……。


「逃がさないわよー」


 そう言うと、唇を一舐めして私の唇を塞いだ。と同時に舌も入って来て、梨花の味が口いっぱいに広がった。


「んんむ(裕海も)」


 そう言われ、私も舌を突っ込んだ。何か普段とは違って、少し押さえつけられてる感があるのは気のせいかな?

 音がしない……流石にキスの音がしたらまずいからか、梨花は唇をひと時も離さず、口の中で舌だけを躍らせていた。

 私は背後に壁があり頭を離す事が出来ないので、実質この状況――キスの主導権を握っているのは今回は梨花らしい。


 少し苦しくなってきた。普段ならここで「ぷはぁっ」などとするのに、今回はそれが出来ない。下手すると、さっきより壁に押し当てられてるような気も――。

「んっ……、んっ――――んっ!?」


 絶え間なく注がれる梨花の愛。嬉しいんだけど――ああ、意識が朦朧としてきた……。


「んっ……ぷはぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 ようやく唇が離れた。満足そうに顔を紅潮させた梨花の顔はやっぱり愛らしく――凄く色っぽい。


「ごめん、苦しかった?」


 梨花に頭を撫でられ、自然と頬が緩む。


「ううん、大丈夫――ねぇ、もう一回しよ?」


 梨花に押さえつけられるようにもう一回、今度は苦しくなったら合図する約束。でも、苦しくても梨花とのこの時間をもっと長い時間過ごしたい……そう思ってしまい、


「えへへ……」

「ちょっと! 裕海、大丈夫!?」


 私は危うく死にかけた。世界で最も幸せな、キス死で。



 ---



「じゃ、また明日」


 私は碧町、梨花は南町へと帰るため改札付近で別れた。口の中いっぱいに幸せを感じながら、私は電車で音楽を聴いていた。


「あれ? 裕海じゃん」


 顔を上げると懐かしい顔が視界に入った。


由美香(ゆみか)!」


 小学から中学まで一緒だった友達だった。確か名前が似てるって理由で、初めて話したんだっけ。


「誰?」

「えへ~、久しぶりに会った友達~」


 背が高い割とイケメンな男と一緒にいた。もしかして……。


「彼氏?」

「ピンポ~ン」


 由美香は彼氏さんの腕を抱きしめた。嬉しそうだけどどっちも照れ無いから、もう長いのかな……?


「入学式で告った」

「早っ! 由美香らしいけど」

「あっという間だったよね~」


 由美香が彼氏さんの胸の辺りを突っついて、仲良しさをアピール。もし私と再会するのが二週間程早かったら、多分私は家で落ち込んでいただんだろうな。


「次はー――」

「ああ、あたし降りなくちゃ。じゃね、裕海っ!」


 降りていく由美香に手を降りながら、私は少し考えていた。――これからもずっと……梨花と一緒にいられるのだろうか。

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