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第十九章:理解者

 朝の嫌な予感的中! 数学のノート出せと、朝からお説教くらった。

 私は朝から嫌な気分で教室に向かった。

 だが――本当の嫌な予感はこの次の事だったらしい……。



 教室から顔を手で覆った女の子が、駆け出して来た。すれ違う時に一言だけ声が聞こえた。


「――ごめん」


 梨花!? 振り返ったが女の子の姿は無かった。私は何が起こったのか、教室に飛び込んだ。


「うそ……」


 それは梨花にとって、私が感じたよりも多分――地獄だっただろう……。


「ひどい……、誰がこんなこと」


 黒板に大きな字で、委員長は同性愛者だ。と書かれていた。私は身体が震え……立っていられなくなった。梨花がこれを見たときの絶望感を考えると――私は身体を動かすことは出来なかった。


「何これ……」


 後ろから灯の声がした。


「どうしたの!? 裕海、身体でも悪いの?」


 灯は私を凄く心配してくれた――でも、私は今心配される立場じゃ無い……梨花を、梨花を……。


「ごめん、灯。――鞄、机に置いておいて」


 私はそれだけ言い残すと、教室から飛び出した。


 


 梨花は多分、屋上か保健室にいる。保健室なら先生がいるから大丈夫だと思うけど――もし、屋上だったら――今の梨花の精神状態のまま放っておいたら――。

 涙がボロボロこぼれてくる、悔しさか悲しさか――多分両方だと思う。

 私はスカートがめくれることも気にせず、階段を二段飛ばしで全速力で上った。



「梨花ぁ~!」


 屋上の金網に寄りかかっている梨花を、後ろから精一杯の愛を込めて抱きしめた。


「駄目だよ! 死んじゃ駄目だよ!」

「離して……! このままじゃ、いずれ裕海も私と同じ目に遭う……そんなの私絶対嫌だよ!」

「梨花が死んじゃう方が嫌! ずっとずっと梨花のそばにいたい! 好きな人と一緒にいたい! 当然の事じゃん!」


 梨花の抵抗する力がだいぶ弱くなった。少し落ち着いたらしい。


「裕海……、裕海ぃ……」

「裕海……! それに委員長さんも!」


 灯が息を切らせて、屋上に出てきた。しばらく息を調えるまで少し待った。


「はぁっ……はぁっ……。一応先生には――二人は体調不良で保健室に行きましたって言っといたからっ――ゲホッ……!」



 ---



 灯の言い訳のおかげで、私は梨花を保健室に連れて行く口実が出来た。私たち三人は保健室でとりあえず、心を落ち着かせる事にした。


「突然割り込んできてゴメン――どうしたの? 裕海、何で委員長さんを追って屋上まで行ったの?」

「…………」

「私たち親友だよね? 少なくとも私はそう思ってる――入学してから。ずっと裕海のことを親友だと思って接してきた」


 灯は下を向いた。


「だから――。何で委員長さんばっかりといるのか、それだけでも知りたいの――私の何がいけないのか……。それが解らないと、私だって裕海とか委員長さんに辛く当たりたくなったりするでしょ!」

「灯……」

「裕海……答えてよ、黒板の事は本当じゃん――私だって見たことあるもん……何でそれで裕海が心を痛めるの? 友達だから? 委員長さんの方が、私よりもずっとずっと大切だから? そういうこと!?」

「恋人だからよ!」


 梨花の絶叫が保健室に響いた。


「裕海は私の恋人なの、大事な大事な私の愛しい恋人なのよ!」


 灯は驚愕の表情で私を見た。未知の生物でも見るような目つきで、私の前で視線を上下した。


「裕海、裕海もなの? 裕海も――委員長さんと同じで……、女の子を恋愛対象として見るの?」

「私は……」


 背後霊のせい? 違う、キスしたら気持ちいいから? それもあるけど違う! 女の子が好き? そうじゃない!


「私は、好きになった人が、女の子だったの……」


 言葉を考えながら、話を続けた。


「梨花が好き、女の子だからとかじゃ無く、単純に梨花の事が好き。ただそれだけ――灯の事はもちろん親友としては好き。でも梨花は……、一人の女の子として、大切な恋人なの」


 灯は複雑な表情で私を見た。――軽蔑されるかな、嫌われるかな――それでも私は間違った事は言ってない。

 最初はキスのためだったけど――今では梨花無しでは生きていけない……!


「この前……。裕海が言った事、考えてみたんだ」


 灯は思い出すように、口の端を指先で引っ掻いた。


「女の子が女の子を好きなのはおかしいのか? って、言ってたよね。最初は、私も裕海の言葉が信じられ無かった。何でそんな事言うの? って――でも、私はそういうのほら……、解らないからさ――間違ってるかもしれないけど、私だって文田君の事――可愛いところが好きになったじゃん? やっぱ女の子って、可愛い子好きなんだよ――抱きしめたくなるって言うの? もちろんそれが恋に発展するってのは極稀な事なのかもしれないけど。裕海の言ってた、青春したいんじゃ無いかって言葉――私も、理解出来るようにするよ」

「灯……」

「理解までは行かなくても――親友の裕海の事を信じなくて、何を信じるのよ! その裕海が愛した人でしょ? ごめんなさい、委員長さん。……その、気持ち悪いだなんて言って……」


 梨花は複雑そうな顔で頷いた。まあ、完全に和解するのは無理かもしれないけど……。灯に軽蔑されなかったのは、本当に良かった。

 また一つ、胸の奥のモヤモヤが消えた気がする。



「この際、誰が書いたかは別に良いわ。……どうせ気づいてた人は、いたんだから」


 梨花は少し落ち着いたらしく、先生に寄り添いながら座っていた。

 その相手は私がやりたいのに……! と思ったが、心に思うだけにしておく。

 私はそんな嫉妬深い人では無いんです。


「前の席の方の女子グループもたまに言ってたし――男子では無いと思うけどね」


 灯は私の隣に座っていた。とりあえず灯との関係は修復出来て良かったと思う。


「ほら、氷室さんは私が見てるから――二人は教室戻んなさい! 何か聞かれたら適当にお茶を濁しときなさい」


 先生に促され、私と灯は教室に戻る事にした。

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