第十八章:嫌な予感
「ふへぇ……」
朝、私は全身が筋肉痛だった。
何やったかって? 昨日の通り、いくとこまでいきました。梨花の舌使いが……その、破壊力抜群だったってことだけで良いですか?
「あ~……裕海」
母はまだ帰って無いようだった。こんな姿見られたら大問題だけど。
お互いに何も身に付けず、ベッドの上に座り込んだ。頭はボーッとするけど、梨花が誘ってるのは良く分かった。
「まだ元気なの……?」
「私はまだ満足してないよ?」
梨花は私を抱きしめ布団をかけた。一晩中ほぼ休みなしでされるがままにされて、しかも結構激しいキスを朝っぱらから――もう私限界……。
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「ただいま~」
母が午前様なんて珍しい、どこか泊まって来たのかな……?
訝しげな視線をジトっと送っていると、母は私の意図することを把握したのか、
「大丈夫よ、女友達の家に泊まっただけだから……女同士じゃ何か起ころうにも起こせないでしょ……!」
「ブッ!」
梨花がコーヒーを吹き出した。幸い母にはバレなかったようだ。
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「梨花、今日帰っちゃうの?」
「ん~……。どうしよっかな~」
梨花は荷物をゴソゴソとあさった。
「一応月曜まで泊まれる用意はしてきたんだけどっ――裕海の身体が持つかな~?」
いたずらっぽい表情に、私は思わず目をそらした。昨日の事思い出すと……、
「もしかして――迷惑?」
「違うっ……! むしろ一緒に暮らしたいくらい!」
「同棲か~……考えておこうか?」
「えっ……いえっ――そのぉ……」
「クスっ……冗談だよ」
何だろう、学校外での梨花は凄く明るくて可愛い……どうして――普段は仮面をかぶっているんだろう……。
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「あっ……! むぐっ」
「今日はおばさんいるんだから、声出しちゃ駄目よ」
梨花と同じ布団で寝ると、毎度のように襲ってくる――最初は舌突っ込んで来て……全身を舐め回すように撫でて――、
「んんーっ!」
梨花の触り方は、何ていうか……経験無いせいかもしれないけど、凄い的確に狙ってくるから――突然の快感にどうしても声が出る。
逆に梨花は抱きしめても撫で回しても、絶対そう言う事は無い。
まあ、それ以上のことをするわけではないから、別にどうってことでは無いんだけど。
「流石に私もここまでするのは初めてだけど……裕海って感じやすいよね?」
「言わない! そう言う事ぉ!」
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日曜日だ。
何かこの週末はあっという間だった。
長く感じたけど、梨花と付き合い始めて、まだ一週間ちょっとなんだ。
凄くたくさんキスしたけど――背後霊はどんな状況なんだろう、毎日最低一回ってことは、別にたくさんしたからと言って弱まるわけでは無いのだろうか。
「裕海ぃ……、どうしたの?」
「ん~? まだ梨花と付き合って一週間ちょっとしか経って無いなぁって――」
「そっか、もうそんなになるっけ……」
私とは感想が違うなぁ。
「凄くあっという間だった。――それに、こんなに長く付き合ったの……遠川さんを除くと裕海が初めてだから」
遠川さんとは、長かったのかな。
「遠川さんとは――どこまでいったの?」
「海」
「違っ……!」
「キスまでだよ、舌入れたら怒られた。一ヶ月ちょっと付き合ってたけど、遊びに行ったり一緒に勉強したり……普通の友達みたいな感じだったし」
梨花は遠い目をした。
「だから裕海が私を受け入れてくれた時は嬉しかった。改めて言うね、ありがとう――裕海」
胸の奥がキューっとした。今の言葉が嬉しかったからか――最初は梨花を騙していた事に対しての罪悪感か、私にも分からなかった。
月曜日の朝、私は普通に登校した。梨花は昨日の昼過ぎに家に帰って行った。一応お別れのキスとか言って昨日の分は済ませました。こんな時でも背後霊の事考えてる私って、やっぱ良くないのかなぁ。
「寒っ……!」
肌を貫くような突然の木枯らしに、全身が震えた。
……何か嫌な予感がする。




