第十五章:目撃者
「おはよ~……」
「あっ! 裕海、ちょっと来て!」
教室に入るなり、灯は私をトイレへと連れて行った。
「何?」
「見ちゃったのよ。……昨日」
灯は特ダネを掴んだ新聞記者のような表情で私の耳元で囁いた。
「昨日委員長さんが女の子と抱き合ってるところ――見ちゃったんだ!」
やっぱりそれか……。
「相手の顔は分からなかったんだけど、スカートだったから絶対女の子、百歩譲って女装少年かもしんないけど、それでも変でしょ!」
「…………」
「やっぱ遠川さんと派手に遊んだってのは本当だったらしいわ! 委員長がレズっ子なんてそんなスクープ――」
「ねぇ……」
私は勇気を出して聞いてみた。
「女の子が女の子好きなのはおかしいの? 男の子が男の子の事そう言う目で見るのって変な事なの?」
「裕海……、どうしたの?」
私は心臓が飛び出しそうな程、緊張していた。あんな事言われたって……。灯は私の大事な友達だから――嫌われたりするのは絶対に嫌。
「委員長さんだって、好きで女の子とベタベタしてるんじゃ無いかもしれないじゃん、男の子にトラウマある子だっているでしょ――そういう子だって青春したいって思うことはあると思うんだ」
「裕海は……私より、委員長さんの肩を持つの?」
違う……、そうじゃなくて。
「ふふっ……。どうせ私ばっかり彼氏作ってひがんでるんでしょ――そうよね、倉橋君も彼女さんとの関係戻ったみたいだし」
倉橋君は関係無い!
「良いわ、委員長さんとベタベタしたいんだったらしてれば良いじゃない! ――しばらく近寄らないで」
灯はそう言い捨てると、さっさと出て行ってしまった。
「あ~! ――言い方が悪かったかな……」
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「なによ委員長さん委員長さんって! 私の気も知らないで……」
双海灯は立ち止まり、携帯の写真を眺めた。入学当時に一緒に撮った――初めて蒔菜裕海と出会った時の物だった。
「私だって――親友として裕海の事大好きなのに……」
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昼休み、灯は私の席には来なかった。私は梨花にメールを送り、別々にいつもの場所へと向かった。――梨花が昨日の事が凄くトラウマらしく、他に人がいるときは話しかけ無いで――と言われたのだ。
「梨花、いる?」
「ごめ~ん、遅れた」
今日はパンを持った梨花が、いつもの通り鍵をかけ死角に座った。
「昨日はごめんなさい……」
「大丈夫、気にしないで」
「でも私のせいで、」
「裕海」
梨花は強い口調で言った。
「昨日は私の心が弱かったのが原因よ、裕海は気にしないで――それと昨日待っててくれて、凄く嬉しかった」
梨花……。
「それと――今日もして頂戴」
「へ?」
強い口調だったから危うく聞き逃すところだった。
「だからぁ……今日も――」
梨花は顔を赤らめた。――してあげるに決まってるじゃん。
「梨花……?」
「なっ。……何かしら?」
梨花は照れ隠しか、クリームパンの端っこを口に放り込んだ。
「大好き!」
次の瞬間私はもう我慢出来なかった。梨花にキスして、舌突っ込んで――。
「ぷっ……はぁ! はぁ……!」
梨花は驚きのあまり、凄い表情をしている――普通思わないよね食べてたもの吸われちゃうなんて……。
「裕海……お下品!」
「ごめんごめ~ん」
「許しません! 罰として裕海もこれ、食べなさい」
「ただのクリームパンだよね――」
口に入れた瞬間、梨花にキスされ――、
「お返し――」
これは……。これは、やられて気付いたけどヤバい……。
「梨花……」
「何?」
「汚いね」
「裕海がやりだしたんでしょ!」
呆れた顔で見られた。
――まあ……でもこれで、昨日のことは忘れられるかな……?
「はふ……ぷはっ……」
時間いっぱいまで抱きしめ合って、キスしてた。気持ちよすぎて他の事が頭から吹き飛び、目に入るものはトロ~んとした表情の梨花だけだ。
「そろそろ戻らない……?」
「ああ――立てなくなった……」
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放課後も灯はすぐ、教室を出て行った。しばらく席に座って小説を読んでいると、トントンと肩を叩かれた。
「裕海、みんないなくなったよ」
梨花は、待ちきれないと言った様子で身体をくねらせていた。私は無言で頷き、高揚する気持ちを抑えながら屋上へと向かった。
「寒いけど……誰もいないね」
「じゃあ――早速やっちゃおうか」
私は制服をめくり、胸の下あたりで結んだ。梨花もお腹を丸出しにし、私と身体を密着させた。
「温かい……」
「裕海の体温……」
真っ平らで綺麗な梨花のお腹。
普段抱きしめても邪魔する布地が無い分――梨花をより近くに感じ、体温や感触ををたっぷり感じる事が出来る。
「梨花のお腹……綺麗」
「裕海のお腹も柔らかいよ」
「それ、褒めてんの!?」
もちろんくっつき合いながらも、キスは続行――背中がちょっと冷えるけど、そんなこと気にならないくらいに心はポッカポカだった。
「ぷはっ……」
「今回は長かったね」
「時間経つの……忘れちゃった」
身体を離すと恐ろしい程の寒さに襲われ、私たちは制服を戻すと急いで屋上から出た。
「はぁ……! 寒かった!」
「ヤバい……身体冷えたかも」
またやってみたかったけど、これからどんどん寒くなっていく季節にしたら、身体を壊すので――次は室内かな?
「ねぇ……裕海」
梨花は腰を摩りながら私を見た。
「今週末、裕海の家泊まってもいい?」
「別に良いけど――何かあった?」
梨花は顔を赤らめ、人差し指で私の唇をなぞった。
「ずっと一緒に……」
身体が良い意味でゾクついた。――ヤバい、明日の授業ちゃんと聞けないかも……。