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第十三章:絶望

 放課後、灯は部活に行ったため、私は梨花の席へ行った。


「り~んかっ!」

「あ、裕海……」

「行こ!」


 一瞬だけその冷たげな表情を輝かせたが、梨花は残念そうに首を振る。


「ごめんなさい。委員長の集まりが出来たから、今日は遅くなっちゃうの――だから先に帰って良いよ……」


 梨花は感情の無い表情に戻り、筆箱と手帳を持って教室から出て行った。

 窓の外を見ると暗く、今にも雨が降りだしそうだ。

 

「少し、待ってようかな」



 ---



 静かな教室で一人で勉強していると案外集中出来る。

 家に帰ってやろうと思っていた分が全部終わり、この上ない達成感を感じた。


「あ~っ! うわっ! もう二時間も経ってる……。梨花、遅いなぁ……」


 張りつめていた集中が途切れ、途端に耐え難い眠気が襲い掛かる。

 少しくらいなら、腕を枕にしてても大丈夫だよね。


「梨花ぁ……」


 仄暗い教室に、電気の切れかかった蛍光灯の光がおぼろげに降り注ぐ。

 その薄い光を瞼越しに感じながら――私はそのまま自分の席で眠ってしまった。



 ---



 轟音のような雷鳴で私は目が覚めた。

 ヤバい! あれから寝ちゃったんだ! 雨もざんざん降りだし――。もう最悪!


 眠ってしまったという現実から逃避するように、窓の外を汚す灰色に文句をぶつける。

 電光と飛沫を撒き散らす天候を恨めしく思いながら、わめくように荒れた雨雲を眺めていると、


「え? 裕海!?」


 梨花が教室に入ってきた。


「え? 何で? 先帰ってて良いって……」

「待ちたかったの――と言うより、梨花ともっとしてから帰りたかった」

「もぅ……裕海ったら」


 梨花は仕方なさそうな声を――顔は嬉しさを必死に隠すような表情で――私を後ろから抱きしめた。


「今の私はちょっと激しいよ?」

「梨花にだったら――、ううん、梨花にしてほしい」

「そっか……」


 梨花に手を取られ、窓際に寄った。


「雷の中するってのも良いかもよ?」

「え~怖い~」


 わざとらしいイチャラブトークをして、私は梨花の胸に飛び込んだ。


「梨花……大好き!」

「裕海……いっぱい可愛がってあげるよ?」


 梨花は私の頭に腕を回した。梨花の声が(かす)かに聞こえた。


「これなら怖く無いでしょ?」


 梨花との甘いキス……優しく、何度も――耳を塞がれてるから音はしないけど、……多分いっぱい愛らしい音がしてると思う。


「んっ!」


 梨花の舌が入ってきた。そろそろ本番ってことかな……?

 梨花の甘~い舌を堪能しながら、私自身も梨花の口中を自分色に染めていった。


 梨花っ……! 梨花梨花梨花梨花梨花ぁっ!


 頭の中は梨花でいっぱいになり、溢れ出しそうであった。こんなにも愛しくて大切な人とこんな素敵な時間を過ごせるなんて――梨花を待って良かった。


「はっ!」


 梨花が突然腕を離した。でも頭は押さえつけ、動かせない。


「委員長、さん?」


 灯!? 思わず声を出しそうになったが、梨花は私の顔を身体に押し付け、声を出させないようにしている。


「委員長……。誰ですか? その人」

「答える必要があなたにある?」


 感情を込めない――強気な梨花の声。見えないけど、多分表情は冷たく――人を刺すような視線をしていると思う。


「そうやって……、もし裕海に手を出したら許しませんから!」


 灯は、私だって気づいていないのか。梨花――まさか私を見えないように()いてる!?

 胸の辺りが苦しくなってきた。梨花……! 


「気持ち悪いですね……委員長」


 梨花の腕の力が抜け、ドサリと座り込んだ。恐怖と――驚愕を同時に体験したような……この世の終わりのような顔をしていた。目は虚ろで焦点も合わず、半開きになった口からは何かを言おうとしていたが――。


「あ――あ……」


 何かを言う事も出来ず……呼吸音も聞こえなくなった。


「梨花!」


 振り返ると灯の姿は無かった。言いたいことだけ言っていなくなるなんて……なんて人!


「梨花ぁ!」


 梨花はそのまま気を失ってしまった。私は梨花を抱きかかえようとしたが……無理! 私の力じゃ……!


「どうしたんですか!?」


 遠川さんが小走りで教室内に入ってきた。


「梨花が――梨花が……」

「先生か男子呼んでくる! あ! 倉橋君!?」

「あれ、遠川さん? どうしたの?」

「倉橋君! 委員長さんが!」


 倉橋君は梨花を抱えると、小走りで教室を出た。


「二人とも! 荷物とか持ってきてくれ!」


 遠川さんと私は梨花の荷物を持って倉橋君についていった。




「先生!」


 保健室には幸い先生がいて、私以外の人は帰って行った。二人とも何があったのかは聞かず、お大事に――とだけ私に伝言していった。


「一応聞くわ、蒔菜さん。何があったの?」


 私は言えなかった。動揺して頭の中が真っ白なのもあるが、どこまで喋っていいことか解らなかったからだ。


「氷室さんがそう言う子なのは知ってるわ」


 保健室の先生はペンを持って、脚を組んだ。


「前に相談されたの――自分は変なのかって」

「あの、私……」


「一応気にしてはいたんだけど、最近あなたと一緒にいるのを良く見かけたから。……週末にも個人的に来たりしてたのよ、私カウンセラーの資格持ってるから――」


 そこまで言うと書類を出してきた。


「あなたは自分を認めてくれる、自分の趣向を知っても軽蔑せずにいてくれた――って」


 梨花……。


「何があったの?」


 私はさっきあったことを全て話した。梨花の事、灯の事――そして私自身の事、背後霊の事も一応話しておいた。

 先生は黙って聞いていたが、話を聞き終わると動かしていた右手を止めた。


「そっか、双海さんがそんなことを……」

「私だとは気付かなかったみたいですけど……」


 明日からどうやって灯と接すれば良いんだろう――。


「双海さんのことは気にしない方が良いわ、あなただってその背後霊の事でキスするまで、そういうの変って思ってたでしょ?」


 言われてみればそうだ。初めて梨花に告白された時も……自分の事に利用しようとして――。


「ほらほら、泣かないの」


 いつの間にか涙が出ちゃってたんだ……。

 先生は私を優しく抱きしめてくれた。


「氷室さんはとりあえず大丈夫よ、背後霊だけど――もしキスする相手がいない時は平日でも休日でもいつでもいらっしゃい! 嫌じゃなかったら相手してあげるわよ!」


 先生は冗談っぽくはにかみ、サムズアップを見せながら元気づけるような声音で言った。

 でも何だか、心の奥がスーっとした感じがする。何に関しても、溜め込むのはやっぱ良くないんだなぁ……。


「でも私――梨花を待っても良いですか?」


 先生はしばらく考えていたが、


「今回は特別よ、付き添ってあげなさい」

「はい!」

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