第十一章:双海灯
午後の授業には遅れなかったが、頭の中がほわ~んとして授業の内容は半分以上理解出来なかった。
全身が甘々で、もうこのままとろけそうな気分――。
「裕海、行こう」
灯に声をかけられ私は我に帰った。そうだ忘れてた――今日は灯と帰るんだっけ。
「手、つなご?」
灯に手を掴まれ、私は灯と昨日行ったゲームセンターへと向かった。
「最近委員長さんと仲良いよね?」
「そ……そうかなぁ……?」
大当たりなんだけど、私は何となくお茶を濁した。
「止めといた方が良いよ……。あの人――コレらしいし」
灯は薬指同士をチョンチョンとくっつけ合った。――お姉さん指同士がくっついてるからこれは……。
「百合って事?」
「百合ってかレズだよね、この前も同じクラスの……えーと誰だっけ――ああ、遠川さんだっけ? あの子とも結構派手にやってたみたいだよ」
……本当、こう言う変な噂ってどこから流れるんだろう。
「前にも言ったけどさ……。裕海には、そっちには行って欲しく無いんだよね……」
灯は歩きながら言葉を紡いだ。
「裕海と倉橋君……わりとお似合いって感じだし――四人でダブルデートってのもしてみたいし、裕海には倉橋君と幸せになって欲しい! ……それが――私の願いだから……」
灯はゲーセンに着くまでそれ以降一言も話さなかった。
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「えへへ! また取った~!」
「灯上手いな~」
灯はUFOキャッチャーだけでなく、押し出す型のやつや、ショベルカーみたいなやつでも欲しいものを的確に取っていった。
「はい、裕海」
昨日のうさぎの色違いを全色取ってくれた。黄色――白――薄緑、それから……水色。
「これには全て意味があるのを知ってるかい?」
灯は自慢げに人差し指を立てた。
「黄色は金運、ピンクは恋愛運、白は新しい自分、薄緑は落ち着き、水色は癒し――。私もピンク付けよう。文田君ともっと進展出来るようにって」
梨花はそれを知ってたのかな……。
私は梨花と出会った時の事を思い出した。
――癒し……か。
「じゃあね、裕海」
「また明日」
私たちは駅で別れ、私は碧町行きの電車に乗った。
「灯……今日は突然どうしたんだろう」
電車の程よい揺れに……私は少し眠ってしまった。
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「はぅっ……!」
電車がガクンと揺れ、目が覚めた。電光掲示板を見ると次は碧町……危なかったぁ!
電車が止まり、ホームに出ると心地よい風が吹いた。どこから飛んで来たのか、茶色くなった葉っぱが何枚か落ちていた。
「もう秋ね……ちょっと前まで暑かったのに」
「あっ! 裕海お姉ちゃん!」
志央ちゃんが、薄茶色のメガネと白い帽子をかぶった女の人と歩いてきた。
誰だろう、あの人。
「裕海ちゃん久し振り、分かるかしら?」
「明美叔母さん!」
どうしたんだろう、その格好……。
「やっと退院できたんだよ!」
志央ちゃんは嬉しそうに私の周りをグルグル回った。
「先週末は志央を預かってもらって……ありがとうね」
「もう大丈夫なんですか?」
「まだ危ないらしいんだけど……。軽かったから、入院はそれほど長くは必要無いって――しばらく通院生活だわ……」
叔母さんは鳩を追いかけている志央ちゃんを眺めた。
「それに……志央が心配だったから早めてもらったのよ……。あの子凄く心配性だから――ふふっ……誰に似たのかしらね」
志央ちゃん――家ではそんな素振り、これっぽっちも見せなかったのに……。
「ママー! 裕海お姉ちゃ~ん!」
志央ちゃんはこの間と同じ笑顔を見せ、私たちに手を振った。
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家に帰り携帯の履歴を見ると、灯から一つ二つメールが来ていた。
しばらくメールを続けて、その日はそのまま晩御飯を食べ――シャワーだけ浴びて寝ることにした。
そういえば……梨花の番号とアドレス知らないな。
「明日聞こう」
私は疲れていたので、そのままゆっくりと夢の世界へ心身を溶け込ませた。




