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第十章:寄り道

「梨花ぁ……。どこ連れてくの?」

「秘密~」


 梨花は今までに見たこと無いくらい上機嫌で歩いていた。スキップでもしてるように早足で、私を連れて行った先には――。


「ゲームセンター?」

「今、意外だって思ったでしょ」


 確かに意外……梨花がこんなとこ来るなんて……。


「前に晴香……遠川さんと来たんだ。そしたら彼女UFOキャッチャーとか上手くって」

「梨花は?」

「私はてんで駄目……そう言う裕海は……」

「私も~」


 ゲーセンに入ったはいいが、特にやりたいゲームがあるわけで無く……結局UFOキャッチャーの前に来た。


「あ、あれ可愛い!」

「本当だ、あっ見て見て! あれなんか超可愛い~」


 水色とかピンク、黄色のうさぎのぬいぐるみ――取れないかなぁ……。


「二人でやってみない?」

「出来るかなぁ?」


 梨花はキラキラした目で、私の手を握った。


「やらなくちゃ結果は出ないよ! やるだけやってみようよ!」


 私は財布の中を見た。十回くらいなら――まあ、大丈夫かな。



 ---



「あと少し……裕海、押して!」

「えいっ!」

「あんっ! 駄目ぇ!」


 簡単そうに見えて取れないのがUFOキャッチャーと言う物であり、取れるまでやめられないのもまたUFOキャッチャーである。


「後一回しか出来ないよ~……」

「私のはいいから、裕海の欲しいの取ろう?」


 最後のコインを入れ、私たちはボタンを押した。ゆっくりと横移動したアームは――梨花の欲しがっていたピンクのうさぎの上を通過しようとした。


「ここで良い」


 私はアームを止め、降下ボタンを押した。


「それピンクのだよ! 裕海は水色のが欲しかったんじゃ無いの?」

「梨花が喜んでくれたら――私はもっと嬉しいから」


 アームはうまい具合にピンクのうさぎを掴み、上昇したが――。


「見てっ! あれ」


 ピンクのうさぎに水色のうさぎが引っかかっていた。そのまま横移動し――ゴトン!


「……………うわぁ――」

「凄っ……こんな事って……」


 お互いに欲しかったうさぎが一つずつ取れた。


「裕海ちゃん……ありがとう!」


 梨花が嬉しそうにうさぎを抱きしめている姿を見ると――胸の辺りが温かく、私もとても嬉しかった。



 ---



「やっ! 裕海」


 普段通り灯が声をかけてきた。良かった……気のせいだったのかな?


「あれ? 可愛い~これ、どうしたの?」


 灯は昨日取った水色のうさぎを手に取った。嬉しくて思わず鞄に引っ掛けて来たんだよね。


「昨日! 取れた~」

「へ~! どこどこ? 私も行きたい!」

「文田君と?」


 灯の表情が少し曇った。何かあったのかな……?


「たまにはさ、二人で行こうよ……」

「いいけど? 部活は……?」

「今日休む、お昼も一緒に食べよ?」


 私はOKしたが――どうしよう、今日のキス……。




 昼休みになり、真っ先に灯が来た。他愛のない世間話などを口にしながら、お弁当を広げた。


「文田君と何かあった?」

「別に何も」


 灯が何か変――やっぱ何かあったのかな……。


「あ、裕海ぃ……ケチャップついてるよ~」


 灯はティッシュで私の口を拭いてくれた。

 ――ガタン!

 私が灯のその行動に身を任せていると、刹那後ろの方の席から机を叩いたような音がした。


「え? 何?」


 最近私には見せなかった感情の全く無い冷たい視線をした梨花が、私の席まで来て私を見下ろした。


「蒔菜さん……」


 腕を掴まれ、私は半ば強引に教室から引きずり出された。


「えっ? ちょっと梨花!?」


 顔は見えなかったが、引っ張りながら時折鼻をすするような音がした。――そのまま梨花は空き教室に入り、中から鍵を閉めた。


「ちょっと! 梨花ぁ!」


 梨花の表情は前髪で隠れていたが――下を向き、身体をカクカクと震わせ涙が床に溢れていた。


「何で? 裕海ぃ……今日はどうしたの? 私の事嫌?」


 え? 何で泣いてるの? 私何か悪いことしちゃった?


「慰めて……」

「へ……?」


 梨花は突然私に抱きついてきた。突然のことで思わずよろめいてしまい、梨花に押し倒されているような体勢になった。


「今日朝から裕海の事我慢してたんだよ? しかも今日は早く帰っちゃうって言うし……お昼休みも裕海と一緒にいられないなんて嫌……!」


 梨花に手首を掴まれ、脚と脚が絡め合い――初めて空き教室でキスした時を思い出した。――でも、あの時と違って別に悪い気はしない……柔らかい梨花の身体が心地よく感じた。


「んっ……」


 全身を密着させながらのキス……しかも今回は私の上に梨花が覆いかぶさっている――身動きがとれないって言うのが、何とも言えない感覚として私を襲う――梨花の舌が入ってきた。……私も。


「んんっ……ん……ん~……」


 口中を舐め回される――私も梨花の口の中……こんなにかき回すの初めてかも――。


「んぅっ!」


 梨花の力が抜け、身体を押し付けてきた。柔らかい身体がもろに押し付けられ、身体がムズムズしてきた。


「んっ……ぷはぁっ――駄目……そんなに動かしちゃぁっ……」


 私は身動きのとれない梨花を転がし、今度は私が覆いかぶさった。


「次は私の番だよ?」

「腰砕けちゃったから……優しくね?」

「んっ……んんっ――んっ……」


 梨花と同じように――身体を預け、全身を密着させながら口中をかき回した。時折来るこの身体の高揚感は何なんだろう――。


「んくっ……!」


 私も腰が砕けた。ヤバい……動けない――。


「んっ……んん~……」


 梨花は少しも舌の動きを緩めず、私の口の中は梨花でいっぱいになった。――このままじゃ永遠に動けないよ――。


「ぷはぁっ……どうしたの? 裕海ぃ」

「ごめっ……私も腰がっ……」

「ええ~! 午後の授業どうするの!?」



 何とか私たちは昼休み終了五分前までに身体を動かせるようになり、授業に遅れることは無く済んだ。

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