第一章:背後霊
「それは背後霊でしょう」
霊能者に言われ、私は納得した。
ここ数ヶ月、好きな人からは振られ、クラスではいじめが勃発、それが原因で担任教師は精神療養のため副担と交代、女生徒の笛が大量に紛失する――など、数え切れない程の厄難が一斉に起こっていたのだ。
それが全部私のせいだとは……納得はしたものの、何か申し訳無い感情にひどく襲われる。
「かなり強い霊なので、私どもの力ではどうにもなりません……」
「そんなに強い霊なんですか?」
「はっきり言って、よく事故にも遭わずここまで来れましたね――と言うくらいヤバイです」
ここまで来る十分間の間に三回くらい車に轢かれかけました。
「とりあえず――霊の力を弱めることから始めましょう」
霊能者は経文の書かれた壺を持ってきた。
「弱めればここに閉じ込め、霊能協会の強い方に浄化してもらえます」
「どうすれば弱まるんですか?」
霊能者は少し言いにくそうに顔を赤らめた。
「女性と毎日……最低一回はキスをするんです――」
「待ってください!」
私はこう見えても花の女子高生ですよ? 前述した振られた相手だって男の子ですし、何で女の子なんかとキスしなきゃならないんですか!?
「何故女性なのかとお思いでしょうが……霊が――男性の霊でして……。浄化するには女性のお力が必要で……」
待って、と言うことは……。
「あの……。じゃあもし男性の方に女性の強い霊がとり憑いたら……」
「――多分ご想像通りかと……」
気まずい空気が流れた。
「とっ……とりあえず今日は私めが浄化の相手をしますので……」
待ってよ! 私まだキスしたこと無っ――、
「むぐぅ……」
霊能者さんの柔らかい唇が触れた。そこまで悪い気はしなかったけど……。
――はぁ……私のファーストキス……。
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次の日、私は授業中ずっと昨日の言葉を思い出していた。
(最低一回はキスするんです)
やだよ~……綺麗な人だったけど、私の大事なファーストキス奪いやがって……。
「裕海……どうしたの?」
私の友達、双海灯が声をかけてきた。
「ん~灯ぃ……。もしさ、何かの理由で女の子と毎日最低一回はキスしなくちゃ治らない病気にかかったら――灯ならどうする?」
「え~何それ?」
灯は普段の明るい口調だが、耳元でボソッと囁いた。
「可愛い子落として、深く考えないようにしてするかな?」
なるほど、その手があったか……。
「でも――裕海にはそっちの道には行って欲しくないなぁ……」
「行かないよ! 例え話だし」
「なんかね、この間裕海のこと振った倉橋君――彼女さんとあまりうまく行ってないらしいんだよね~」
倉橋風斗――もしかして……背後霊の力が弱まったからかな……?
「鳴かぬなら、鳴くまで待とう何とやらだよ!」
灯は私に笑顔でブイサインをした。
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放課後になってしまったー!
このまま帰ったら母としなければならなくなる、それだけは絶対嫌だ。
「どうしよう~どうしよう~」
「どうかしたんですか?」
教室で頭を抱えながら必死に考えていると、あまり話したことの無い子が本を抱えて入ってきた。
えーと……あの子は確か……。
「遠川さん!」
思い出せた喜びか叫んでしまった。遠川さんはビクッとして抱えていた本をギュッと抱きしめた。
いえ、驚かせたつもりは無いんだけど。
「あの……蒔菜裕海さん……ですよね?」
オドオドした話し方の子で、あまり他の人ともあまり話している所を見たことが無い、三つ編みにメガネっていかにもインドアな文系少女です――って感じの見た目をしている。
「何か、お困りですか? わたしで良かったら……相談、のりますよ」
目をそらしながら本を抱きしめる強さが強くなった。
「あ……うん、大丈夫――かも」
他の人に言いふらしたりは絶対無さそうに見えるけど、こんなこと相談出来ないよ~……。
「じゃっ……あのっ忘れ物取りに来ただけなんで……きゃぁっ!」
何も無いところで転んだ。――何? 天然……?
「ちょっと! 大丈夫?」
私は思わず遠川さんを抱え込むようにしたが――大判の本を二冊も抱えているものだから重くって……。
「きゃぁん!」
妙な声とともに遠川さんの下敷きになった。
「むぐ……」