桜川先輩 2
理恵は、桜川淳也と一緒に帰っていた。理恵が彼を待っていたのだった。彼女が恋する相手、それは、淳也だった。しかし、そんな淳也の口から思いがけない言葉を聞いてしまった。
「俺、香の彼氏役をすることにした。」
「えっ?」
驚きのあまり、しばらく声が出なかった。とは言っても反対する理由が見つからない。反対して、理由を聞かれて困るのは私自身だったから、淳也さんから時々、香の話が出てくるのは、同じ部活でしかも同じ楽器をしているから、そう自分自身に言い聞かせてきたんだけど、でも、でも、今回のはやっぱり嫌・・・
「なにも、淳也さんがそんなことしなくても。」
「なぜ?」
「あの噂だって、香に対する嫌がらせでしょ。だから、香に彼氏がいないってことで話がおわるって、香が嘘をついたってことで」
「確かにそうだけど。」
「だったら。」
「香が彼氏をつれてこなかったらどうなるか、知ってるのか。」
「あ・・・」
実は噂の続きがあった。それは、当日、連れて来なかったり、逃げたりしたら、嘘をついて親友の顔に泥を塗ったとして、謝らせるって、しかも、校門で土下座させると・・そんな無茶苦茶なことが普通科から聞こえてきていたのだった。
「それだと、あいつがかわいそうじゃないか。」
「かわいそうって、自業自得でしょ。それに、そんなことしたら変な噂が立つわよ。」
「どうして?」
「今日の噂をしってるでしょ。きっと、淳也さんが香の彼氏ってことになって、学校中に言いふらされるわよ。しかも、根も葉もない噂までくっついて」
「それが?」
「それがって・・・」
「別にいいじゃないか、逆にそのほうが都合がいい。」
確かにそうだった。いざ彼女が出来たとなると一部の女子たちはあきらめる。だからって・・・喉元まで出そうになった声を飲み込んだ。言える分けない。やめるようにって・・・淳也さんの性格からして、これ以上言ってもどうにもならない。彼女でもない私が言えるのはここまで、
今、言うと前みたいに壊れそうで・・・
また、あの悪夢が甦ってきた。それは中学の時だった。思い切って告白したら妹みたいな存在と言われた。それが今もトラウマとなっている。しかも未だに妹扱い。だから、これ以上どうすることも出来ない。けど、いったん彼氏役とはいえ、彼女の友達に見られたとしたら、付き合っていると言うことが学校中に宣言するようなものだけど、どうしたらいいの?そんな時だった。私の目の前に香の姿が目に入って来た。そんな彼女を睨まずに入られなかった。そして、明日、香にやめさせるように言おう。そう心に決めた。