どうしよう
「香~彼氏いるんだって?しかも、チョーイケメンの」
月曜日の朝、教室に入った私に向かって放たれた最初の言葉がそれだった。
ど…
どうしよう~!!
もうここまで噂が立っているなんて
「どうなのよ?」
「えへへ…」
愛想笑いでごまかし切れるものではないんだけど、私の前に来た彼女たちは、しらけて表情で自分の席へ戻っていた。
普通の学校ならここから根掘り葉掘り聞いてるんだけど、
ここは、進学校である無双高校の特進科
彼女達の興味は勉強して、有名大学に進学することなのだ。
た…たすかった
そう思っていると横で話を聞いていた和美が声をかけてきた。
「ま…自業自得意よね」
「自業自得ですって?和美があんなことを言うからじゃない!!」
私の言葉を聞いて顔色を変えた和美はさっと背中を向けて逃げようとした。
「あ・・・そうだったかかしら・・・さてと・・・」
あ~!!そんなこと言って逃げようとしているでしょう!!思わず和美の手をガシッと両手で握ってしまった。
「逃げないでよ!!」
動くことが出来ない和美はこんな言葉を漏らした。
「仕方ないわね・・・」
そういうと和美は頬をポリポリと掻いていた
って・・・それは私の台詞なんだけど・・・
はぁ~・・・
でも・・・
どうしよう・・・
本当に・・・
そもそもの原因は、昨日、和美と遊びに行ったショッピングセンターで、中学時代からの悪友、知代と再会したことから始まった。彼女とは腐れ縁で中学3年間一緒のクラスだったんだけど、何かにつけて私を目の敵にしている。特に、同じ高校で私だけ特進科に合格したもんだから、それから更に酷くなった。そんな彼女が目の前に現れたのだった。
「久しぶりね・・」
「そうね」
刺々しい彼女の言葉に反応したくないけど、何も言わないわけにいかない。言わないと何を言い出すやら。けど彼女は許してくれなかった。
「何よ・・・そのそっけない態度・・」
「あ・・ちょっと、急いでるから・・」
と・・とにかく逃げないと、こんなのに付き合っている暇はない!!どうせ・・・嫌味の一つでも言いたいのよ・・・逃げるが勝ちよ・・・和美の手を引っ張って、その場から離れようとしていると、知代は不服そうな顔をして、私を呼び止めた。
「あ・・待って・・」
「もうっ!!何よ」
「彼氏紹介するから」
すると彼女の横には、同じ中学出身の雄二が立っていた。彼も同じ高校の普通科ってそんな雄二の腕に知代が抱きついた。
「香には内緒にしていたけど、私達付き合ってるの」
もう・・・最悪・・・
思わず目を逸らしてしまった。中村雄二、彼とも同じ中学で同じクラス、そうここにいる3人は、無双高校の特進科を目指していたんだけど、受かったのは私だけ、だからそんな落ち込んでいる彼に告白することも出来ずに気持ちを封印した。自分の恋は終ったんだ。そう言い聞かせて、そんな私を更に追い込んだのは、雄二が知代と付き合っていると言う噂だった。それが今、目の前の現実として私に突きつけられた。見たくない現実、思わず目を逸らすと見逃すはずもなく、私の顔を覗き込んできた。
「聞いているの?」
「あ・・・良かったね・・・じゃぁ・・・私、急いでいるから~」
こんなのに付き合ってられるわけもなく、私が和美の手を引いて行こうとした瞬間だった。
「彼氏、まだいないんだ。」
プチ
頭のどこかで何かが切れる音がして、思わず足を止めてしまった。
「あ・・そうか・・・頭のいい香は忙しいわよね。彼氏なんか作っている暇なんてないわよね~だって、特進科だもんね。」
振り返ると少し首をかしげ右手人差し指を頬に当て、勝ち誇ったような笑顔で立っていた。その笑顔が憎ったらしい・・思わず和美を握っていた手に力が入った・・・けど・・・ここは逃げるが勝ちよと自分に言い聞かせ、再び振り返ろうとした瞬間だった。和美がいきなり話し出した。
「さっきから聞いていたら!!何よ!!香はおとなしいから・・黙っているけど・・・彼氏ぐらいいるわよ・・・しかも、超イケメンの!!」
なんですと~!!!
な・・・なんてこと言うのよ!!和美の爆弾発言にただ驚いていると知代の顔が見る見る怒りに満ちてきているのが判った。そして、私の顔を覗き込んできた。不満度100%の顔をして・・・
「ふ~ん・・そうなんだ・・・超イケメンの・・・へ~・・いるんだ・・」
「あ・・・」
私が否定する間も無くこう言ってきた。
「じゃぁ・・・会わせてよ・・・来週でも・・」
「え・・・あ・・・」
否定しないと・・・慌てて声を出そうとするがでない・・・そこへ間髪いれず和美がまた爆弾を落としてくれた。
「いいわよ・・ね・・・香・・」
すると知代は不満度200%の顔で私を睨んだまま、彼氏から手を離し腕組をした。
「じゃぁ・・・来週 10時にここでね・・・逃げたらどうなるか分かってるわよね・・・」
ええっ――――っ!!
何も言えないうちに話はとんでもない方向へ