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98 最終クエスト

 全ての文章をメリッサに送信し終えて、俺は息をついた。

 何度も文章を読み直していたのだろう。

 もう向こうにいないんじゃないか、というほど長い長い溜めの後、メリッサから返答があった。


 RYU-08920:ありがとうございました。


 俺がメリッサの為にしてやれることは、これだけだ。

 そう、言いたかった。


 ――だって俺に、他に何が出来る?


 俺の知り得た情報を……こうしてメリッサからようやく得ることが出来た事件の真相を、一体どうすればいい。

 勇者グルツに連絡して、あいつらの勇者クレゾールに対する誤解を解いたところで、もう遅い。

 行方不明の勇者クレゾールを捜索するにしろ、何にしろ。

 あいつらはもう、特殊勇者になってしまった。

 軍の命令に背いた行動を取れば、元の世界に強制帰還させられるだけだ。


 円卓会議の連中も、軍と深く結びついているはずだ、うかつに信頼することはできない。

 勇者リリーの機嫌を損ねてしまった今、俺から彼女を説得できるとも思わない。

 そもそも、彼女は事件とはまったく無関係だ。

 これ以上、関係ない勇者達を巻き込めるのか。


 俺は、視界の端を見やり、現在時刻の下に表示されている黄色い数字を見る。


 休憩時間:3時間28分33秒


 ――残り、3時間。

 ――3時間もあんのかよ。


 そのとき、


 RYU-08920:兄は貴方の事を心から信頼していたのだと思います。


 メリッサから、途切れ途切れの文章が届きはじめた。


 RYU-08920:勇者マキヒロ、私も貴方を信頼しても、いいでしょうか。


 ……おいおい、俺なんかに頼ってどうするんだ。

 他にもっと頼れる勇者を探した方がいい、そう返事をする前に、メリッサから新しい文章が届いた。


 RYU-08920:先ほど兄が私に、ある場所で落ち合いたいという連絡を送ってきました。


 メリッサは、今度こそ、俺に重大な情報をもたらした。

 ……だから、俺にその重大な情報をもたらしてどうするんだよ?


 RYU-08920:他の勇者には、絶対に教えてはダメだって言ってました。


 勇者マキヒロ:じゃあ、俺に教えちゃダメだろ? 俺がお前の代わりに待ち合わせ場所に居たら、あいつきっと三秒で俺をスライスするぞ。


 RYU-08920:大丈夫です、貴方なら、きっと兄も心を許してくれるはずです。


 俺は頭をふった。

 おいおい、さっきの俺の話、聞いてたのかよ?

 俺は実際、あいつに殺されてるんだぞ?


 勇者マキヒロ:そんな訳があるかよ。あいつ、立てこもり勇者の中で、ムシケラのように俺を殺したんだぜ。無慈悲にぺっちゃんこだ。


 RYU-08920:兄が貴方を殺したから、私は貴方を信じたいんです。


 RYU-08920:だって兄は、憎しみで人を殺すこができない人だから。


 RYU-08920:たとえ裏切られても、その人をいくら憎んでいても、殺す事だけは決して選ばなかった。


 RYU-08920:兄は、貴方を本当に信頼していたんだと思います。


 話が平行線になっている。

 そんな事が、分かるはずがない。

 あいつが俺を信頼していたとか、していなかったとか。

 並み居る立てこもり勇者達の中で、あいつは俺だけを殺した。

 俺1人だけだ。それが慈悲だったのか、それとも単なる偶然だったのかなんて、分かるはずがない。

 慈悲だった、なんてのはこっちの勝手な解釈だ、都合の良い思い込み、単なる『希望』に過ぎない。

 肝心なのは、その気になれば俺を殺す事ができる、という事だ。


 RYU-08920:本当は、兄は、貴方を助けたかったのではないですか?


 勇者メリッサから、疑問系で放たれた言葉に、俺は口つぐんだ。


 ……そういえば、あのとき俺は勇者クレゾールのお蔭で助かっていた。


 俺はあの時、1人だけ死んでいたお陰で、軍に戦闘データを調べられずにすんだのだ。

 もし、俺が調べられていたら、『飛竜』に与えられた不正報酬が発覚していたはずだ。


 軍が、軍の関係者の戦闘データを徴集するつもりがなかった、という事もあっただろうが。

 それでも、あのとき俺が生きていたら一緒に調べられていた可能性もあったかもしれない。

 なぜなら俺が復活させられたのは、軍が戦闘データを徴集し終わった後だったから。


 勇者クレゾール……お前、どうしてあの時、あのタイミングで暴れて、どうして俺だけを殺して逃げたんだ。

 ……ひょっとして、お前は俺が戦闘データを調べられたらヤバい事を知っていたのか。


 だったら、だとしたら、本当にどうしようもないじゃないか。

 ちくしょう、本当に、なんて結末だよ。

 お前、本当に裏で『飛竜』と絡んでやがったんじゃないかよ。

 俺の事まで助けてる場合じゃねぇだろ。


 RYU-08920:勇者マキヒロ、私に貴方を信頼させてください。


 そのチャット文章が流れた直後――。


 俺の視界に、新たな文章が表示された。


「新規サブクエスト……」



 通信機能:待機→新規サブクエストの受信


【詳細】

 特殊クエスト「勇者クレゾールとの邂逅」の依頼を受けました。

 分類  サブクエスト

 依頼主 メリッサ

 達成条件 勇者クレゾールと落ち合う  場所 クエスト受注後に指定 


【備考】

 お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、お願いします、


 このクエストを受けますか? Yes/No



 ――も、もちつけ。

 ――恐い。恐いよ、メリッサ。


 脅迫的なクエスト内容(特に備考欄)を見ながら。

 そう言えばこの妹、ヤンデレだったんだな、と言うことを、俺はいまさらながら思い出していた。


 いままで文章で話し合っていたので、相手の感情がはっきりと伝わってこなかったが。

 これは多分……相当キテる。ヤバい。ひょっとして向こうで斧とか握りしめてる気がする。


 Yes/No


 指が震えた。本当に。マジでこれどうすればいいんだ。誰か教えてくれ。


 どちらを選ぶにしろ。

 恐らく、これが俺の最終クエストになるだろうという予感がした。

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