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97 囚われの姫

 街をぶらぶらしていると、久しぶりに、勇者ドバルの方から通話を申請してきた。

 また死亡フラグでも立てるつもりか、と思ったが、そう言えば、今どんなマクロ開発してる? と訊いてみたのは、俺の方だった。


『勇者マキヒロ、なんかすごいことになってるぜ! お前と開発してた【未確認飛行物体】がさ、正式に軍に採用されたんだよ! 残念だなー、お前特殊クエストでいなかっただろ!?』


「ああ、そう……」


『立てこもり勇者達に教えたら、なんか連中みんな気持ちを持ち直して、乗り気になったって話でさー! 今、千人以上が開発に参加してくれてるみたいなんだよ! すげぇ、俺マジ感動してんだけど! 俺の行動で、みんなを勇気づけることが出来たっていうのが嬉しいな! いいことした後は気分がいいなーおい!』


 俺は、道路の真ん中に突っ立った状態で勇者ドバルと会話していた。

 道幅は狭く、左右に二階建ての石造りの家が続いている、見通しの悪い道。

 清潔に保たれているらしく、塵ひとつ落ちていない。ネコみたいな生き物が塀の上で丸まって、ビヒーモスの振動の度に髭をぷるぷる震わせていた。


「で、今どんなスキル開発してるんだ?」


『おうおう、聞いて驚くな、【モンスター・スカウター】っていうんだ……!』


「……【モンスター・スカウター】? 一応、それはどんなの?」


『ふっ、いいか、こいつは極秘プロジェクトだぜ……?』


 勇者ドバルは、急にシリアス声になった。


『視界に収めたモンスターを画像にしちまう【スクショ機能】……。


 画像からモンスターの萌えポイントを抽出し、そのモンスターの弱点や関連するステータスを呼び出す【スカウター機能】……。


 画像を統一データベースに保存して、みんなと共有してワイワイハスハスできたりしてしまう【データ共有機能】……。


 現在開発中の、これら3つの機能を統合した、いまだ見ぬ理想のマクロ……そう、それが【モンスター・スカウター】だ……ッ!』


「……なんだろう、すでに悪用される気しか感じられねぇんだけど」


『そこに目をつけるとは、さすが勇者マキヒロだ……。これは軍の目を誤魔化すための、表向きの開発、俺たちは極秘裏に、女の子専用【ニャンニャン・スカウター】を平行して開発している……!』


 俺はため息をついた。

 ……こいつ、こういう角度から死亡フラグを立てにきたか。


『えっ、ちょっと、なんで引くわけー!? 男のロマンじゃね!? あ、あのさ、お前も勇者なら、この絶望の世界で戦う勇者達に、少しでも幸福を共有しようと思わないのか……ッ!』


「うん、それいいよ最高だ、完成楽しみにしてるからな」


『うわー、ないわー! やっぱリア充勇者ないわー! ……って、え? いいの?』


「ああ……ビヒーモス戦のスキル開発は、もう十分だろう。それよりも俺たちは、もっと先の戦いを見据えたスキル開発を目指すべきだ」


『おおっ! やっぱそうだよな、うんうん! 俺もそう思ってたところだぜ! さすが勇者マキヒロだ!』


 勇者ドバルの努力の方向オンチ具合に、ますます親近感が湧いて、俺は正直、嫌になってしまった。

 ……強い奴はどんどん強くなっていくよな。


「あ、そうだ……お前、チャット機能って俺以外の誰かに教えた事がある?」


『ん? フィー研の二人とお前ぐらいだけど……』


「女の子に教えたりしなかったか?」


『教える女の子を教えてくれよ! 女の子にもてそうな奴には絶対に教えないって、フィー研で硬い約束を交わしたんだぜ! お前はほら、賄賂をくれたから別だけどさ!』


「そこまで歪んでると、いっそ清々しいな……」


『あ、そういや、なんか軍の会議で紹介させられたよ。【未確認飛行物体】と一緒に。他にもなんかスキルあったらついでにって事で』


「ふーん。軍の会議か」


 勇者ドバルと通話を切って、俺は息をついた。

 ……よし、これで当面、新スキル開発は食い止められた。

 残る問題は、もうひとつ。


 先刻メリッサから来たチャット文章を眺める。

 通話ログの中から、RYU-08920だけを抜き出し、表示させる。


 RYU-08920:お話ししたいことがあります。どこかで会えませんか。


 俺はそれに対して、即座にこう返事をしていた。


 勇者マキヒロ:何について?


 その返答が……静かに追加された。


 RYU-08920:兄についてお伺いしたい事があります。どうして兄がこんなことになったんですか。兄は今、どこにいるんでしょうか。


 今度は俺が返答に迷う番だった。

 ……どうすればいい。

 俺みたいなクズが関わった所でろくな事がないのは分かっているが、それでももう無関係では居られなかった。

 目を背けて、知らないふりをする事は出来ない。

 俺にできる限り、全力で関わらなければならない。


 勇者マキヒロ:俺の知っている事はぜんぶ話したい。通話で話せないか?


 RYU-08920:通話は軍に制限されていて、自由には出来ません。


 勇者マキヒロ:チャットはだれから教わった?


 RYU-08920:軍の会議で勇者ドバルさんの開発した新スキルが紹介されてて、それをちょっと見る機会があって、その中にこういう機能の紹介があったんです。それで勇者マキヒロさんが私に文章を送ってくださったのを思い出して、見よう見まねで文章を送っています。


 けっこうな長文打ちだな……。

 突っ込みたい所が沢山あって、とてもチャットじゃおいつかない。

 とにかく、今は軍の監視下に置かれていて、通話が出来ない。

 完全なマクロを使ってないので、文章を送信するのに時間がかかる、と言うことか。


 勇者マキヒロ:軍の会議に出てるの? 今何してるの?


 RYU-08920:王宮のお風呂を借りて体を洗っています。とても広いお風呂です。


 勇者マキヒロ:そこまで言わなくてよかったのに。どうして王宮なんかに?


 RYU-08920:召喚師さまに雇ってもらいました。この世界で生きるためには、何か手に職をつけなければと思って。


 勇者マキヒロ:いや、それは分かるというか、性根がニートの俺には分からないけど、そもそも、どうしてこの世界の住民になったんだ?


 RYU-08920:最初は軍の人達に、兄が騒ぎを起こしたと聞いて、それで王宮に呼ばれていたんです。けれど待っているうちに、家族が《評議会》の役員と関わっているという事で、私と兄の二人に疑惑がかけられているって聞いて。それでこの世界に残って兄を助けるには、私がこの世界に帰化するしかないと言われたんです。


 俺は瞑目して、自分の脳天気さを、底の浅さを呪った。


 ――やられた。


 家族を人質に取る方法はあるが、あまりに卑怯だから使わないんだ、なんて半端な考えで居た、俺が甘かった。


 メリッサが勇者じゃなくなっていたのが確認できたのは、俺と勇者クレゾールが対談をしている最中だった。

 つまり、すでにその時、この事件の裏に《評議会》が関わっていると睨んで、この兄妹を狙って暗躍していた奴が居た、という事だ。


 そんな事をする奴に、心当たりがひとつだけある。円卓会議が軍法会議に出した『提案』を、横から阻害して、全部を無茶苦茶にしてしまった勇者がひとり。


 勇者マキヒロ:勇者ベリタスって奴か?


 RYU-08920:はい、戦闘データから不正報酬が見つかったらしくて。その人が、このままだと私が元の世界に、強制帰還させられる事になるって言って来たんです。


「なんだそれ……」


 俺は勇者ベリタスの強引な手段に、憤りを覚えた。

 どうしてこうなった。

『飛竜』が一方的に不正報酬を与える事だってあるのに、なんで裁判も開かずに即座に罪を決めるんだ。

 せっかく纏まろうとしていた事件を横から引っ掻き回して、複雑にしやがって。一体なにがしたいんだこいつは、名探偵でも気取っているのか。


 勇者マキヒロ:わざわざ帰化なんかしなくったって、元の世界は戦争中なんだろ? 召喚師に頼んで、帰還を延期させてもらうとかできなかったの?


 RYU-08920:ごめんなさい、私はどうしてもこの世界に残らなくちゃならない理由があったんです。ある人に、どうしても最後に伝えなくちゃならない事があるんです。


 勇者マキヒロ:理由って?


 長い、長い沈黙をもって、メリッサは俺の問いに答えた。

 一体、彼女の身に何があったのか。

 兄貴と離れ、何十時間もの心細い戦いを繰り返していた彼女に、一体どんな出来事が起こったのか。

 それを探る権利が、俺にあるはずがない。

 そもそも、最初に彼女が質問したのに、こっちが質問してばっかりだった。


 勇者マキヒロ:分かった、俺の知っている事件について、ぜんぶ話すよ。


 そうして、俺はひとつひとつ、過去を振り返りながら、勇者クレゾールのことを話し続けた。


 ひとつ、ひとつ、欠けていたピースを嵌めながら、過去を振り返っていくうちに。

 俺は勇者クレゾールが、どれだけこのヒロインと深い絆で結ばれていたかを思うのだった。

 ……なんで俺は、あいつが悪者だなんて勘違いしていたんだろう。


 まだ出会って時間が短かったとか、俺は現場に居たけど、そもそも事件の部外者だったとか、俺がクズだったから仕方なかったという、考えればそんなお決まりの逃げ口上が、あれこれと浮かんではくれるのだろうが、俺にはもう、そんな事をする気力は残っていなかった。

 ただ、じくじくと胸に染みてくる悔恨の念を感じながら、訥々と文章を送り続けていた。


 こんな被虐的な真似をした理由は、特にない。そこまで深く考えていなかった。

 たぶん、俺はクズだから、こうして罰を受けている気分に浸って、問題の本質からいつまでも目をそらし続けて居たかったんだろう。

 そこには、この絶望の世界に広く、深く横たわっている、本当の絶望が、眠っている気がした。

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