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95 帰化

 ……やばいな、これ。

 これ、このまま【エア】と【ブリーズ】を入れ替えるだけで、第三形態を攻略するための新スキルが完成しそうなんだが……。

 第二形態の攻略法の流出は仕方ないけれど、どうせ第三形態には通用しないって、ちょっと油断していたのに……。


 MPゼロ勇者の召喚反対派の俺としては、飛竜のツメによる第三形態の攻略法が確立してしまうと非常に困る。

 少なくとも、今は最悪のタイミングだ。チート能力保持者の勇者アリスに知られたらまずい。

 どうにかして、勇者ドバルの開発を止めなければ。

 何か、新しいスキルの開発に力を注いで貰えないか。


「……そうだロコさん、コックのスキル改造したかったら、良い奴知ってるんですけど?」


 一か八かだ。ドバル戦術を開発した勇者ドバルを、ロコさんに売り込んでみる。

 勇者ドバルは確か、ロコさんにお近づきになりたいと言っていたので、こっちを最優先にして飛びつくはずだ。

 ロコさんは、片眉をつり上げて言った。


「前線で活躍してるんだったら前線用のスキル作って貰った方がいいよ。そう言うの、正直戦闘終わってからで良いと思うんだけど?」


「ですよねー……」そんなに世の中甘くなかった。


「というか、そいつが何とかしてくれそうなのか? ビヒーモスの熱問題」


 俺はぶんぶん首を横に振った。


「……頼めば頑張ってくれそうでは、あるんですが……俺の見込みでは、かなり難しいと、思います……」


「そっかー。じゃあ、待つしかないね」


 勇者アリスが沈痛なため息を漏らす。

 俺もその横で、沈痛なため息を漏らした。

 ……まずい、まずい、勇者ドバルをなんとかしないと。

 このままじゃ、時間の問題だ。

 勇者ドバルの開発を止められるのは、俺だけだ。


 勇者アリスも、ベクトルは別だが同じ事を考えているらしい。

 めげずにロコさんに質問をしていた。


「あの、じゃあ、ロコさんはビヒーモス戦でどういう風に戦ってたんですか?」


「ここでポーション配ってた」


「えっ」「えっ」


「だって私はコックだよ。生産職勇者だったから、後ろの方で子ウサギみたいに震えて、なるべくダメージ受けないように縮こまってた」


「えっ、それって召喚される事に一体何の意味が……」


「うっさいな、昔は今みたいに便利な武器がなかったんだよ。お前達は生まれてきた時代に感謝しな」


 そうか、時代が悪かったのか。

 くそ、なんて時代だ。

 ロコさんは照れ隠しをするように、髪を乱雑にかき上げた。


「だいたい、ビヒーモスなんて怪物は勇者が束になって、追い払うのがせいぜいだったんだよ。今のゲスト勇者みたいな化け物じゃなきゃ、そもそも接近すら出来なかったんだ。

 私が来たばかりの頃は、ビヒーモスが乗り込んでくるなんて国家が滅亡するか生き残るかの非常事態だったからね。

 食糧やポーションの材料を切らさないように、あっちの格納庫、こっちの格納庫って、命がけで走り回らなきゃならなかった。きっついよー、パーティの主戦力がビヒーモスの方に向かってるから、周り見てもみんな生産職勇者しかいないんだよ」


「うわー……」


 ネトゲでも最悪の状況だ。どうなるんだろう。


「今はサモン・ロッドがあるだろ。だからあらかじめ素材を大量に溜め込んでおいて、コックでも簡単にそれを召喚できるようにしてあるんだ。

 そのうち飛竜のツメが登場して、大量召喚の戦術が考え出されて、一緒に怯えてたコックたちでも戦えるようになったから、有事にはこうして一人でお留守番してるようになった。

 けれど前線がきついから他のコックがどんどん辞めてくんだよね。最終的に私含めて数名のコックで頑張ってた状態になって、召喚師さまがなんとかしてくれって言うんで、とうとう私が帰化してこの店一人で切り盛りする羽目になった。文明の利器ってすばらしいな」


「じゃ、じゃあ……この宿って、そもそもロコさんのお店じゃなかったんですか?」


「おう。初代店主の勇者ロコは50勇者の1人だったらしいよ。今はもう引退してるけどねー。私が跡次いで2代目だ」


「へぇー」


 この絶望の世界に帰化するって……すげぇ責任感だな。

 ロコさんの壮絶な過去を聞いて、俺はふと、ひっかかりを覚えた。

 ……もう勇者を引退した初代は勇者ロコ、その名を継いだ2代目はロコさん。


「ロコさん、ロコさんも異世界から召喚された勇者だったんですよね?」


「おう、どうした急に。今は引退してるけどな」


「ロコさんの名前って、頭に勇者がついてないんですけど……どうして勇者じゃなくなったんですか?」


「帰化したから」


「帰化……」


「私は公国に籍を移して、正式にこの国の国民になったから、その時点で『異世界から召喚された勇者』じゃなくなったんだ。まあ、国のためには戦うけどね。

 異世界から召喚された人間はみんな勇者って呼ばれているらしいよ。この世界がこんな状態になる前からの習わしらしい。まあ今じゃ、この世界に帰化しようって奴の方がよっぽど勇者だけどね」


「へー……そうなんですか」


 ……俺は一体、何を聞こうとしていたのだろう。

 この絶望の世界に帰化する……。そんな選択を、メリッサがする訳がない。

 だって、この世界の住民になるんだぞ。

 兄貴と別れることになるんだぞ。

 いったい何があったら、そんな選択をするっていうんだ。

 バカバカしい、そんな僅かな爪先ほどの『希望』に、俺はすがろうっていうのか。

 いくらなんでも、そんなドジすぎる妹が居るわけ無いだろ。

 だいたい勇者クレゾールの考え出した設定か、そうでなきゃ、召喚されてない妹が召喚されたみたいにお話をでっち上げただけか。


 万に一つ、妹がこの世界に帰化としたら、妹はもうこの国の国民だ。

 その国に対して兄貴が反逆して、追放されたらいったいどうする。

 勇者グルツみたいに、何度解散しても、再召喚されるチャンスをなんとかして掴んで、根気強く軍と話し合う方法があったはずなのに。

 まあ、再召喚されるかどうかは、もう軍のさじ加減だけど。兄妹揃って、帰還できるかどうかさえ怪しくなるじゃないか。

 やっぱり軍の睨んだとおり、《評議会》と裏で繋がっていたとしか思えない。

 だから召喚師を脅して、無理矢理、元の世界に自分を帰還させるしかないんだ……。

 あ、そうか、だったら同じ手口で妹を無理矢理帰還させるっていう方法もあるのか……。


 ……あれ。

 ちょっと待てよ。


 ひょっとして、メリッサが居たとしても、おかしくないんじゃないか?

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