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84 立てこもり勇者たちの結末

『第五宇宙の惑星ミルフは《飛竜武器開発評議会》の本部が設置されている場所だ。君や他の勇者達の持っている、飛竜のツメの能力がそもそも、その惑星の勇者の能力のコピーでしかない』


 勇者フリッツは、言った。

 確かに、俺の武器は、本来召喚術が使えるサモンロッド。

『第五宇宙の飛竜のツメ』を召喚して武器にしている。


「じゃあ、惑星ミルフの勇者召喚を、禁止する、という事は」


『必然的に、軍はその勇者の能力が必要になった場合、代わりに、飛竜のツメの召喚を増やす事になる』


 ……そんな、バカな。


『……さらにマズい事には、立てこもり勇者の9割が飛竜のツメの使い手だ。この提案は、立てこもり勇者達が戦う事を約束するものなので、必然的に飛竜のツメを軍が登用することを約束させるものと変わらない。……すべて召喚によって得られる利益を《評議会》が独占する方向に働いてしまう』


 立てこもり勇者達の要求は、最初から召喚禁止だ。

 その中に、勇者クレゾールの惑星ミルフが含まれていたってだけで。


「そんな事の為に……単なる偶然に決まってるだろ、交渉がこういう形になったのだって、偶然じゃないか。

 最初は飛竜のツメを使っていた勇者達の惑星も召喚禁止する方向だったんだぜ? それが勇者グルツの判断で、惑星ミルフだけって事になって……。

 あいつが《評議会》と関わってるなんてこと、あるわけないだろ。勇者グルツはたしか、第三宇宙から来たって言ってたぞ。全然違う宇宙だ。《評議会》の為に働くなんて、あるわけないだろ」


『勇者マキヒロ、どういう経緯をたどったにせよ、この提案が《評議会》にとって都合の良い形のものだというのは変わらないんだ。そして、裏で誰かが操作した結果、このような提案になったという可能性は捨てきれない。

 立てこもり勇者の中に、《評議会》の為に働いて、これが成功すれば確実に《評議会》から報酬を得られる人物が1人だけ居る』


「まて……そいつはもう、言うな」

 

『勇者クレゾールだ。彼の兄妹の1人が、《評議会》の役員だ。勇者クレゾールだけが、帰還してなおも、召喚によって得られる利益を《評議会》を通じて得られる形になる。

 勇者ベリタスの調査によれば、勇者クレゾールはビヒーモス戦中も、《評議会》の関係者と何度も接触をしていたことが明らかだそうだ……。

 なので、勇者クレゾールが最初から《評議会》の計画に沿って動いていたという可能性は捨てきれない。勇者グルツや他の勇者達も彼の言動に惑わされ、洗脳されている恐れがある。

 気の毒だが君と勇者クレゾールを、本件の話し合いから除外する事が決定した。今後は、君たち抜きで交渉を詰めなければ軍は納得してくれないだろう』


 何か言っているが、全部右から左だった。

 ……嘘だ、当てつけだ、言いがかりだ。

 そんなのは偶然じゃないのか。結果だけ見て全部仕組まれていたとか判断されるのか。

 俺たちが一体、その過程でどんな事を考えていたか、そんな事も一切無視されるのか。


「……俺たちは、そんな事言ってる場合じゃないんだよ。嘘か本当かなんて、考えている暇ないだろ。だって、早くしないと、あいつの妹が大変な事になりそうなんだよ……兄妹達だって、バラバラになってて」


『勇者マキヒロ……最後に聞きたいんだが』


「……ああ」


『君は、勇者クレゾールの話が本当に真実だと、信じているのか?』


 ……心臓が止まる思いがした。

 俺は、勇者クレゾールの話を信じているのか?


 自分のステータスを開いて、その称号を眺めてみた。


《華やかな王国の貧民街で生まれ育ち、親の顔も分からぬまま奴隷としての半生を過ごし、ようやく奉公先でささやかな幸福を見つけるも、6人兄妹の長男に裏切られて半死半生の傷を負い、意識がもうろうとしている時に召喚師からの導きを受け、『兄妹を助ける』という望みと引き替えに自ら死地に赴き、飛竜と共に戦い続けると誓いし者》


 ……『飛竜』の経歴詐欺。

 ……嘘っぱちの、嘘しかない、嘘まみれの称号。


 勇者クレゾールの経歴とほとんど同じだった。

 どうして『飛竜』がこれを知っている?

 やっぱり、裏であいつと『飛竜』は繋がりがあったんじゃないのか?


 第一、妹は……?

 妹はどうなっている?

 どうして戦場にいない?

 今、一体どこに居る?

 あの番号は、本当は一体なんだったんだ?

 一体どこの誰と繋がっていたんだ?


 俺は、勇者クレゾールをちらりと眺めた。

 頭を抱えて、まだ落胆した様子の勇者クレゾール。

 一体、どんな内容の話をしたのか。

 今までは、単純に妹がピンチなのか……と思っていたけど。

 そもそも同じ世界から来た妹こそ、《評議会》と裏で繋がっている仲間だったとしたら。

 ……勇者クレゾールが、操られているのだとしたら。


「いや……いいよ」


 俺は、小さな声で言った。

 ……たとえどんな言い訳をしたところで、覆しようのない事実がそこにあった。


『いいのか?』


「だって……お前ら、俺がなんて言った所で、信用する気ないだろ。……俺も《評議会》の『特別栄誉会員』だから」


『飛竜』が、いつの間にか俺につけた称号。

 もし彼らに少しでも都合の良い提案が通ったら、今後、どんな報酬を俺が受け取らされるか、分かったものではない。


「それで、勇者クレゾールと俺が交渉から外されるんだよな?」


 勇者フリッツは、それに対しては答えずに。


『俺は個人的に聞きたかっただけだよ、勇者マキヒロ』


 そう言った。

 俺は皮肉を感じて口の端を歪めた。

 勇者フリッツも、そんなどうでもいい『希望』にすがるものなのか。

 ひょっとすれば俺も『希望』を抱いてくれるとでも思っていたのかもしれない。


 俺は、背後でうずくまっている勇者クレゾールに、一度目をやった。

 ひどく悲観に暮れている。

 けれど、俺みたいなクズに彼を助けることは、できない。

 俺ひとりが足掻いた所で、この事件はもう、どうにもならない。


 結局俺は、誰も救う事が出来なかった。

 遠い惑星で兄貴を待っている『想像上の六人兄妹』も、『想像上のメリッサ』も。

 そして、この場にいる2000人の勇者、誰ひとりとして。

 誰も救う事ができなかった。


 俺は、黙ってその場を去って行った。

『希望』を胸に抱いている勇者達を、その場に置き去りにして。

 そいつはいずれ、俺が手を下さなくとも『絶望』に変わるはずだ。

 やはり、俺たちがこの世界に『希望』なんて、抱くのは間違っている。

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