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66 運命の分岐点

 円卓の間の勇者達が、ざわざわと騒ぎ始める。


「……これだけの情報で、もう解決法を見つけたというのか?」


「さすが勇者マキヒロ……ただの噂だろうと思っていたが、やはり平民の発想力とは思えんな。怪しすぎる」


 俺の隣のスキンヘッド勇者だけが、「ふっ、だから言っただろ?」、みたいに余裕の笑みを浮かべていた。

 ちくしょう……もう勘弁してくれ。


 エルフ耳勇者は、ぱっちりウィンクしてくる。

 キモイ、こっちみんな、BL勇者。


 ああもう、なんか、適当にうっちゃりたい気分だけど。

 こんな大人数でプレッシャーかけられたら、もう流れに従うしかないな……。


「勇者マキヒロ、何か浮かんだ案があるのなら、言ってみたまえ」


 カイン老兵が、俺の発言を促した。

 俺はごくり、と喉を鳴らす。


「……えーと、大した事じゃ無い。そこのエルフ耳がふかしてるだけだけど、2パターンあるなと思った。

 ……こんだけ向こうの情報が筒抜けなら、勇者が踏み込んでいって制圧する。これが一番現実的で、手っ取り早い方法だと思う。

 ……たしか、勇者は反乱を起こしても、召喚エネルギーの供給を断てば、簡単に無力化できるって話だったはず」


 俺が召喚師や飛竜から受けた話によると、たしかそうだった。

 この世界では、食糧を他の世界から召喚しなくては食べていけないから、立てこもり勇者もそんなに長いこと籠城できない。

 さらに、飛竜のツメを召喚しているサモンロッドのエネルギーも召喚師が供給しているから、ツメを無くせばほとんど無力化できる。

 俺の携帯みたいに、特殊なアイテムを自前で持ってきている奴もいるかもしれないが、最低でも主力武器の飛竜のツメは消せる。これで9割方の勇者を無力化できる。


 すると、周りの勇者達が毛色ばむのを感じた。……なんか間違ったこと言っただろうか。

 ふむ、とカイン老兵が肯き、真面目に聞いているのをたのみに、俺は次を話す。


「もうひとつのパターンが、飛竜のツメを持っている勇者達に、俺の知っているビヒーモスとの戦い方をレクチャーする方法……だけど、こっちはそんなに現実的じゃ無い」


「どうしてだね?」


「確かにアイデアはあるにはあるんだけど、難易度がけっこう高いんだ。本当にこの方法で大丈夫って、みんな疑問に思うような突拍子もない方法だし。……それに、1822人もいて、理性的な状態じゃない。簡単にこっちの話を聞き入れてくれるとは思えない」


 ……けど、マクロ開発の技術者がいるから、あいつに頼めばどうにか新スキルとして完成させてしまいそうだけど。

 ……ああ、しまった。心の中でも俺に不利になる可能性は、思いついちゃダメだろ。

 考えるな。なにも考えるな。無になれ。

 エルフ耳勇者が、にっこり笑っている方を、なるべく見ないように努力しろ。


 ふう、とカイン老兵が眉間をもむ仕草をした。


「……1つ目の方法は、現実的な問題があってそれほど簡単ではない。

 あそこは蘇生魔法の効果範囲外なので、制圧中にもし死傷者が出てしまった場合、蘇生にかなりの時間がかかる。

 それも各世界の勇者2000人規模の制圧となると、完全な無力化は難しく、死傷者ゼロとはならないだろう。

 少なくとも、全員蘇生させるには、丸1日から3日はかかってしまうと見なくてはならない。

 無論、勇者達の制圧そのものは不可能ではない。9割方の勇者はそれで片がつくだろう。残り1割の『ツメを持たない勇者』に関しては、その気になれば方々に分散させ、ビヒーモス戦の後で個別に複数の部隊を向かわせ、処理すればいい。

 だが……それでは問題の後回しにしかならない」


「ですよねー……」


 その方法だと、現在進行中のビヒーモス戦のために、また新たに大勢の勇者を召喚しなければならなくなる、と言うことだ……。

 だがそうすると、召喚師に大きな負担がかかってしまう。


 この戦いでは、召喚師の役割は、非常に重要だ。

 新たな勇者の召喚、勇者の食糧や武器の供給、そして蘇生魔法効果範囲の誘導。ひょっとすると、勇者達が地下空洞を移動するのも、召喚師の力が必要なのかも知れない。

 特に、蘇生魔法効果範囲の誘導が遅れるのは、かなり問題がある。

 格納庫Bに移行した直後みたいに、25万人で組んでいたローテーションが、ぶっつりと途切れてしまう恐れがある。


 ……なるほど、ごもっともだ。

 ただでさえ、俺をようやく召喚して喜ぶぐらいの、新米召喚師の手さえ借りなければならない状況なのだ。

 現状、立てこもり勇者と正面から戦うという方法は、戦力の浪費に繋がってしまう。軽々しく取れるものではない。


「2つ目の方法だが……我々もまさにその方向で考えていた所だ。こちらも同様に、現実的では無いという認識だったが……じつは、つい先刻この映像を見ている内に、ある解決の糸口を見つけたのだ」


 カイン老兵が、机の上のプロジェクターを睨みつけた。誰かと通話している時みたいだった。

 プロジェクターは、その意を読み取ったように、スクリーンにある映像を浮かびあがらせた。


 ざざーっと砂嵐が流れて、画面が切り替わる。

 画面は薄暗い、魔力炉の内部。曲がりくねったパイプが壁を走り回っている、狭い一室。

 そこには複数の人物がいて、なにやら密談の雰囲気をかもしている。


 そこにある勇者達の姿を見て、俺は息を呑んだ。

 ……そこには、赤鬼のような勇者と語らう、脱色したような金髪の勇者がいた。


「画面奥にいるこの2人が、立てこもり勇者の主犯格と見なされている。第五十勇者連隊、勇者クレゾールと、同じく第五十勇者連隊、勇者グルツ。……いまから約1時間前の、彼らの話し合いの様子だ」


 ……うそだろ。

 今度こそ、俺はマンガのような反応をしてしまった。


『おい、勇者グルツ、何をそんなにイラついている?』


 画面の中の赤鬼の勇者グルツは、ちっと舌打ちをし、睨みつけるような視線を送った。


『軍の返答が遅すぎる。……あいつら、わざと時間がない状態に持ち込むつもりじゃないか……?』


『慌てるな、焦ると向こうの思うつぼだ』


 その声を聞いた途端、背筋がぞっとした。

 勇者クレゾールのこんな険しい表情、俺は初めて見た。

 今まで俺が知っていた勇者クレゾールとはまるで違う、切れるような凄みがある。


『人質が居る以上、こちらの優位は変わらない。いずれも各世界から集められた選りすぐりの勇者たちだ、無駄に扱うことはできないだろう』


 ……おいおい、何言ってるんだ? 人質ってなんだ? 訳がわかんねぇよ、勇者クレゾール。


 だって、俺が1つ飛ばすのに苦労していた巨大な岩を、3つくらい纏めて飛ばしてたお前が……。

 ビヒーモスに、ダメージ5000ポイントぐらい与えとくって、俺の想像もつかないようなデカい目標を掲げていた前が……。

 これはなんかの間違いだ。……そんなバカな。だって俺は、ついさっきまで、こいつと通話してて……どうして、お前がこんな立てこもりなんて真似をしているんだ……。


 映像と共に聞こえてくる音声に混じって、カイン老兵の声が響いてきた。


「……勇者クレゾールは、元の世界では《死の風神》の異名を持つ、近接戦闘では右に出る者の居ない実力者だ。

 ……彼らのような、一部の強い勇者が中核的存在となり、他の勇者を人質にすることで、軍に対してある要求をしている」


 勇者が、勇者を人質にするってか……。

 ストライキじゃダメなのかよ……。


「……なんの要求ですか」


「立てこもりをしている勇者全員と、特定の勇者の、『元の世界への帰還』だ。……そして勇者として召喚された家族が居る者はその帰還と、元の世界にいるはずの仲間を勇者として召喚することの、限定的な中止を軍に要求している」


 ……俺と同じ……だった。

 この絶望の世界から、自分の住んでいる世界の人々を守りたいという……。


 ああ、そうだ。どうして俺はあいつの気持ちが分からなかったんだ?

 ……そうだった、確かにあの時。

 ……他の勇者達からはぐれ、独りでビヒーモスに戦いを挑んでいった、あの時。

 ……勇者クレゾールは、こいつは、もうとっくにこの世界に、『絶望』していたんだって……。

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