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63 フィース・ワールド攻略法

 開発中の新スキルがボツになり、不服そうな顔をする面々。

 けれど、まさかそれが『法』に抵触するからボツとは言えない。

 しかも『攻略法』という法であるなどとは。


 ――勇者アリスがこれを知ったら、絶対に使いまくるだろう。チート能力の本領を発揮して、鬼のように活躍してしまいかねない。

 だが、俺も勇者アリスも、どうしてもこの世界で活躍してはならない理由があった。


 俺たちみたいな弱っちいMPゼロ勇者が、他の勇者達を押さえて活躍すれば、MPゼロ勇者の召喚が公に認められてしまうかもしれないのだ。

 特に飛竜のツメにとっては、『MPゼロ勇者でもビヒーモスとまともに戦える武器』という事実を世に知らしめる、絶好の宣伝材料となる。


 そして、それは恐らく、紛れもない事実となるだろう。

 自分がもうける事しか考えていない飛竜は、飛竜のツメを宣伝しまくり、大量生産する。軍も大量の勇者を召喚しなくてはならない、なるべく多くの勇者を召喚できるようにするために、どんどん安い勇者を召喚する方針を推し進めていく事だろう。

 その結果、強い勇者は召喚されなくなり、俺たち地球人を含む、か弱い村人ばかりがこの絶望の世界に召喚される事になる。存亡の危機に陥っているこの世界なら、なおさらだ。そして大量生産されて値段の下がった武具を持たされ、この絶望の世界で戦わされる事になる。


 弱い村人が『希望』を胸に戦い、強い勇者が戦わない。本来なら逆のはずなのに、そんなおかしな逆転構造が成立してしまう。


 これは飛竜の、ある意味、目論見通りの展開だ。

 ……俺のようなクズを伝説の勇者に仕立て上げる、などとほざいて『希望』を与えようとしていた飛竜の計画にすぎない。

 そもそもチート能力者の出現の仕方からして、何かがおかしかった。出来すぎている。裏で仕組まれている感がしてならないのは、決して俺の考えすぎじゃないはずだ。


 ……飛竜、俺は絶対に、お前の思惑通りにならないからな。

 だが、俺に一体何ができる?

 ……元の世界に戻って、ぜったい召喚には応じないようにと、世界中の人間に発信するなんて事は、常識的に考えて不可能だ。

 軍に、この世界の召喚師に、MPゼロ勇者は召喚しないように訴えるのか。言ったらただの傭兵でしかない俺に、いったい何の権限があるんだ?


 だから、俺はしだいに心の中で、ある目標を決めていた。

 この世界で、MPゼロ勇者に対する『希望』だけは、絶対に育ててはならない。


 現在確認されているMPゼロ勇者は、3人。

 俺と勇者アリスと、どこに居るか分からないアリスの兄。

 この3人が活躍して名を上げてしまえば、未来に待っているのは、そんなBADENDだ。

 このまま、飛竜の思惑通りになってはならない。

 せっかく飛竜のツメを使った攻略法が見つかった所だが。

 ……残念だが、この攻略法は、俺の手で握りつぶさせて貰う。

 ……俺が法だ。


「ていうかさ……ほら、あれだよ、これはタイミングがシビアすぎるっていうか」


「いや、岩の大きさを細かく指定していったら、自動で出来るようになるはずだぜ」


「さすがに難易度が高すぎるんじゃね? もう少し簡単な、できるところからひとつずつ、手をつけた方が早いと思うんだけど?」


「うーん、いいと思ったんだけどなぁ。インパクトがあって、他の勇者への宣伝にもなるし……」


 ……こいつも俺を使って宣伝するつもりだったのかよ。

 どうやら勇者ドバルは、他の勇者達に俺と研究部の存在を知らしめたかったらしい。

 ……この世界には、こういう天然もいるからあなどれない。本当に早まらなくてよかった。


 ジャンプとストームの組み合わせでできるスキルは、もうあらかた出し尽くした感があった。

 これだけだと不安がある。勇者アリスでも難なく習得してしまいそうであった。

 アイデアが浮かばず、うーん、と俺たちは頭を悩ませていた。


「あ、勇者ドバル。そういやお前、休憩15分しかなかったんじゃないのか。大丈夫か?」


「ん? ……あれ、そういや……軍師が呼びに来てねぇな」


 勇者ドバルは、頭を掻いて、ログを確認していた。


 クエストを全員放置しているとまずいと思い、さすがに休憩申請をしておいたのだが、そろそろ30分が経過しようとしている。


 総プレイ時間 37時間00分05秒

 ビヒーモスは2本目のライフゲージが6、7割方削れていた。


 もうかれこれ4時間もこの瓦礫撤去クエストにかかりっきりなんだな、俺は。

 いい加減、勇者クレゾールを呼び戻さないと、絶対に終わらないぞこれは。

 ミッション失敗にならないのが不思議でさえある。幼女軍師は一体、なにをやっているんだろうか……。


「いつもなら、終了5分前には連絡がくるんだけどな……やっぱ来てねぇわ。なんか最近、妙に連絡が遅くないか? はっはぁ、ついにあのロリ軍師、放置プレイに目覚めたな!」


 勇者ドバルが軽口を叩くと、技術部の面々も同じ事を言った。


「そういや、俺も。ミッション終わったのになかなか成功判定が来なくってさ、雪降ってるところで30分くらい待機させられたんだけど。……そうか、あれは俺が永眠するか逆に目覚めるかの強制二択を迫られていたわけだな。むっふぅー!」


「サバ落ちでそこまで楽しめるとか、お前らの精神構造が羨ましいよ。

 ……俺はビヒーモス叩いてたから気づかなかったけど、どっかでシステムに負荷がかかってんじゃないか?」


「えー、この程度で処理落ちするとか、俺の世界のサーバー採用してたらありえねぇよ? ロリ軍師に管理方法を手取り足取り教えるクエストこねぇかなー」


「俺んちの自家用サーバーでも出来ると思うよー。卑猥なアフィが視界にちらつくだろうから、ちょっと我慢して貰わなきゃだけど、むっふう」


「あれだな、さっきからずっと言おうと思って我慢してたけど、お前ら救いがたい変態だな!」


 同じ事を考えていたのは、どうやら俺だけでは無かったらしい。

 そうだ、任務遂行中に、軍からの連絡が、途絶えてしまっている……。


 無論、こういう事もいずれ起こるだろう、と俺は予測していた。

 下手な『希望』さえ抱かなければ、こういうストーリーの展開は、簡単に読めてしまうものである。

 召喚師ともども、俺たち勇者を捨てて逃げる可能性もある。

 最初の頃は、そんな考えつく限りの最悪のパターンを考えていた。


 しかし、こうやって戦い続けているうちに、この世界は俺が想像するよりも最悪じゃ無いのかもしれない、ふと気づいたら、そんな風に油断してしまいそうになっていた。


 気がつけば、変な仲間たちも居るし、無限に思えた戦いにも、終わりの目処がつき、最悪に後ろ向きではあるものの、俺の成すべき目標まで定まっていた。


 もし、最悪の展開じゃなかったとしたら……ただ単に、連絡にラグがあるだけだとすれば。

 ……軍師も、何か問題が起こって、その解決に奔走しているに違いない。

 ……そんな風に、つい甘えて油断してしまいそうになるのだった。


 少なくとも、ここには俺と同じ事を考えている仲間たちが居る。

 勇者ドバル達も、軍師はただ忙しいだけなんだと、そう考えて、気楽に構えているみたいだった。


 ……つまり、そういう、勇者ドバルらしい、フラグにしかなり得ない、油断をしていたのだ。


「しゃーねーな、じゃあ、そろそろ俺たちは肉体労働に戻りますかね……お前らも、作業しながらなんか新スキルのアイデア考えとけよ? くれぐれも、エロいスキルとか考えるんじゃねーぞ、いいか、絶対に、考えるんじゃねーぞ!」


「ふっ、甘いな勇者ドバル氏。俺くらい妄想癖があると、エロい事は無理に考えなくても、向こうから勝手に浮かんでくるもんだぜ常考。

 だが今回ばかりは仕方ない、分かりやすいフラグを立ててくれた勇者ドバル氏の顔を立てるために、少々本気を出させてもらうとするよ、キリッ」


「お巡りさん、この人とこの人です。僕は関係ありません」


 技術部3人組ががやがや言いながら、作業に戻っていく。

 ……本当にあいつらに任せて大丈夫だろうか。


 不意に、無限ループの勇者アリスはどうなっているだろうかと気になった。

 通話申請をしようとしたとき、それを遮るように、不意に視界の隅に、幼女軍師の顔が現れた。


『勇者マキヒロ、現在進行中のクエストからいったん離脱しろ。貴様に緊急クエストを言い渡す』


 4時間振りの幼女軍師は、どことなくやつれた面持ちをしていた。

 小さな口をつぐんで、なにやら真剣な表情で俺を見つめている。

 その口調に、いつものような豪快さは無い。

 なぜか言葉を選んでいるみたいだった。

 いつもとは違う、幼女軍師のまとった空気に、俺はそこはかとなく緊張した。


 一体何が起こっているのか、これから俺に何をさせようとするのか。

 それはビヒーモス討伐よりも重大な事なのだろうか。

 俺には、まったく予想もつかなかった。


『これより、貴様には市街地を経由し、市議会議事堂へと向かって貰う。……戦闘に巻き込まれる危険も予測されている、装備はぜったいに外さないようにしろ』


 ……今までにないタイプのクエスト。

 ……市街地で、戦闘の危険。

 ……まさか、『小さな魔物』が出現したとか言う、あれじゃなかろうか。


 俺は、そんな風に思っていた。

 後から冷静に考えれば、本当にそんな理由だったら、俺みたいな素人を名指しで呼ぶ必要はないはずだった。

 なぜなら、魔物退治に慣れている勇者なら、もっと他にたくさんいるはずだからだ。

 俺はようやくビヒーモスを叩けているニュービーでしかない。

 他の魔物との戦い方なんて、知るはずもない。


 そう、俺は、油断していたのだ。

 まったくの、油断だった。

 つまり俺は、自分でも気づかないうちに、この世界なんてものに、『希望』を抱いてしまっていたのだ。

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