62 新スキル開発風景
その後、俺は修行の一環として、勇者ドバルと連携し、『マクロ』開発に取り組むようになった。
俺の使えるスキルの数は少ないものの、辺りには大量の岩が転がっている。
適当に小岩を叩いて、崖から落とし、ゲージを満タンにしておくのは造作もない。
そして俺は、そのうちの1つ、大きすぎず、小さすぎず、丁度良い巨岩を見定めて、その前に立った。
【ストーム】
ストーム機能も、念じるだけで発動できるようにしておいた。
攻撃、ブリーズ、ダッシュ、ストーム、ジャンプは、それぞれスキル名を念じるだけで発動するように設定してある。
なんで最初からこういう風にしていないの、と思ったが、おそらく同じ名前のスキルが既にあって、ややこしくなったら軍が採用しにくくなるから、武器開発者があえて手を加えなかったんだ、というのが勇者ドバルの意見だった。
なるほど、飛竜らしい考えである。
風をくるくるまとった飛竜のツメを振りかぶると、一気に巨大な竜巻に成長する。
大岩を浮かばせて、ゲージがエネルギーを放出する間、5秒カウント。
1、2、3、4、5……!
【ダッシュ】
ブリーズ機能をダッシュ機能に切り替える。
一度発生した竜巻は急に消えるわけでは無い、慣性の法則である程度残っている。
その力がまだ大岩に影響している間に、ダッシュのエネルギーを溜めるようにじっと待機し、また4秒カウント。
1、2、3、4……!
【ジャンプ】
4秒間だけ溜まったゲージを使い、素早く岩に向かって跳び上がる。
ゲージはほとんど溜まっていないが、あまり溜めすぎると、竜巻が消えて大岩が落下してしまう。
タイミングの見極めは非情にシビアだった。だが、ネトゲ廃人の俺に、この程度のタイミングの見極めは朝飯前である。
短いジャンプによって竜巻の後を追った俺は、素早く大岩の表面を蹴って、その上に登り詰める。
まだ大岩は空に浮かんだ状態だ。
空に浮かぶ岩の天辺に登り、両脚で立った俺を、勇者ドバルと他の勇者達が見上げ、手を叩いて賞賛した。
「すげー! やっちまった! あんたすげぇ事をやっちまったよ!」
「いまの切り替えは何秒!? 5秒、4秒!?」
「5秒、4秒! よーし、新スキル『未確認飛行物体』、ぜったいに完成させてやるぜ!」
……要するにあれだ、俺たちは才能の無駄遣いをしまくっていた。
こんな曲芸を勇者アリスに教えて、一体何をさせようというのか、実はほとんど考えていなかった。
正直、困難なら何でも良かった、というのが本当のところだ。
そう、俺が必死に考えているのは、修行という名の、単なる時間稼ぎ。
複数のスキルを組み合わせ、自在に使いこなすための高度な修行である。
ゲージの溜まる速度や、少ない量でどれだけ飛べるかを把握しなければ使いこなせない、この複合技術は、マクロを使わなければ、勇者アリスにはきっと難しいだろう。
理由は簡単、ビヒーモスに突っ込む時に、彼女の弱点が露見したからだ。彼女は飛ぶとき、ゲージの残量を確認しながら飛んでいない。
それでも彼女には凶悪なビギナーズラックがあるので、5回ぐらい連続成功するまで繰り返させる。
俺なら不可能では無いが、彼女ならまず、確実に失敗する。
そしてこれすら出来ないようでは、ビヒーモスの肩に跳び乗るなど10年早い、と言って、俺は彼女を育てる役目を放棄するのだ。
精一杯教えたつもりだが、やはり私には無理だった……。
彼女には飛竜のツメを扱う才能が無い、他の武器のインストラクターを探す事だ。そしてこれだけは確かだ、彼女にとって一番幸せなのは、もう勇者を諦める事だと……。
などとご託を並べて、俺は元の引きこもりネトゲ生活へと返り咲くのである。
『希望』を打ち砕く事で、世界に本来あるべき姿をもたらす。
俺の計画は順調に進んでいる。順調すぎて恐いぐらいだ。
上空から戦場を見晴らす俺は腕を組み、ひそかに忍び笑いを漏らしていた。
しかし、天井近くから格納庫Bを見下ろせるのは壮観だった。
ここからなら、ビヒーモスの姿もよく見える。
あ……ビヒーモス、上から見ると、首筋や背中ががら空きだ……。
そうか、第二形態のビヒーモスは、足元の歩兵勇者にばっかり目が行っているからな……。
地面に生じている衝撃波も、この位置からなら、簡単に回避できそうな……。
ゆるゆると、上空の巨岩は地上に降り始めていた。
この状態からなら……短いジャンプと、ホバリングを繋いでいけば……そのままたどり着けそうな案配ではあるな。
鱗がけっこう剥がれているから、どこにたどり着いても滅多打ちにできそうな……。
あれ? ひょっとして俺、攻略法見つけたんじゃないか?
やがて、竜巻の力が弱まり、巨岩はゆっくりと降りてゆく。
再び高台に、すとんと着地した巨岩から降りた俺は、期待に胸を膨らませる技術部の面々を見渡し、彼らの希望を打ち砕くひと言を言った。
「みんな、盛り上がっているところ悪いんだが、この新スキル開発は……中止にしよう」
「「「ええっ!」」」
どよめく技術部の面々。俺は首を振って、なにも聞こえないふりをした。
……こんな新スキル、絶対に完成させちゃだめだ。
……特に、勇者アリスには教えられない。




