60 言語設定の裏機能
瓦礫撤去の作業員は、方々に散らばってヴィヴィッド・ポーションを飲んでいた。
チュートリアルを読むことは、後でも出来る。
その間に俺は、勇者ドバルの持っている情報を、根掘り葉掘り聞き出す事にした。
「あのLINEっていうか、文字だけ相手に送るのって、どうすればいいの?」
「ああ、チャット機能か? メニューに通話機能ってあんだろ。それの呼び出し音の設定をいじくっただけだよ」
「呼び出し音……そうか、そういやお前、変な呼び出し音使ってたよな?」
精霊が脳内に直接呼びかけるような、不思議な呼び出し音だった。
どうやら設定で色々と遊べるらしい。
勇者ドバルは、どこか誇らしげだった。
「無音の文字だけにして、伝えたい相手に通話して、すぐに切る。すると呼び出し音の文字だけが、相手の通話ログに残る。そんだけ」
なるほど、と思い、さっそく試しにやってみる。
だが、手順がめちゃくちゃ複雑らしく、俺は眉をひそめた。
「ちょっと待て、つまりそうするためには……。
【ポーズ】→【通話機能】→【呼び出し音設定】→伝えたい文章→【呼び出し音設定完了】→【通話機能】→伝えたい相手の勇者番号→【通話終了】って感じで、念じるんだな?
この手順であってるか?
お前、毎回こんな手間かけてチャットしてんの? ……念じるだけでも、頭が痛くなるんだけど」
「そんなもん毎回やってたらアホだろ。そこはもちろん、裏ワザがあるんだよ」
「すげぇな、教えてくれよ」
「知りたい? 知りたいの? そうだろうな、お前、女の子の勇者番号たくさん持ってそうだしな、これみんなに教えたらさぞモテモテだろうなー」
「いや、俺が知ってる女の子の勇者番号は2人だけだがな……」勇者アリスと、その保護者の勇者リリーだけだ。
「本命の方とチャットできるぜ? すっごーい、って言われるぜ? けど、その報酬がヴィヴィッド・ポーション1本じゃ、割に合わねぇなぁ~」
「じゃ、何本いるんだよ?」
「本数の問題じゃねぇよ。俺にも1人くらい、女の子を紹介してくれって言ってんの! 分かるだろ~? 勇者マキヒロた~ん」
「あー、勇者リリーにフルボッコにされるから、それはちょっと勘弁してくれ。……代わりに、クエスト・コインじゃだめかな。これで好きなの買えよ」
コインを見せると、勇者ドバルの表情が豹変した。
がたっという勢いで立ち上がって、俺を見下ろしてくる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て! ロコの宿屋の特製コインじゃねぇか! ニュービーがクエスト受けられる店じゃねぇよ、どうなってんの!?」
「いや、ビヒーモスの鱗剥いだら、強引に押しつけられたんだけど……」
「ちくしょう、フラグはそこだったかッ! 俺、開幕からすげぇ狙ってたのに! しかも強引に押しつけられたのかよッ! あの巨乳の女主人に、押しつけられたのかよッ! ちくしょう、勇者マキヒロ、お前は俺のNTR属性を目覚めさせる気かッ!」
きぃー、と、袖を噛む勇者ドバル。勝手に妄想をふくらませて、悔しがっているらしい。
……今さらながら、この戦闘で鱗を剥いだのは特別な事なのだと思わされた。
……まあ、俺はロコさんにカモにされてるだけっぽいんだがな。
「いやいや、こればっかりはフラグとか全然ないと思うぜ? なんか弟に似てるとか言ってたし……」
「お前がロコさんの弟に似てる訳ねぇだろ! ぜってー建前だよそれ! 黒髪黒目だぜお前!」
「だろ? ニュービーだと思って舐めてんだよ俺の事。たぶんカモにされてるんだ」
「ああ、そうか、なーる……じゃねぇよ! もうルート入っているのも当然じゃんかって言ってんだよ!」
オタク的妄想の逞しい勇者ドバルを説得するのは、骨が折れた。
散々なだめすかして、ロコの宿屋の特製クエスト・コイン3枚で、ようやく落ち着いた勇者ドバルは、俺と膝を突き合わして座り直した。
他の勇者達の目を気にして、懐にコインをごそごそしまいながら、「ここだけの話だぜ」と前置きをして言った。
「メニューに【召喚言語】ってあっただろ?」
「ああ……あるな」
【ポーズ】と念じると、浮かぶメニューのひとつに、その項目があった。
召喚言語は、この世界特有の魔法の言語だ。
仕組みは依然として分からないが、これのお陰で異世界の勇者との交流もスムーズに行えている。
「そこで俺たち勇者がよく使うのが【辞書登録】だ。今、俺たちが使っている標準的な召喚言葉に、自分だけの新しい意味を追加する事が出来る。
試しに、とりあえず、あだ名でもなんでも良い。知り合いの勇者の名前を辞書登録の画面で呼び出して、その『意味』に、そいつの勇者番号を加えてみな」
俺は、辞書登録の画面で、『勇者アリス』の名前を呼び出した。
俺の辞書に登録されていた意味は、『人名』という、簡素なものだった。
ここまで来れば、説明を聞かなくてもなんとなく分かってしまうのがゲーム脳だ。
『意味の追加』という項目があったので、指で押してみると、文字を入力するテキスト・ボックスが現れる。
キーボードが無いので、ひょっとして音声で打ち込むのか、と思ったが、入力したいと思った文字がすらすらと打ち込まれていくので、打ち間違いも無くあっという間に入力できた。
人間の意図を読んでるのか。すげぇレベルの技術だ。
「あとは、【通話申請】の後に続けてその名前を念じるだけだ。
すると沢山ある意味のうち、お前が意図した方の意味、『勇者番号』だけが召喚される。
するとシステムに呼びかけるための言葉が完成する。自動的にそいつのと通話が始まるぜ」
なるほど、電話帳登録みたいなもののようだ。
ためしに、【通話申請 勇者アリス】と念じてみた。
「ぜんばい~ッ! いつ終わるんですかこれぇ~ッ!」
相変わらず落下中らしい。情けない悲鳴が聞こえてきたので、「そのうち慣れるよ」、と激励を送って切った。
「あれ……フツー、ここでかけるのって、俺じゃないの?」
「助かったよ、勇者ドバル。どうすりゃいいのかと思ってたよ。ありがとう」
「ショック、超ショック……。まあ、ここまではチュートリアルでも聞ける内容だ。大抵の勇者が知ってるよ。知らない奴がいるのは、ここから先の機能だ」
声を潜める勇者ドバルに、俺は身を寄せた。
どうやら、ここからが本番のようだ。
「俺は【チャット1】という単語に、【『ポーズ』、『通話機能』、『呼び出し音設定』】という意味を追加登録した……後は分かるな?」
……なるほど。
ネトゲ廃人の俺にはすぐに分かった。
『マクロ』を組んだのだ。




