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05 ビヒーモス

 気が付くと、俺は先ほどとは別の巨大な魔法陣の中にいた。


 さっきの魔法陣の形なんて正確に覚えていた訳ではないが、

 部屋の構造は、同じ洞窟の中のようだったが微妙に違っていて、

 周囲に白いローブを被った連中が沢山居て、

 呪文のようなものを唱え続けて居る。

 見た感じ、まるで魔法使いか何かだったが、

 どうやら勇者を蘇生させる法力兵たちなのだというのは分かった。


 法力兵たちは、フードの向こうから、大きな目でじっと俺を見ている。

 人間ではないだろう、ふつう、こんなに大きな目の人間がいたら引く。

 チワワとか、パピヨンとか、そういった感じのガチにデカい目で、

 ただ見ている。

 ここはありがとう、と礼を言うべき場面なのだろうか。

 蘇生してくれたんだからな。


 躊躇していると、幼女軍師からの怒声が飛んできた。


『何をしている! 蘇生されたら即座に任務を再開しろ! 行け!』


 ようやく、後が使えているらしい事を理解した。

 軍師の声に追い立てられるように、俺は法力兵たちの部屋から飛び出していった。


 首に手を当てて、傷も塞がっていることを確認した。

 どうやらドラゴンに囓られたと思ったが、傷はないようだ。

 痛みを感じる暇もない、一瞬だった。

 今回は運が良かったのかもしれない。

 次はじっくりいたぶられるように死ぬ可能性もあるので、充分注意しなくてはなるまい。


『ビヒーモスが地下格納庫の深部に侵入した!

 総員、直ちにマップを確認し、格納庫Aの転移門に向かえ!』


 俺はがむしゃらに走り続けた。

 長年運動不足だったので、脇腹が痛くなるかと思ったが、

 どうやらそうでもなかった。

 飛竜のツメは、ただ風船みたいに上に浮くのかと思ったが、

 前に行こうと思えば前に、横に向ければ横に、

 進行方向に俺の体を引っ張っていってくれる。

 まるでダッシュ機能だ。


 下り坂を、背中に追い風を受けて走っているみたいに軽々と疾走していった俺は、

 同じ装備でダッシュしている勇者達の軍団にぶつかった。

 人間っぽいのから、まるっきり獣みたいなの、鱗のあるトカゲみたいなのまでよりどりみどりだった。


 洞窟を乱れ飛ぶ25万人の勇者の群れ。

 まるでニコニコ超会議かコミケ会場といった有様だった。


 こいつらもみな俺と同じ、異世界からこの世界に召喚された勇者なのだ。

 全員体格差がありすぎるのだが、ダッシュ速度が変わらないというのは面白い。


 みなそれぞれの目的地に向かって、黙々とダッシュし続けている。

 立ち止まる事は許されない。

 俺は勇者の濁流の中に身を投じていった。


 凄まじい数の人の背中を見ながら、俺はマップに記されている魔法陣のひとつを確認した。

 ご丁寧に、記号の上に召喚文字が表示されていて、『格納庫A』と読める。


 通路から巨大広間へと突入し、『格納庫A』の魔法陣の中に飛び込む。

 すると、さきほどチュートリアルを開始した魔法陣から俺は飛び出した。


 通路の奥にドラゴンの群れが見えている事からも、さっきの魔法陣だと分かる。

 格納庫はすでに解き放たれたドラゴンが無数に飛び回っていた。

 鍾乳石の垂れ下がる天井を、ぎゃあぎゃあと騒ぎ回っている。

 さっきのように油断したところを食われては目も当てられない。

 逃げ道を確保しながら、慎重に近づいて行く。

 地上にはドラゴンを閉じ込めていたらしい魔法陣が5個ずつ、2列になっている。

 この格納庫にはドラゴンが10匹ほどいたらしい。

 となると、まだ10匹、別の格納庫にドラゴンがいるはずだ。


 左上に俺に与えられたクエスト「ドラゴン救出」の文字が表示され、何度も点滅している。

 まだクエストは継続しているようだった。

 そして、左下を見やると、


 ドラゴン 19匹


 ……さっきは20匹いたはずだ。

 数が減っている。


 ドラゴンの姿にばかり注意していた俺は、そのさらに奥に、とんでもない怪物を目の当たりにし、己の目を疑った。

 そこには、俺の想像を絶する怪物がいたのだ。


 余りに巨大すぎて、その辺のドラゴンが肩に留まりそうな小鳥に見える。

 全長300メートル、体重580トン。

 スカイツリーが尻尾を曲げて、地下空洞にすっぽりと収まったような巨体。


 俺の右上に、その怪物のステータスが現れていた。


 超獣王ビヒーモス。

 残りHPを表す緑色のライフゲージも3本、表示されている。


 そのライフゲージは、ビヒーモスの頭上にも3本出現していた。


『立ち止まるな! 

 まだ奴は、獲物のドラゴンに気を取られている! 今のうちに任務を続行しろ!』


 上空を飛び交うドラゴンの様子を、ほとんどあるかないかの小さな目でちらちらと伺っているビヒーモス。

 その足元に、兵士達が大量に飛びかかっていくのが見えた。

 アリやノミのように群がっていく。

 遠目には何をしているのかさえ分からないぐらい、その姿は小さい。


 恐らく、彼らは攻撃しているのだろう。

 5000人の勇者が一度に特攻するのだ。

 1人1ポイントのダメージを与えさえすれば、総ダメージは5000ポイントに昇る。

 実際、彼らの頭上には大量の0や1といった数字が浮かび上がっていた。

 それが攻撃によるダメージを表した数字であるというのは、ゲーム脳の俺には即座に理解できる。


 だが、理解できないのは、一体ビヒーモスがどのくらいの体力を持っているのか、と言うことだった。

 ようやく、1本目のライフゲージが2割弱減っているといったところだったのだ。

 あと2本のライフゲージは傷一つついていない。


 戦闘が開始してから経過した時間が、ビヒーモスのステータスに表示されていた。

 25時間48分22秒。


 ……無理ゲーすぎる。


 絶望的な戦力差に、気が遠くなりそうだった。

 だが、ゆっくり立ち止まっている訳にはいかなかった。


 俺は坂道を伝い、怪物の出現に可哀想なほど混乱し、哀しげな鳴き声をあげるドラゴンたちを救うべく、格納庫へと降り立ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  どうせ勇者呼ぶなら25万。そりゃそうだ!  戦いは数だよ兄貴! [気になる点]  後が使える  ▽支える/×閊える [一言] 誤字報告機能を解放すると捗ります。
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