54 召喚の謎
「1人でやってるって……他の連中はどうしたんだ!?」
「知らないのかよ!? 大半がお前について、ポイント稼ぎに向かったよ!」
「マジかよ……」
勇者クレゾールはため息をついた。
どうやら気づかなかったらしい。まったく、一緒にヘイト管理してたんじゃなかったのか?
まあ、前線に居たらそれどころじゃないだろうからな。
俺の荒っぽい交渉術が効を奏したのか、相手はしぶしぶながらも応じてくれた。
「……今は、ちょっと俺が抜けるとまずいんだ、代わりを寄越すから、待ってろ」
「悪いな」
「そういう言い方は無しだ」
「おう」
よし、約束も取り付けたし、俺に出来ることは大体やったな。
などと考えていると、見知らぬ勇者番号から連絡が入ってきた。
通信要請:勇者No.NAZ-20789から通信要請が入っています、
通信を許可しますか? Yes/No
……誰だろう、スキンヘッド勇者とは違うみたいだ。
ややこしいから電話帳に登録したいところだが、そういう便利機能の使い方はまだ分からない。
とりあえず、Yesを押してみると、勇者アリスの声が聞こえてきた。
「先輩、すみません……何かあったときに、連絡が取れるようにと思って。私の番号、見えますか」
「ああ、そうだったな。ごめん、うっかりしてた」
「いいえ、その……私が……」
あれ、そう言えば俺はあんなに個人情報に神経質になっていた勇者アリスの番号を、ゲットしてしまった事になるのか。
いやいや、別に彼女に気を遣っていた訳ではないのだが。
単に俺が抜かっていただけだ。
「ん、なんだ? まだ何かあるのか」
「た、頼りにしていますから、先輩の事」
それだけ言い残して、通話が途絶えた。
………………。
俺は、ログを、確認した。
何度も何度も確認した。
そして、激しい自己嫌悪に陥って、のたうち回った。
アホか俺は……。
勇者とフラグを立てて、どうすんだ……。
この絶望の世界で……。
もし仮にこれで、お互いにルートに入ったのだとしたら、もうその時点で2人そろってバッドエンドが確定してしまう所だ……。
だって、俺の正体はただのクズニートだぞ……。
元の世界に帰っても、俺は変わらない、絶賛引きこもり中のネトゲ廃人で居続けると決めていたのに。
……それに勇者アリスは、この世界に兄貴を探しに来たんだと言っていた。
彼女には目的がある。
ビヒーモス戦が終わっても、兄貴が見つかるまで、この世界に留まると言い出すかもしれない。
……そうだ、彼女は俺と違って、この世界に留まる理由があったのだ。
いや、むしろ彼女は兄貴を探さなければならない。
もしそうなら、俺が帰るときは、勇者アリスにもポーションを分けてやるべきじゃなかろうか。
俺は、腰に提げている袋からコインを取り出した。
どうせなら、このコインも全部、彼女の為に使ってやった方がいいかもしれない。
もし、この世界に留まる事になったら……俺にできる限りの事はしてやった方がいいような気がする。
……やっべぇ、今の俺、何考えてるんだ?
……番号を交換しただけで、格好いいフラグのへし折り方を今から考えてるとか、アホじゃないのか。
ええい。普通だったらキモウザすぎて悶え死ぬレベルだが、状況が状況だ、仕方ない。
すっかり忘れていたが、俺が元の世界に帰るときは、彼女にも選別が必要になるかもしれない。
その時は、できれば兄貴の分も、ヴィヴィッド・ポーションを渡しておく必要があるだろう。
勇者クレゾールの妹にも渡すんだし。
どんな奴かは知らないが、少なくとも、俺よりかは優秀な勇者に違いない。
そう言えば、兄貴がどんな奴だったか、勇者アリスにも分からないんだったよな。
召喚師に、この世界に兄が居ると聞いてやってきたんだったか。
魔法勇者という可能性はないだろうか?
だったら、俺がいままで一度も姿を見ていないのも頷ける。
フード被ってる奴もいたし。
いや、けれど、勇者アリスは俺と同じMPゼロ勇者だ。
彼女と同じ世界から来たんだったら、たぶん兄貴もMPゼロ勇者で、魔法なんて使えるはずがないんじゃないか? それどころか、特殊能力だってないだろう。それにあんなドジっ子の兄貴だから、きっと兄貴も運動神経は鈍いんじゃないだろうか……。
そこまで考えて。
俺は、ようやく、何かがおかしい事に気づいた。
……。
…………。
おかしいじゃないか。
なんでそんなのが3人も呼ばれているんだ?
俺は無限ループ中に、リア充勇者、リア充勇者と散々バカにされまくったはず。
なんでリア充がここにいんの? とまで言われたはず。
それは珍しいから。
なぜなら、他の宇宙から来た連中とは違って、特殊能力のひとつも使えない、役立たずだからだ。
だって俺が呼ばれたのは、単なる失敗……のはず。
あの初心者の召喚師バージリーが、うっかり召喚で俺を呼んだ……はず。
使えない勇者を呼んでしまって、失敗でした、もうしません……で済むはず。
偶然……だよな、これって。
まさか、そんなわけが……。
いや……ひょっとして、まったくあり得ない話じゃないんじゃないか?
確証を得るために、俺は、ある番号に通話した。
「……ふっ、そろそろ俺に連絡がある頃じゃないかと思ってたぜ、勇者マキヒロ」
スキンヘッド勇者は、あたかも待ち構えていたかのように、すぐに通話に応じた。
なんでこいつ分かっていたんだ、それはどうでもいい。
「なあ、召喚システムについて教えてくれ……極端に強い勇者は、ちょっとの間しかこの世界に呼ばれないんだよな」
「そうだな、向こうの世界でも居なくなるとパワーバランスが崩れるような勇者はな。勇者リリーは特殊なタイプみたいだが」
「それって、強い勇者を召喚すると、それなりの対価が必要だって事か?」
「いいや、召喚の対価は、他の宇宙の魔法を駆使し、その勇者の望みを叶える事だ。栄誉やボランティア精神で戦うような勇者も少なくない数が居る。何度も召喚されている勇者はそういうタイプだ。
反対に、弱い勇者ほど望みを叶えて貰いたがる。そしてその望みは相手が弱いほど叶えやすい傾向にある。その折り合いで勇者は今のような構成比率になっている」
「けど、MPゼロの勇者って、この世界にほとんど召喚されてないんだよな? 本当は、そういう奴の願いを叶えるのが、一番楽じゃないのか?」
「ああ、だが、そこまで極端に弱い勇者が活躍した前例がないため、その召喚はさすがに考えられないという事だろう。……ただ」
「ただ?」
「飛竜のツメの性能が格段に上がり続けている……このまま行けば、MPゼロ勇者でも戦えるようになるだろう。お前と勇者アリスがその典型だ」
俺の手から、飛竜のツメがぽろりと落ちた。
頭の奥がじんじんし始める。
俺はなんてバカなんだ……。
俺の考えが甘かった。勇者アリスをトレーニングし終えたら、そこでお役御免とか思ってた……。
俺が勇者アリスを鍛えて、勇者アリスが伝説の勇者になってしまったら……。
第四、第五、第六の勇者が、俺の世界から召喚されるじゃないか……。
「つまりそれ、最終的に、MPゼロ勇者ばかりが、この世界で戦わされる事になるっていう事も、考えられるのか……その方が、召喚の対価も安上がりだから?」
「ああ。理論上はそうなる。数の戦いとはそういう物だ。
しかし、別に倫理的に間違っている事ではないはずだぞ。召喚される際には、本人の希望が必ず確認されるからな……」
「ふざけんな……俺がどうやって召喚されたかはともかく、勇者アリスがどうしてこの世界に来たか、聞いた事あるか。顔も知らない自分の兄貴がこの世界にいるって聞いたからだぞ!
日本人が……特殊能力が使えないどころか、魔物と戦った経験も、戦争経験も、従軍経験もない、ずぶの素人が、もう3人も、この世界で戦わされているんだ!
お前今まで一体、何を見て来たんだよ!
自分と同じMPゼロ勇者が何人も活躍している、そう聞けば、自分もなんとかなるんじゃないかって希望を抱くようになる……ついでに他の宇宙の魔法をエサにしたら、どんな弱い奴でもおびき寄せられるんだよ!
この後の展開は読めてるぞ、何も知らない4人目が召喚されてくる! もう読めてんだよ、ウィズ・パーティが基本だからな! 何も知らない素人が4人組で悪に立ち向かうんだよ! おかしいだろ、なんで強者がいるのに弱者が戦わされてるんだよ! こんな詐欺まがいの構造を放置するのか、あまつさえ、お前が間違っていないとか言うなよ!」
ちくしょう……どいつもこいつも、飛竜の詐欺にぽんぽん引っかかりやがって。
……いや、全部俺のせいじゃないか。
元はといえば、俺が運悪く鱗を剥いでしまったのが悪かったんだ。
バージリーの失敗召喚が、失敗召喚のまま終わってしまえば、こんな事にはならなかったはずだ。
俺は、弱い勇者でも活躍できる武器であることを宣伝するための、体のいい広告塔にされているんだ。
勇者アリスは……その被害者だ。
「どう言う事だ、勇者マキヒロ。お前は俺にいったい、何をしろと言うんだ?」
「知るかよ、お前のやることはお前が考えろ! ただ、俺はもうこれ以上戦うつもりはない。勇者アリスもこれ以上、活躍させるつもりはない」
「どうしたんだ、さっきと言っている事が違うぞ、チート能力はどうしたんだ」
「チート能力なんて物に目覚めたのは、あいつの最大の不幸だ。そもそもどうして古参も知らないチート能力なんてものがあるんだ。その所為で、あいつは希望に目が眩んで、自分がどんどん不幸になっている事に気づいていない。
俺が余計な希望を与えてしまったのが、そもそもの間違いだった。あいつが良くても、そのうち自分の身の回りの人間まで、不幸に巻き込んでしまう。
……見つけたのが俺で良かった。このビヒーモス戦が終わったら、無理にでも帰らせる」
ガシャン。
何かが割れるような音がした。
振り向くと、ポーションの瓶を沢山持った勇者アリスがたたずんでいた。
……あっ、やべぇ。
彼女は唇を噛んで、無言でうつむいていた。
ポーションの瓶を割ってしまったことを、後ろめたく感じている様子……じゃないよな、これは。
聞かれた……どうしよう。




