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53 チート能力者育成計画

 やがて勇者達は去り、その場には俺と勇者アリスが残された。

 ……どうしようもない、やるせなさが残された。


 気がつけば、ビヒーモスのHPは、すでに2本目の半分まで削れている。

 そのダメージは魔法部隊の攻撃によるものがほとんどで、歩兵勇者達はやや距離を置きながら、攻撃の機会を伺っている。

 砂嵐や激震を回避し、思い切って懐に飛び込んで、攻撃を叩き込んでいる勇者も居るが、ほんの一握りだった。

 ビヒーモスは怒りのせいか、真っ黒い鱗の下で、皮膚が所々赤く光って見える。

 まるで備長炭みたいだ。


 勇者アリスは俺の顔を忠犬みたいに見上げていた。

 俺の指示を今か今かと待っている。

 俺が「行け」と命令したら、本当に飛んで行きそうな顔だった。

 そんな迂闊な真似は、死んでもできないが。


「あー、とりあえず、あれだ」


 うだうだ考えていても仕方ない、出来る事からやっていく。

 俺がこうして止まっている間にも、相手の時間を無駄にしてしまっているのだ。


 たとえプロにしか不可能に思える仕事でも、細分化すれば、ひとつひとつは素人でもこなせる単純作業になる。

 問題は、自身の能力に照らし合わせていかに無理なく計画を打ち立てるかだ。


 その単純作業をひとつずつこなし、ノルマを達成して行けば、最終的には不可能とも思える仕事でも成し遂げることが出来る。


 ……とかいう幻想に希望を抱いてた時期が、かつて俺にもあったわけだが。

 しょせん机上の空論。外的要因がちょっと加われば計画は頓挫する。

 例えば飽きるとか、ダレるとか、他の事に興味が移るとか、仕事の完成そのものに魅力を感じなくなってくるだとか。

 ダラダラと長い計画を引きずって、何かあるとどんどん目標の下方修正をしていくから、そもそもやる価値すら失ってしまう。

 俺の引きこもり生活は、そういった計画の無限に近い下方修正の末に成り立っていると言っても過言ではない。その計画は綿密、かつ、無駄がない。


 しかもこの場合、勇者アリスを前線で戦えるように鍛える、と言う仕事である。最終的に彼女を不幸にする事にも直結する。

 ここは出来る事からやっていく、みたいなフリをしながら、お茶を濁したほうが懸命だろう。


「俺は、ビヒーモス叩きに行っている連中が戻ってくるよう、連絡を取ってみる。その間に勇者アリス、お前はヴィヴィッド・ポーションを買ってきてくれないか」


「はい、攻撃の次は、ダッシュの訓練ですね」


「いや、別にそういう訳でもないんだが、結果的にそうなりそうで恐いな」


「あ……すみません、先輩」


「どうした?」


「私、この世界のお金持ってません」


「だいじょうぶ、ロコの宿屋ってところに行けば、俺が何本かリザーブしてあるから。……そうだな、コイン渡すから、10本くらい貰ってきてくれ。店主の女の人に俺の紹介だって言えば、すぐに分かると思う」


「えっ、そんなに沢山持って、戦うんですか?」


「いや、使わない分は作業の交代要員に預かっといて貰おう。そのうち何本か自由に使っていいって言っとけば、文句はないだろ」


「あ、はい、なるほど」


 勇者アリスは分かっているのかいないのか。

 ……お前に追いつくためにしているポイント稼ぎを中断して貰う訳だからな。

 たとえ相手が勇者クレゾールでも、それなりの手土産がなかったら、頼みづらいところである。


 情けないことに、俺はけっきょくロコさんに押し切られて、10本もリザーブさせられてしまった。

 どうせ俺1人で使う予定はない。余ったら他の勇者に配ろうかと思っていた所だ。


「そう言えば、行き方分かるか? ここから通路戻っていって、転移門から戦場の洞窟に出たら、市街地中央の転移門に入って……」


「……ええーと、市街地中央の転移門って、向こうに行ったらすぐに分かります?」


「いや、そんな事しなくても……マップの転移門を指で2回押してみろ」


「こうですか? ……ああ~ッ! これは、すごい! 先輩、さすがです!」


 実はマップは指でドラッグできるだけでなく、転移門を指でダブルタップすると、転移した先のマップも展開されるのだった。暇人だからこそ見つけたテクニックである。

 ……ダメだな、こんな細かいテクで喜ばれると、いい気になってしまう。

 俺は王道の勇者に対して寄り道ばかりしている遊び人だ、俺に出来るのはこういうサポートぐらいがせいぜいだろう。

 指でぐりぐりマップを動かして、具体的な行き方を把握すると、勇者アリスはツメの機能をダッシュに切り替え、張り切って出発した。


「分かりました、先輩! では、行ってきます!」


「あ、持ってくるとき、割らないように気を付けろ」


「はい! ありがとうございます!」


 そう言い残し、彼女はひゅーんと飛んでいってしまった。

 既に訓練のつもりなのだろうか、もの凄く慌てて飛んでいる気がする。

 ……大丈夫だろうか。

 他の勇者にぶつかって、倒れて瓶を割るパターンかな。……なんか心配すぎるんだが。


 勇者クレゾールに通話しても、手が離せないのか死んでいるのか、あいつは出てくれなかった。

 もう1人の鬼みたいな勇者とは、ほとんど面識がないし、いきなり連絡するのも失礼だろう。

 仕方がないので、返事が来るまでしばらくチート能力者育成計画について思いを巡らせる。


 ダッシュ機能に、ジャンプ機能に、ヴィヴィッド・ポーション。顔の前は危険地帯、ジャンプ中の進路は力に任せて変えず、ジャンプ機能をロックしてから変える。ロックすると、石にエネルギーが吸収させられるから、燃料切れで止まるより早く停止できる。なるべく高いところに飛んで、空中の体勢をダッシュ機能で調整し、ホバリングするように着地すると強い。ホバリングの練習も必要か。俺の知っている事は、大体これぐらいだ。

 問題なのは、第二形態のビヒーモスまで到達出来るか、出来ないか。これは俺もはじめてやることなので、教える事はできない。

 けれど、一度到達出来るようにさえなれば、俺はもうお役御免だ。

 その後はもう、余計なミッションに惑わされる事もない。俺は老兵として前線を退き、そしてそのままこの世界から消える事が出来る。

 ……勇者アリスを不幸にして、自分は役目を放棄する。少々後味の悪いバッドエンドだ。


 あれこれ考えている内に、そう言えば、俺がこの世界から消えるときに、他にも余ったポーションを渡す相手はいないだろうか、という事に思い当たった。

 ログをあさって、俺が勇者番号を知っている相手を探してみる。


 さっき出会った勇者リリーにも、いずれ迷惑をかけるだろうから、迷惑料として1本ぐらい渡しといた方がいいだろう。

 勇者クレゾールにくっついていった熱い勇者の分は、俺と直接の面識があるわけじゃない。偶然番号を知ってしまっただけなので必要ない。

 けれど、勇者クレゾールには妹がいるという話だった。妹の分もあわせてあいつには2本渡しておいた方がいいか。

 あとはスキンヘッド勇者に1本と、この場合はエルフ耳勇者の分も渡しといた方がいいだろうな。


 あと1人いたような気がするが、まあ、忘れていた事にしよう。あいつなら分かってくれるだろう。

 あれ、そういえば、無限ループにはまったときに5分くらい話をした、魔法勇者が1人いた……。


 ……これは悩むな。

 いまは魔法勇者部隊が頑張ってダメージを与えているところだ、きっとあのどこかで活躍しているんだろうけど、顔をあわせる機会がぜんぜんないんだよな。

 そもそも、魔法勇者にヴィヴィッド・ポーションって、必要なんだろうか? ありがた迷惑じゃなかろうか。

 無難に魔法の聖水の方がいい気がするんだが、わざわざ俺に必要ないものを買ってまでプレゼントする事もないだろうしな……。


 などと、俺が既に元の世界に帰るときのことを考えている内に、勇者クレゾールからの応答があった。


 ところで、ここは俺が怒ってもいいところだろう。

 いくらなんでも、3時間も放置するのは酷い。

 俺は大きく息を吸い込んで、大声で罵った。


「勇者クレゾール! いつまでポイント稼ぎに行ってんだッ! 早く戻ってこいーッ!」

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