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51 出来損ない勇者であることの証明

「ほう、貴殿が勇者アリスを育成するというのか? 大した自信だな」


 勇者リリーの鋭い目線攻撃に晒されて、俺は喉がからからになった。

 なんかこの人、本気で俺の事を亡き者にしそうだ。


 俺は慌ててその言葉を否定する。


「あ、いや、だから、俺は、関係ないんで……お、俺なんかより、こいつに任せた方がいいっすよ!」


 俺はスキンヘッドの方を指さした。


「責任感も強いし、リーダーシップも取れるし、優秀な仲間も多い、おまけに前の世界でも従軍経験がある凄い勇者だ! こいつの方が絶対凄いっすよ! 俺なんか足元にも及ばないくらい優秀な勇者ですよ!

 俺より飛竜のツメの扱いがうまい勇者は見つからないとかなんとか言ってますけど、こいつの人脈を使えば、それほど時間をかけずに、簡単に見つけられますって!

 こいつお薦めですから! ぜったいこいつに預けた方が、後々、勇者アリスのためになりますって!」


 俺が言ったことは事実だ。

 俺みたいなクズに預けても、できたとしても、せいぜい、飛竜のツメの扱い方ぐらいしか学べない。

 スキンヘッド勇者に預けた方が、他のもっと大事な事も確実に学ばせる事が出来るはずなのだ。


 だが、勇者リリーの目は途轍もなく冷ややかだった。

 スキンヘッド勇者も嫌な物を見るような眼差しを返している。

 あれ? ねぇ、ちょっと、お前達仲が悪くなってるの?

 仲良くしようよ! 同じ勇者なんだからさ! そういう私情を挟まずに、手を取り合おう!


「ふん……このハゲとはどうもソリが合わんな。美的感覚からしてずれているらしい」


「勇者マキヒロ、俺もそろそろ時間がなくなっているんだ。出来れば後の話し合いは、私抜きでやってくれないか?」


 スキンヘッド、まて、お前が逃げるのか!

 お前、10時間も休憩あるって言ってたじゃないか!

 お前が真っ先にドロップしたら、俺なんかじゃどうにもならないっての!


「待ってくれ、俺は、何一つ出来ない勇者だ! 実力もやる気も根気も持ち合わせていないくせに、ちょっとチャンスが到来したせいで、運悪くそれに乗っかってしまって、ぐうぜん鱗を剥いだだけで周囲に持ち上げられている、そんなダメ勇者だ!

 俺に責任預けたら全てがお仕舞いになる! すべてをダメにする! 放置か社会的抹殺が最良の手段だ! ついでに俺の総ダメージ数聞いて驚くな、ゼロポイントだ! これ以下の勇者なんてあり得るか! あり得ないんだよ! よりにもよって、俺みたいなクズに何か出来るなんて希望を抱くんじゃねぇ!」


 俺が決死の覚悟で告白すると、場が白けてしまった。

 そんな全力で自己否定されても、どうリアクションしたらいいのか分からない、と言った空気だ。

 俺だってどうしたらいいか分からなくて狼狽えているんだ。ただ、俺みたいなクズに勇者アリスを任せるのだけは、間違っている。

 横合いからスキンヘッドがやってきて、勇者リリーに耳打ちした。


「……という、設定らしい」


「ふむ、詳しく話してくれ」


「なんで戻ってくるんだよ! もう帰るんじゃなかったのかお前!」


 そうだ、いくら口頭で俺の無力さを言ったところで、こいつらに分かるはずがない。

 こいつらも、強者なんだ。俺みたいな弱者の事が理解できない。


「努力が足りないせいだ」とか、「やる気がないだけだ」みたいな、不確定要素をたよりにして、俺がいかに無力であるかという証拠をぼやかして、俺に希望を抱かせればそこで自己完結してしまう、そういう連中と同じだ。


 だから、その理論でやっていけるのは、成功を維持して行ける強者だけなんだ。俺みたいな弱者は一時成功しても、それを維持する為に摩耗するか潰れるかして結局不幸になるというのが分からない。


 お前らが与えてくれる希望なんて、しょせんそんな力しかない。弱者が失敗してコケて、周辺に甘い汁をまき散らす、そこでまた弱者を不幸から目をそらして立ち上がらせるための都合のいいシステムだ。

 甘い汁は社会に還元され、強者はその美味しい汁を公正な手段で、誰憚ることなく上手いこと吸い続けられる。

 だからこそ強者は強者として、最上に君臨し続けるのだ。希望を周囲に振りまき続け、弱者の犠牲を生みだし、この支配構造を堅持し続けるのが真の強者だ。

 希望なんてものに希望を抱くな、しょせんそれが現実だ。


 そうだ、俺みたいなクズは、そんな希望を端から潰す事しかできない。

 希望は不幸しかまき散らさない、最終的に絶望に転化する、諸悪の根源だ。

 俺は希望が嫌いだ。

 他人を不幸にしてしまう希望が大嫌いだ。

 俺に出来る事は、全力で希望を潰しておくことだけだ。


「俺は、勇者マキヒロだ」


 俺は、堂々と自己紹介した。

 こうすれば、俺のステータスが表示されるはずだ。


 これが偽らざる、俺の全て。

 俺がクズで無力であるという、動かぬ証拠。

 いまだに自分のステータスを見る事は出来ないが、MPゼロなのは証言から聞いている。

 HPなんて、3桁あるか怪しい。

 ……こんなちっぽけな勇者だ、俺は。


「……これが俺のステータスだ。今の俺には、これしか見せられない。これを見て、俺がどんな奴なのか、俺の実力のほどを、よく確認した上で、判断してくれ。……俺に出来る事なら、協力させてもらうつもりだが、それ以上の事はできない……それは理解してほしい」


 勇者リリーは、鋭い目つきで、俺のステータスをじっくり眺めていた。

 そして素っ気ない感想を漏らした。


「ふむ……なるほど、よほど自信があると思ったら、こういう事だったのか」


 勇者アリスも俺のステータスを見ている。

 目を大きく見開いて、驚いた様子だ。……ショックだったのだろう。


「先輩……やっぱり凄いです」


 同じく、俺のステータスを見ていたスキンヘッド勇者が、にやり、と笑って、こぼした。

 作戦通り、と言った、軽蔑するような、嘲るような笑みだ。


「とうとう化けの皮が剥がれたな……勇者マキヒロ、これがお前の真の実力だったか」


 ……あれ、どういう事だ?

 俺のステータス、いったい何が書いてあるの?


 勇者リリーが、読み上げた。


「加護《飛竜》というのもすでに凄いが、称号も凄まじいな……。

《鱗を剥ぎし者》、《飛竜のツメ使い》、《飛竜推薦最優秀勇者》、《飛竜武器開発評議会『特別栄誉会員』》、《飛竜のツメ公認インストラクター》だと……」


 ずらずらっと列挙された、凄まじい数の称号に、俺は絶望した。


 飛竜――――――――――――ッ!

 あのクソトカゲ、俺のステータスに、なんて事を――――――――――――――ッ!

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