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04 戦場のチュートリアル

 酔うような感覚がして、気が付くとバーベリーの姿は消えていた。

 ワープなんて初めての経験だったが、やはり酔うものらしい。

 見渡すとそこは薄暗い室内。

 凄まじいデカさの魔法陣の真ん中だった。


 四方にかがり火が立っていて、めらめらと炎をあげている。


 わああああ……。


 どこからともなく、凄まじい怒号が響き渡り、

 びりびりと天井が震えていた。

 本能的な恐怖を感じ、手脚がびりびりと震えている。


『こら新参か!? ぼさっと突っ立つな! 次が来るぞ次!』


 脳裏にきつい声が響き、いきなり頭を殴られたような衝撃が走った。

 気が付くと、俺を召喚した魔法陣が光を放ちはじめている。

 どうやら、次が召喚されてくるらしい。


 いつまでも真ん中に突っ立っている訳にいかない、と直感した俺は、

 とにかく目の前に洞穴みたいな一本道があるのを確認して、

 革の鎧をがしゃがしゃ鳴らしながら走った。


 視界の隅に、小さな四角い画面が浮かび上がり、そこにつり目の女の顔が浮かんだ。


 映像はバストアップなので体格は分からないが、見た目は幼女だった。

 顔のまわりに幾つも髪飾りが垂れ、揺れている。

 公国でもどうやら軍師格であるらしい。


『勇者よ、よくぞ来たッ! ここが世界の半分、『闇の世界』だッ!

 これまでどの世界で何をやっていようが、まったく意味をなさない地獄だ!

 まもなく貴様のステータスが視界に表示される、確認しろ!』


 走りながら確認すると、

 視界の左上に、


 所属 召喚師バーバリー→公国勇者師団 第五十勇者連隊 勇者番号 NAZ-20788号


 という文字が浮かび上がる。


 どうやら、攻撃力が変化した時と同様だ。

 所属が変わっても表示されるらしい。


 さらに、それに続いてパーティ編成なる数値が記される。


 パーティ編成

 歩兵勇者 23万人

 魔法兵勇者 2万人

 法力兵勇者 1万人

 歩兵   300人

 召喚師  2000人

 ドラゴン 20匹

 合計   約26万人


『左下に表示されているのは現在、前線で戦っている公国勇者師団の総戦力だ!

 このうち、前線で戦うのは歩兵と魔法兵のみとなる!

 法力兵は再起不能の勇者を復活させ、また召喚師は地下空洞を高速移動させるサポート要員だ!』


 ……正確には25万人じゃないのか。

 どうやら、これが現在の味方側の総戦力。

 文字通り、全ての戦力であるらしい。


 異世界から召喚された主戦力が勇者だとして。

 それ以外にも、この世界の歩兵と召喚師、あとドラゴンがいるようだ。


 いずれの数も、勇者に比べてずいぶん少ないが、ドラゴンはいかにも強大な味方になりそうだ。

 ……けど、確かビヒーモスの主食が竜だったような……。


『ドラゴンは従来ならば大事な戦力だが、ビヒーモスはドラゴンの天敵だ!

 ビヒーモスは目下それを狙って地下格納庫に潜入している!

 まずは近くに居るドラゴンの拘束を解き放ち、一匹残らず逃がすのだ!』


 なるほど。

 緊急クエスト、ドラゴンを逃がせ! 開始という訳だ。


 俺はこういう展開の飲み込みは早い。

 幼女軍師のチュートリアルを聞き流して、右上に表示されているマップらしきものに意識を集中させる。


 点滅している黄色い点が自分の現在地で、その近くにひときわ大きな赤い点がある。

 マップを見ただけでは何か分からないが、とりあえず、ここに行けという指示のようだ。

 この辺の優しさは最初のクエストっぽい。さくさく行こう。


 暗い洞窟をさらに奥へと進んでいくと、

 不気味な吠え声が聞こえてきた。

 多分ドラゴンがいるのだろう。

 通路の向こうに広い空間があるのか、そこを赤い翼や尻尾のようなものがはためいて見える。


 そちらに向かって、どんどん通路を進んでいくと、

 途轍もなく広い空洞と繋がっていた。


 地面に四つん這いになって、手脚を拘束具で固定されているドラゴン。

 その周囲を複数の兵士達が取り囲んでいる。


『それぞれの戦力は、右上のマップに、歩兵が緑、魔法兵が紫、法力兵が白、召喚師が青、ドラゴンが赤、の点で表示されている!

 ……言っておくが、ドラゴンはひどく興奮している、解放されたドラゴンには、くれぐれも近づくな……!』


 俺はその姿のリアリティに息を呑んだ。

 ライオン、トカゲ、恐竜、コウモリ、いろんな生き物を組み合わせたような骨格。

 肉の付き方は、どちらかというと筋肉質だ。呼吸の度に脇腹が膨らんで、鱗が伸びたり縮んだりする。鼻息にはときどき火の粉が混じって、鱗もまた宝石みたいにキラキラしていた。


 うわっ、すげぇ! VRゲームも未体験なのに!

 初めて見る生のドラゴンに興奮して、目にしっかり焼き付けようとまじまじと見下ろしていた。

 ……そうだ、写メとろう、写メ。

 すっかり夢中になった俺は、携帯を取り出し、ドラゴンに向けようとした。


 そのとき不意に、視界が暗くなった。

 目の前に、巨大な口が開いていたのである。


 そいつに食われる瞬間、

 視界の隅のマップで、俺のすぐ傍に大きな赤い点が表示されているのを見た。

 ……そういや、20匹もいたんだ。


 俺のチュートリアルは、こうして味方のドラゴンに食われて終わった。

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