48 チート能力者の育て方
勇者アリスが、俺とスキンヘッド勇者の顔を、何度も何度も見比べていた。
……俺が、勇者アリスを育てるって?
育成SLG展開が始まるのか?
勇者アリスがチート能力的な攻撃力を持っているのならば、ビヒーモスまで到達できるように強化するだけでいいのだろうが、
冷静に状況を鑑みて、俺にそんな大きな役割が務まるとは思えない。
俺はこれまで、何度も死ぬ思いをして、ようやく2回ビヒーモスに到達することが出来たのだ。
しかもうち1回目は、周囲の勇者達のサポートを得ながらだった。
さらに、今はビヒーモス第二形態。
接近の難易度は、第一形態のときよりも格段に高くなっている。
俺に出来るとは思えない、というか出来る出来ない以前に、
ぶっちゃけ面倒すぎる。
せっかくこのまま隅っこの方で、ちまちま瓦礫撤去していようと思っていたのに。
「……いや、俺にはできない」
「どうしてだ、勇者マキヒロ」
「だって俺は、まだ召喚されて、そんなに時間が経ってる訳じゃないんだぜ? 俺よりもジャンプ機能が上手く使いこなせる奴なんて、他にもゴロゴロいるじゃないか。それに、飛竜のツメのスキルに関しても、基本的なものぐらいしか知らないし……」
「ああ。だが、勇者の体格も筋力も違えば、ツメの使い方も当然違ってくるはずだ、そういう奴のレクチャーを適応するなら、もっと長期にわたって勇者アリスを鍛え上げなければならない。
ビヒーモス戦の間に技術を身に付けるという事は、勇者アリスとよく似た体格を持ち、なおかつ基礎的なテクニックの応用だけでビヒーモスに到達できる練度の勇者の側に置き、その動きを学ばせる必要がある。
そこにきて、お前はビヒーモスの腰ではなく、はるかに高難易度のうなじにまで到達していた。しかも、俺の記憶では、普通は誰も通らない、危険極まりない顔面を通るような芸当をしてのけたんだ。そんな勇者はお前ぐらいだ」
……あ、やっぱあれ、誰も通らないルートだったのか。
……ちくしょう、お前、そういう余計な所はよく見てるのな。
……なるほど、あれはそういうフラグだったのか。
「あ、いや、そりゃビヒーモスが第一形態の時だろ? ……今のビヒーモスに到達できるかどうかは分からないし……」
「それこそ、やって見なければ分からんだろう。そもそも、お前は召喚されて間もない短時間で、今の技術を手に入れたのだと自分で言っているわけだが?」
「け、けどさ……俺はどちらかと言うと雑務に特化しているっていうか! そ、そうだ! 見ろよ、この瓦礫の山! 俺はここで瓦礫の撤去作業を続けなきゃならないんだった! 俺にはそんな時間なんてねぇよ! 勇者アリスを育てるのなら、早ければ早い方がいいだろ!」
クズな俺は、なりふり構わず楽な方に走った。
なんで俺がこれ以上、面倒ごとに関わらなきゃならないんだ。
視界の隅で、俺に突き放された勇者アリスが、しょぼんとして俯いてしまったのが見えた。
……おいおい泣くなよ、俺みたいなクズに育てられるよりかはましじゃないか?
むしろお前の成長の足を引っ張ったら、本末転倒だろ。
スキンヘッド勇者は、俺が焦るのを楽しむように、にやにや、と意地の悪い笑みを向けた。
……なんて意地の悪い笑みだ……!
「どうした、それこそ前線にいる他の連中に戻ってこさせれば済む話ではないか? それとも、また何か1人になって、俺たち勇者に隠れてコソコソとやらなければならない事があるのか? お前は俺たち一般の勇者とは違って、なにか『誰にも知られてはならない秘密の任務』でも請け負っているのか? まさか、そんなわけはないよな?」
はっ、こいつ、ひょっとして、俺の口から自分の素性(内務監査官)をバラさせる気か……ッ!
なんて度胸だ!
こいつにとって軍のエージェントが個人的な相談を持ちかけるという事は、その弱みにつけ込んで正体を明かさせるチャンスだっていうのか……こいつ、ただの勇者じゃねぇ……ッ!
「せ、先輩、大丈夫ですか?」
ちくしょう、スキンヘッド勇者……。
後輩の目の前でなんて事を……なんかもう俺を見る目が最初の頃とずいぶん違ってきてる。
最初は同じ黒髪で親近感を得てたのが、だんだん謎のベールに包まれた人物を見るみたいな顔になってやがる。
……参ったな、このままじゃあ、俺がやらざるを得ないぞ。
……一度楽な道を選んだら、なかなか元に戻る踏ん切りがつかないんだよな。つか、もうビヒーモスと戦いたくねぇ。
もういっそ内務監査官だってウソを言って、こいつに勇者アリスもなにもかも、全部押しつけてしまった方が早いんじゃないか。
いやいや、そんな事を言ってしまったら、余計にややこしくなるだけだ……。
どうやったらこの状況を打開できるのか、あくせくしている所に、
俺たちの通路に、別の勇者達が現れた。
「ん? 勇者マキヒロ、誰かくるぞ」
……あ、やばい、ポイントを稼ぎに行った瓦礫撤去係が、もう戻ってきてしまったのか。
もうちょっと待ってくれ、本格的に俺がここにいる理由がなくなってしまう……。
俺は内心ひやひやしていたが、
瓦礫を迂回してやってきた大勢の勇者達は、
どうも俺の見覚えのない顔ばかりだった。
見た感じ、女性比率がかなり多いのが目についた。
魔法勇者は女性が多かったが、反面、歩兵勇者の女性比率は少なかった気もするが……。
「あ」
その正体にいち早く気づいたのは、勇者アリスだった。
「先輩、あれ、私の仲間です。一応呼んでおきました」
俺はほっと息をついた。
そうだ、ここは今まで勇者アリスの世話を見てきた仲間たちに、最終判断を任せるべきだ。
ひょっとしたら、俺みたいな実績のない勇者より、もっと適切な仲間を知っているかもしれない。
女と男の微妙な違いでも、結構重要だからな。
と思ってたんだが……。
ぞろぞろ、ぞろぞろと仲間がやってくる。
獣みたいな性別の分からないやつも含めれば、全員女だろう。
そこには、女性のみで構成された歩兵勇者の軍団があった。
いったい何人いるんだ、これ。
圧倒的な数の暴力を背後に見せびらかしつつ、
ごつい甲冑に身を包んだ金髪の女騎士が、前に進み出てきて、
涼しげな眼差しで俺たちを眺め渡した。
「我が名はネイルフォン神聖帝国、栄誉近衛騎士団団長リリー=フォン=ブラッドスミス、我が盟友である勇者アリスを迎えに参上つかまつった。異論のある者は、今ここで名乗りを上げよ」
ガチ女騎士だった。
すげぇプライド高そう。
内ではお嬢様、外ではお姉様って呼ばれてそうな。
やけに肩書きにこだわる自己紹介をしたな、と思ったら、
次に表示されたステータスを見て、
そんなのは勇者リリーにとって、序の口なのだと分かった。
リリー 第二勇者連隊所属 勇者番号 LLS-00008号
HP 2400/2600 (HP自動回復中)
MP 1020/1050 (MP自動回復中)MP構成:マナ
加護:風の精霊シルフ
称号:《千騎の盾》、《悪竜殺し》
なにこれ……ちょっと、ありえないハイスペックなんですけど……。
ていうか、第二勇者連隊って……ひょっとして一桁連隊なのか?
……肩書きもなんだかすげぇし、なんでこの人、こんな所で勇者やってるの?
今さらながら、俺はとんでもない後輩を手に入れてしまった事に気づいたわけだが……もう逃げるには遅すぎた。




