47 クエスト「終わらない瓦礫撤去」(5ターン目)
クエスト瓦礫撤去を開始してから2時間半、
俺の指導の甲斐もあって、勇者アリスは次第に瓦礫撤去が上手くなっていった。
ツメで小さな岩を飛ばす時もちゃんとバランスを保てるようになり、
よろめいて崖に落ちる事はなくなった。
ストーム機能への切り替えも実にスムーズになっている。
途中でチャージ分が切れそうになったら、
ちゃんとゲージの残りを確認しつつ、岩を向こう側に倒れるように傾けて降ろす。
俺に話しかける事も少なくなったし、事故る事もなくなった。
作業もはかどり、あと小さな岩100個、大きな岩10個といった所まで差し掛かっていた。
が、瓦礫撤去の作業も絶対安全という訳ではなかった。
ビヒーモスがドラゴン・ハントを誤って壁にぶっ放し、
その衝撃で格納庫全体が揺すぶられ、壁の面積の4分の1が崩落した。
「危ねぇ――!」
「きゃあ――!」
この通路もその範疇に入ってしまい、
壁がボロボロと崩落し、瓦礫が1割ほど増えてしまった。
頭を押さえて避難し、俺たちはなんとか降ってくる瓦礫から逃れたものの、
またしても終わりが見えなくなってしまった瓦礫の山を前に、愕然としていた。
「……またやり直しですね」
「………………」
悄然としていた、そんな俺たちの元に、
ようやくスキンヘッドの勇者が登場した。
「勇者マキヒロ、話があると聞いたが?」
「ああ、丁度良かった」
「は、はじめまして」
ぺこり、と腰を曲げてお辞儀をする勇者アリス。
スキンヘッドは見た目がゴツい奴だからな、少々気後れしているみたいだ。
「よく来てくれたな、そっちのクエストは大丈夫だったのか?」
「まあ、ちょうど10時間ほど休憩を持っていたからな。休憩のついでだ」
「えっ、10時間も!?」
勇者は1時間につき15分の休憩時間が与えられる、という事だったから、
かれこれ40時間もぶっ続けで働いている事になる。
計算上、ビヒーモス戦の最初期のメンバーという事になる。
やっぱりすごい奴だ。
「あ、すみません、じゃあ私も休憩申請しときますね……」
「構わん、新人のうちは休憩時間を大切にしておけ」
休憩申請をしようとする勇者アリスを、スキンヘッド勇者は片手で止めた。
「これはミーティング扱いにしよう、それでいいか? 勇者マキヒロ」
「ああ、そうだな、途中で参加できなくなっても困るし。勇者アリス、お前はそのままでいいぞ」
「あ、ありがとうございます!」
まったく、大した勇者だ。
自分は休憩時間を削ってまでミーティングしているくせに。
自分に厳しく、他人に優しい。
しかも、さりげなく俺に承認を求めて、俺の顔を立ててくる辺り、人柄の良さが窺える。
やっぱり安心して勇者アリスを任せられるのはこいつしかないな。
俺とは格が違うな、俺なんてついさっきそう言えば休憩申請の方法を知らない事に気づいたぐらいなんだぜ。
そのくせ、座り込んだりへたり込んだり、やたら休憩ばっかりしまくってたし……。
けど、今さら休憩申請ってどうするんですか? なんて聞けない空気になってしまったな……どうしよう?
スキンヘッド勇者は、意味ありげな笑みを浮かべると、俺をちらっと見る。
「それに……勇者マキヒロから呼びつけられたんだからな、俺たち勇者は誰だって無視する訳にはいかないさ」
「えっ、ど、どういう事ですか? 先輩」
お、おい、やめろ……後輩の前で、その事は。
という顔をしていると、スキンヘッド勇者は空気を読んだ。
「勇者アリス、お前にはまだ秘密だ」
そう言って歯を光らせ、さらに俺の顔を立てようとしてくるスキンヘッド勇者。
そうだった……唯一完璧に見えるこいつにも、とある欠点があった。
俺の事を、ヘボい勇者のふりをした、軍直属の兵士だと決めつけているんだ。
勇者達の様子を見張る、内務監査官という脳内設定である。
……まだ疑ってたのかこいつ。
てか、さっき俺に承認を求めたのは、そういう意味だったのかと今さらながら気づいた。
こいつにとっては、軍の人間に判断を仰いだことになるんだ。
「へー、先輩って、こんなにすごい人にも一目置かれているんですね……」
スキンヘッド勇者を尊敬の眼差しで見ていた勇者アリスが、それ以上の驚きの目で俺を見ていた。
……いやいや、こいつは異常だから。俺の後輩をこれ以上不幸にするな?
「……あ、あいつは妄想癖があるんだ、たまに変な事言うけど気にするな」
と、こっそり希望を潰しておいた。
……今からこいつに預けるというのに、不安になってきた。
……変な影響を受けない事を祈るしかない。
そのまま立っていても、ビヒーモスの破壊音と咆吼が煩いだけだ、
俺達は、ついさっき生まれたばかりの巨岩の影に腰を降ろし、顔を突き合わせた。
「俺がお前に頼みたいのは、ずばりこいつ、勇者アリスの事なんだ。……どうやら、チート能力者らしい」
スキンヘッドは、ぴくり、と眉を動かした。
「チート能力者とは?」
ああ、やっぱりこの世界の奴らはほとんど知らないのか。
「原理は俺にもよく分からない。正直、俺も創作物の中でしか聞いた事ない話なんだが……召喚された勇者の中に、普通では考えられない異常な能力を持った勇者が生まれる事があるみたいなんだ。そういうのを俺の世界ではチート能力というんだが……」
この世界の勇者に、どうやってチート能力が授けられるかは分からない。
しかし、様々な宇宙から物資を召喚する事でこの星は成り立っている、
その組み合わせで、なにか未知の化学反応が起きないとも限らない。
俺は、隣で緊張して固まっている勇者アリスの肩を叩いた。
「ここにいる勇者アリスは、さっきビヒーモスの鱗を5枚剥いだらしい。こいつ自身は初心者で何をやったかよく分かっていないみたいだが、俺はこいつがチート能力を持っていると睨んでいる」
「ほう……てっきり俺は、またお前が何かやらかしたものとばかりと思っていたが」
「や、やらかしたって……だから、俺にはそんな真似できねぇよ?」
スキンヘッドは、険しい目でじっと俺を見ていた。
……こっち見んな。
俺を見ながら、何か言葉の裏を探ろうとしているみたいだが、あいにくただ本当の事を言っただけだ。
裏の計算とか全然ないから、考えるだけ無駄だというのに。
俺は呆れてため息をつく。
「……勇者マキヒロ、そんな極秘情報を、どうして俺に?」
「それは……お前が鱗を剥いだ実績のある勇者だし、俺の知っている中で、一番信用できる勇者だと思ったからだよ、お前以外にいない」
こいつの人柄なら、チート能力なんて物を妬んだりはしないはずだ。
……極秘情報って言い回しは多少気になるが。
「なるほど、鱗を剥いだ実績のある勇者、軍はそう判断したか……わかった、勇者マキヒロ、単刀直入に言ってくれ。人払いをしてまで、俺に話したい事というのは何だ?」
「人払いって……?」
……あれ? そういえば、と俺は辺りを見回した。
瓦礫の撤去作業は中断し、同じ連隊の勇者達が自主的に攻撃に向かってしまって、ビヒーモスも勇者達も遠ざけられている。
しかも岩陰になって、誰の目にも届かない。
偶然にも、3人以外の誰にも聞かれる事なく、自然に話し合いが出来そうなシチュエーションになっている。
えっ、なにこれ。
ちょっとまって、あたかも俺が勇者クレゾールを使って、このスペースを確保したみたいじゃね? 何これ?
ちょっとまて……スキンヘッド視点だと、俺は軍の関係者じゃないかと疑っている人物だ。
……そんな俺に、他の勇者の目に届かない場所にわざわざ呼び出され、そこで見知らぬ謎の『チート能力者』の少女と引き合わせられている。
……うわ、なにこの厨二展開。ゾクゾクする。俺はこいつに一体、何をさせようとしているんだ?
「あ、あのな、何か勘違いしているみたいだけど、裏で軍の巨大な陰謀が渦巻いているとか、お前に軍から特別な裏クエストが追加されるとか、そんなのでは、断じてないからな? あくまで俺の個人的なお願いだからな?」
「ふっ、安心しろ、勇者マキヒロ。今の反応でようやく分かった。お前が軍の密命を受けたプロならば、そんな迂闊な発言はしないはずだ」
「だろ? 最初からそう言ってるだろ、ようやく分かったか」
「だが、今のが素人の口ぶりだとも思えんがな……まあ、今回は個人的な願いだというのは信じてやるよ」
まいったな……どう頑張っても、こいつの頑固な考えを改める方法が見つからない。
けど、正直に言うしかないよな。
こいつはなんだかんだで、責任感のある奴だし、俺の頼み事ぐらいは聞いてくれるだろう。
俺はため息をついて、
「本当に軍とか関係ないからな……その考えは、もうここではいったん置いておいてくれ」
「ふむ、分かった。ここからは、お前との個人的な話し合いという事にしておこうか」
「勇者アリスをなんとかしてやって欲しいんだよ」
「なんとかとは、具体的には?」
「誰かがこいつを鍛えて、前線でまともに戦えるようになったら、すごい戦力になると思うんだ。けれどこいつ、実はチート能力を持っているかも知れないのに、他の事がダメダメでさ。いままでずっとその才能を埋もれさせていたんだ」
「たしかにな……その能力が本物なら、我々の戦いは相当有利なものになるだろう」
「だろ? どうにかお前の元で、その力を目覚めさせてやって欲しいんだよ。お前は飛竜のツメ持ってないけど、そういう仲間なら沢山知っているだろ? あとはツメを上手く操って、ビヒーモスに到達さえできればいいんだから」
スキンヘッド勇者は、一通りの事は聞いてくれたらしい。
うんうん、と肯いて、すぐに返事してくれた。
「状況は把握した。お前が軍の関係者などではなく、俺と同じ、対等な1人の勇者だという前提で話をしよう。だったら、俺からお前にアドヴァイスできる事は、たったひとつだ」
そう言って、腕組みをしたまま傲然と言った。
「お前がやれ。お前が適任だ」
……俺は一瞬、ぽかーんとしてしまった。
……ごもっともだった。
……あまりに正論過ぎて、俺には一瞬、なんの反論も思い浮かばなかった。




