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46 クエスト「終わらない瓦礫撤去」(4ターン目)

 それから俺たちは瓦礫の撤去作業を再開した。

 勇者アリスはだいぶ作業に慣れてきたのか、ときおり口を開いては、自分から俺に話しかけて来た。

 話題は謎の勇者に関する事ばかりであった。

 その正体はただのネトゲ廃人、正真正銘のクズでしかない、目の前の俺の事だ。


 どんな人だろうか、とか、

 どの世界から来たのだろうか、とか、

 一度お話してみたいが、話は合うのだろうか、とか、

 どうやったらあんな風に飛べるのか、とか、

 やば、今から緊張して手に汗かいてきた、とか。


 聞いている俺が胃もたれを起こしそうだった。

 もう止めて、その勇者のHPはゼロよ。


「じつは私、その勇者さんに会って、どうしても話したい事があったんです……」


「ああそうなのか。余計な事をしないで欲しかったって?」


「余計な事?」


「だってそうだろ?」


 だんだん希望が膨らんで手に負えなくなっている。

 さすがにこのままではまずい、と思った俺は、

 とりあえず後輩の抱いている無駄な希望をそぎ落とす事にした。


「お前がこの世界に来た目的はもう果たされた訳なんだからさ、そいつがお前にチャンスを作らなかった方が、お前にとっては確実に良かっただろ。

 そうしたら今も仲間と一緒にぬくぬくして居られたじゃないか、違うのか?」


 世の中には、知らない方が幸福な事もある。

 自分の秘めているチート能力もその一つだ。

 そいつが下手に希望を抱かせてしまったせいで、勇者アリスから幸福が逃げていったのだ。

 やっぱり自分で言っていて、胸が痛い。


「……やっぱりそうですよね、私なんかが勇者やってたら、おかしいですよね」


「うんうん。ていうかお前、見てて危なっかしいし。ほっとけないし」


「そうですよね、本当は鱗を取ったのだって、きっと私じゃなくて、その人ですよね?」


「いや、そこまでは……そこはやっぱり、お前の実力なんじゃないか?」


 さすがに、俺の力ではそこまで庇いきれない。

 万が一、代わりに俺が鱗5枚も剥いだ事になったらどうなるんだ。

 悲劇だ。ぞっとする。

 もし飛竜に頼んだら本当にちょろっと操作してくれそうなのが恐ろしい。


 勇者アリスは作業を中断して、思い詰めたように言った。


「……じゃあ、私は一体どうしたらいいんですか?」


 勇者アリスは、いまにも泣きそうな目で、俺に助けを求めている。

 その目には、絶望しか映っていない。


 ……おいおい、なんでそんな目を俺に向けているんだよ、お前は。

 ……そういう時に頼るのは、俺みたいなクズじゃねえだろ?


「……そんな事、俺に聞く事じゃないだろ? お前が決める事だろ」


「どうしてですか? 私、色んな人に助けられたお陰で、ようやく鱗を取れたんですよ……それがぜんぶ私1人の手柄みたいになっちゃってて、おかしいですよ……5枚も取れちゃったせいで、色んな所で悪者あつかいされて、どうして私ひとりが取った事になっているんです……どう考えたって、私ひとりの力じゃ、絶対こんなの無理じゃないですか……仲間とも、連絡がぜんぜんつかなくなっちゃったし……先輩、私はどうすればいいんですか」


 後輩にそこまで言われて、俺はようやく、

 いま勇者アリスの置かれている状況を、冷静に見直す事が出来た。


 俺以外に相談しろって、いったい誰に相談すればいいんだ?

 そもそも相談できる誰かがいたら、彼女はこんな所にいるはずがないじゃないか。

 彼女の能力を生かすために、どのスキルが最も使えるかぐらい、仲間に相談したら俺よりも有用な情報を得られたはずだろう。

 少なくとも、ブリーズ機能なんて取得しなかったはずだ。ロコさんだってネタスキルだって知っていた。

 何か事情があったにせよ、長時間離れていたら向こうからも連絡くらい入れてみるべきじゃないのか。

 本来なら仲間が俺より先に彼女の能力を発見して、情報を与えてやっているべきなのに、今まで何をやっていたんだ。

 ドジっ子の彼女を保護する、という名目で、攻撃の出来ないポジションでただ飼い殺しにしてただけじゃないのか。


 いや、俺は考え方を間違っていた。

 俺も今、彼女の仲間なんだ。

 けれど、俺は今こう思っていた。

 こいつは、俺が手助けしなくとも、放っておけばなんとかなるんじゃないか。

 生まれつき恵まれたチート能力があるのだから、それがなんとかしてくれるんじゃないのか。

 そんな風に考えて、こいつを放置していた。


 ……本当にこいつ、なんとかなるんだろうか。

 頼りにしていた仲間はいざという時にあてにならない、

 せっかく手に入れたスキルポイントをブリーズ機能みたいなネタスキルに誤ってつぎ込んでしまって、

 周囲の勇者からはチート能力者に対する悪意を向けられ、

 相談する相手の居ない場所で終わらない瓦礫撤去を延々とさせられている。

 そして頼れるのは俺みたいな無力なクズがただ1人。

 ……現実は絶望的だな。


 最後のが特に最悪だ。

 ……俺に一体どうしろっていうんだ?


 つまり、俺たち25万人の勇者が全員、彼女1人を除いて、

 チート能力なんていう物に、希望を抱いてしまっていたのだ。

 それがいけなかった。

 希望はいずれ絶望に転化する。

 誰かが気づいて蓋を開けてみたら、もうそこには絶望しか残っていなかった。

 これは要するに、そういうパターンだろう。


 ……参ったな。

 俺は頭を掻きながら、泣きじゃくる後輩と、ビヒーモスとを見比べていた。


 ビヒーモスの攻撃はアグレッシブさをさらに増し、心なしか加速して見える。

 踏みしめる回数も多くなり、足元は常に砂ぼこりに覆われていた。

 熟練の勇者でも近づくのが困難になっている状況だ。


 ……もう俺も今の状態じゃあ、叩くのは諦めた方が良さそうだな。

 今からもう一度レベルアップして、役に立ちそうな新スキルを手に入れるべきだろうが……。

 勇者アリスも俺も、一度大量にレベルアップしてしまったせいか、なかなか次のレベルに到達してくれない。


「ぜんばい~、どうじだらいいんでずがぁ~」


 後輩もアグレッシブになって、だだっ子みたいに泣いてしまった。

 ここに来て、張り詰めていたものが色々と切れてしまったみたいだ。


 ……俺にも分からない事だらけだよ。

 ……このチート能力者どうしよう。


 一度、勇者アリスを仲間の所に帰してやるべきだろうけど、果たしてそれで活路が見いだせるかどうかは分からない。

 彼女を預けて良いのか悪いのかなんて俺には判別できない、現実的に彼女をいままで面倒見てきて、彼女の能力を生かしてやれなかったという、良い面と悪い面を併せ持つグループだ。


 チート能力者に対する悪い感情を抱かず、

 それでいて自分も実力があって、チート能力を扱いかねる事もなく、まっとうに育ててゆける、そんな勇者がいればそいつの側に置いてやるべきなんじゃなかろうか、

 俺は個人的にそう思っている。


 順番的には、勇者アリスの仲間に相談して、チート能力の事もぜんぶ教えて、俺の考えも伝えて、とりあえず俺からはこいつを紹介しておくから、もし何かあったら相談してみてくれ、という形に持って行ければ、ベストなんだろうけどな……。


 ……少なくとも、今、俺が紹介できるのはこいつだけだ。


 俺は通話記録のログを指でスクロールし、

 どんどんさかのぼっていった。


「勇者アリス、通話ってどうするんだ?」


「へう? ……つ、【通話】の後に、勇者番号を続けて念じますけど……」


 へうってなんだ、へうって。

 2時間のうちに、勇者ドバルの死亡フラグが18件かかってきていた。

 勇者アリスの鼻水みたいに伸びてる。

 近いうちに着信拒否しとかないとログが見づらくて仕方ない。


 その前に幼女軍師のクエスト指令と、口がきけなくなったときの勇者クレゾールとの通話、

 さらにその少し前に、1人の勇者番号を見つけ出した。


 DEA-06578


 あった、あった。

 コマンドを念じながら、勇者アリスに、少し待つように合図する。


「……待ってろ。もう1人、鱗を剥いだ勇者を呼んでやる」

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