40 クエスト「瓦礫撤去」(1ターン目)
転移門を通り、戦場の洞窟に再びあらわれた俺は、
そのまま格納庫Bへ通じる転移門を目指した。
目標は無論、1ポイントのダメージだったが、
ここで幼女軍師から緊急ミッションが入った。
『現在、格納庫Bの入り口が2箇所崩落している! ただちにそちらに向かい、瓦礫の撤去と通路の確保をしろ!』
今まで他人任せにしていた事だったが、
いつかはやらなければならない、と思っていたミッションだ。
幼女軍師の差配は的確だ、
ようやく俺のストーム機能が真価を発揮する時である。
決してネタスキルではない、裏方として活躍するスキルなのだ。
格納庫Bの転移門に飛び込み、お馴染みの長い通路を抜けると、
壁沿いに伸びている道を瓦礫が塞いでいた。
俺より先に、すでに数千人の勇者達がそこに居たが、
瓦礫の撤去よりも、崖の先に見えるビヒーモスの姿に見とれ、ぼう然としていた。
何に見とれているのか、
俺も立ち止まって、その姿を見て、ぎょっとした。
ビヒーモスの鱗が、数カ所剥がれている。
黒ずんだ鱗の間から、生々しい皮膚に覆われた肉体が覗いていた。
一体どういう事なのか、俺には分からなかった。
俺がうなじの鱗を剥いで、
さっきようやくスキンヘッドが腰の鱗を剥いだところだった。
ところが、さらに背中、腕、反対側の腰、腹部、顔面、あらゆる場所に弱点が覗いている。
ビヒーモスを倒したい勇者達にとっては、朗報に違いない。
これなら、どの角度から攻撃しても弱点を狙い撃ちに出来るはずだ。
だが……一体誰がこんな事を。
さっきまで、腰の鱗を1枚剥がそうと必死になっていた勇者達が、勢いをそがれてそれを見ていたのである。
その勇者達の中に、見慣れた脱色っぽい金髪を認めて、俺は近づいて行った。
勇者クレゾールだ。
「勇者クレゾール、どうなってる」
「分からん、俺が死んでから復活する30分の間に、6箇所も鱗が剥がされていた。こんな事は前代未聞だ」
いや、正確には俺が死んでから、準備時間を挟んで復活するまでの15分少々だ。
他の勇者達は全滅してしまったし、その後も、俺は最後まで粘っていた。
俺が蹴り飛ばされるまで、ビヒーモスはあんな状態になっていなかったはず。
「勇者マキヒロ、お前は何か見てないのか」
「1箇所は、分かる。スキンヘッドの勇者だ。それ以外は俺も知らない」
「スキンヘッド、あいつか」
勇者クレゾールにも、スキンヘッドで通じるらしい。
なにか気に食わない表情を浮かべていた。
とにかく目立つ勇者であるらしい。
「噂によると、後の5箇所は新人の勇者が1人でやったそうだ……それについては分かるか?」
「……いや、全く」
俺もはじめてそれを聞いて、戦慄を覚えていた。
25万人の勇者が何十時間もかけてやってきた事を、そいつは15分であっさりこなしたと言うのか。
それまでのダメージが蓄積していて、運良く5箇所も剥ぐことができた、という訳ではないだろう。
偶然にしてもおかしすぎる、5箇所も同時にだ。まったくありえない……。
「そうか、お前じゃ無かったのか……勇者マキヒロ」
「なんで俺だよ? 俺なんて、まともに鱗を叩くのにも苦労してるのに」
「お前は知らないだろうが、噂が広まっているんだ……第四宇宙から来た、恐ろしい勇者がいるという……」
第四宇宙、というと、俺の来た世界の事で間違いない。
俺の世界に、果たしてそんな勇者がいただろうか?
魔法も使えないし、他の世界に比べれば、ごく平凡な気がするが。
「お前の世界には、『チート』あるいは『TAS』という、得体の知れない能力を持った勇者がいるそうだな……勇者マキヒロ、それは本当か?」
「へ? い、いや、それはゲームの話で……」
そう言いかけて、俺はふと思い直した。
そういう勇者が実在しないなんて、俺には言い切れない。
……なぜか能力を手に入れてしまった、ごく普通の異世界トリップ物みたいな勇者が、この世界に居ても別に驚くことじゃない。
しかし、実際にそうとしか考えられないような出来事を、実現させた奴がいる。
こんな奇跡を起こしてみせる勇者がいるのだとすれば、他に考えられない。
「それ……具体的にはどういう勇者だ……?」
勇者クレゾールは、視線を少し下げた。
会話のログを探っているのかもしれない。
「『チート』は、世界の仕組みそのものに介入して、世界の構造を根底から改竄してしまう勇者……こいつは言わばダークヒーローだそうだ」
「俺の知っているのと大分同じだな……もう片方は……?」
「もう片方『TAS』は、見えない物の流れを見る魔眼を持つ勇者……時間軸を自在に操って、都合のいい結果を積み重ね、時に隠されたバグを呼び出す事も出来るという……『チート』と対をなす正義の勢力だそうだ」
「えーと……」
どうなんだろう、それ……。
どちらもゲームの専門用語のような気がするが……。
それとも、両方ともこの宇宙には実在する能力なのだろうか?
チートは創作の転生物でよく使われているが、TASは珍しい。
ツール・アシステッド・スーパープレイの頭文字だ。
簡単に言うと、プログラムを書き換えてしまうチートじゃ無くて、パソコン(ツール)にコントローラーを握らせて操作させる奴。
スロー再生したり、プログラムを覗き見たりのテクニックを駆使して、人間には出来ないようなスーパープレイをする。
RPGなんかじゃ会心の一撃を連発したり、モンスターに1回も遭遇せずにクリアしたりするらしい。
「本当に、それ俺の世界の勇者なのか? ……俺の知っている限りでは、俺の世界の中のゲームの世界の勇者っぽいんだけど……?」
「そうだと思った……勇者ドバルが言いふらしているんだ」
「情報源から不審だろ、なんで真に受けてるんだ! 真っ先に疑えよ!」
「仕方ないだろう? 実際、お前の経歴は分からない事が多すぎるし、他の勇者が何をやっているか、俺たちはほとんど分からないからな。噂ばかりが広まってもおかしくないさ」
「だとしても、そいつには気を付けろ、そいつ、俺を妄信的に担ぎ上げようとしている勇者だから……!」
情報源が勇者ドバルなら、間違いない、ゲームの専門用語だった。
……俺が黒髪で黒い目でMPゼロってだけでハーレム主人公だって決めつけていた、
あの厨二病勇者ドバルの仕業である。
しかし、あいつの世界、どこまで俺の世界と文明が似通っているのか……甚だ疑問である。
「まあいい、そろそろ行くぞ」
勇者クレゾールは、右手に大きな風の渦を生じさせた。
大きく手をふると、巨大な竜巻が4つぐらいあらわれ、目の前の巨大な瓦礫を数個、同時にまとめて崖下に放り投げる。
その先に続く、まだ塞がっている道をじっと見て、勇者クレゾールはペース配分を計算していた。
「3ターンくらいかかるか」
……俺にはお前の方がよっぽどチートに見えるのだが。




