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38 空中交差

 ビヒーモスの豪腕が空を切り裂く度に、

 ドラゴンが1匹、また1匹と、

 地面に倒れ伏していった。


 その鬼気迫る姿には戦慄さえ覚えた。

 ビヒーモスも恐ろしいが、狩られているドラゴンの方も恐ろしい。

 方々に逃げ回り、その動きをかく乱しようとする。

 時に飛びかかってゆくものも居るが、それは簡単に奴の餌食になった。


 次々と命を刈り取られる。今のうちに狩り溜めでもしておくような勢いだ。

 まるであらがえない、食物連鎖のように、

 ごく自然に竜の命をむしり取る、


 地に沈むドラゴンの身体から巻き起こる衝撃波を、

 俺に到達する前に防いでいるのは、

 その怪物、ビヒーモスの鱗だった。

 その頑丈さのほどに呆れかえる。

 ひょっとすると、奴の来た第八宇宙では、これが普通なのかもしれないが。


 俺は震える足を、どうにか抑えた。

 震えるな、

 震えるな、痛い。

 折れてるんだから。


 たった一撃でいい、

 ジャンプで届く距離は、200メートル強。

 なんとかその間合いまで近づいてくれれば。

 ビヒーモスの膝の上辺り、腰にあらわれた白い斑点、

 鱗の剥がれ、露出した地肌だ。

 そこを狙い撃ちして、ダメージを稼ぐ事が出来る。


 逃げ回るドラゴンを追いかけて、ビヒーモスは格納庫をうろうろしている。

 こちらに近づくほど衝撃波の伝播が早い。

 俺は足を引きずりながら、

 どうにか鱗の影に逃げ回る。

 このままでは、じきに俺の体力が尽きて動けなくなる。


 背後からの攻撃が来たら、この足では逃げ切れない。

 もし、あいつが俺の背後側にドラゴンをはたき落とせば。

 思い切りロングパスのようにかっとばせば。

 今度は俺の背中側から衝撃波がくる事になる。

 そうなったら、この足を引きずって、反対側まで逃げるのは無理だ。

 あるいは、真上に落とされて、ドラゴンの背中が俺を直接押しつぶすという事もある。


 現在の距離は、200メートルぐらい。

 ギリギリ届くのか、届かないのか。

 目測なので不安でもある。

 あまり近づいても死亡フラグだ。


 ビヒーモスは天井近くを旋回するドラゴンに、視線を定めている。

 またネコのように、ぐぐっと背中を丸め、縮こまった。

 ……ああ、しまった、


 これは跳ぶ。

 そう思った瞬間、

 ビヒーモスは、俺の頭上を飛び越す凄まじい勢いで、跳び上がった。


 ……やばい。

 目を疑うような跳躍力。

 反重力装置でもついているのか。

 格納庫の端から端まで跳びそうな勢いで、こっちに飛んでくる。


 背後から衝撃が来る。

 そう思って身構えた俺は、

 ビヒーモスとの距離がようやく、

 理想の距離まで縮まった事に気づいた。


 このまま真上を通過するのなら、100メートルもないんじゃないか。

 いや、高さの距離感は掴みづらいが、

 視界に広がる、こいつのデカさの感覚は、

 もう何度も記憶に焼き付いている。

 俺は飛竜のツメを頭上に掲げて、ジャンプ機能を解放した。


 残された方の足を蹴って、

 地上の鱗を踏み台にし、一気に頭上へと跳び上がった。

 本当にこれで腰の弱点と交差するのか。

 俺のゲーム脳の勘なんて、この世界じゃほとんど当てにならない。

 たいてい現実とのギャップに絶望するのがオチだ。

 思った通り、俺はまっすぐに真上へと跳び上がっていたが、

 ビヒーモスの巨大な足が前に突き出され、俺の行く手を遮っていた。

 走り幅跳びの選手みたいに、着地に備えて後ろ足を前に伸ばすようだ。


 足、じゃまだ。どけ。

 腰の弱点が狙えない。


 しかし、横30メートル、縦90メートル、

 ジャンボジェット機級のドラゴンを軽々と踏みつぶし、

 足踏みするだけで衝撃波で500人の勇者を殺すこの足を回避してゆく事は、

 残念だが、俺には到底できそうにない。


 俺の足ももう限界だ。

 この機を逃せば、後はなかった。

 落下したら即死するだけだ。


 そう覚悟した俺は、そのまま真っ直ぐ上昇しながら、

 視界に映る【召喚石(L)】の文字を押した。

 メニューが開いて、ダッシュ・ブリーズの選択肢があらわれる。

 ブリーズ機能を選択すると、ツメが薄い風の渦をまといはじめた。


 そして思い出した、このままでは攻撃が出来ない。


【スキル石(R)、アンロック】


 と念じた。

 ツメの攻撃機能が解放されて、表面に心なしか、緑色の光が宿る。


 ……まずはその足を狩る。

 俺の上昇は、石の機能を切り替えたために、徐々に緩やかになっていった。

 そして、ひときわ分厚い装甲に保護された、凶悪な足の裏と交差する。


 俺はツメを適当に構えた。

 どんな構えをすればいいかなんて分からない。


 ビヒーモスの足のツメは、恐ろしく長い。

 足の裏を保護する装甲は、ボコボコといくつものコブが密集していて、

 他より頑丈に出来ている事が窺える。


 教えろよ。

 この足で一体、何人の勇者を踏み殺してきたんだ。


 俺は思いきって、飛竜のツメを振るった。

 その鋼の壁に真正面からぶつかった瞬間、バキッと鈍い音がして、俺は風圧ではじき飛ばされた。


 俺はダメージを確認した。


 0


 やはり、1ポイントも入れる事はできなかった。

 足の裏は特別頑丈に出来ている。

 それよりも、深刻なのは俺のダメージの方だった。

 俺は、手に持っている飛竜のツメが折れているのを確認した。


 ……折れた。

 ……うそ、マジで。


 中ほどから折れた飛竜のツメを持ったまま、俺ははじき飛ばされ、そのまま地上に落下していった。

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