表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/131

33 PKのチュートリアル

 空から落ちてくる勇者クレゾールを見上げて、

 俺は平静さを保つように努めた。

 あいつの死ぬ所を見るのはもう2度目だった。


 ああ、どうする。

 助けに行くべきか。

 いや、この場合、助けに行かない方がいいんじゃないか。

 だって、どうせ死んでも生き返るし。

 むしろ、余計な事はせずに、楽に死なせてやった方がいいんじゃないか。

 それにあいつ、余計な手出しをしたら、ぜったい怒るし。


 ……そうだ、それよりも俺にはやる事がある。

 ビヒーモスに1撃を入れなければ。


「……勇者マキヒロ!」


 そうやって勇者クレゾールから目を背けようとする俺に、

 スキンヘッド勇者から、怒鳴りつけるような声が聞こえてきた。


「あいつを楽にしてやれ!」


 俺は彼のひと言の気迫に圧倒され、

 もう一度勇者クレゾールに目を向けた。


 生きているのか死んでいるのか、遠くからでは分からない。

 それでも血を流して、空から振ってくる。

 脱色したような金髪。


 そのとき、俺の足は震えて動けなかった。

 あいつの落下地点にダッシュで先回りすればいいのに、

 それさえできなかった。


 俺は少なくとも、最初来た頃よりかは落ち着いて、

 冷静な状況判断ができるようになっていた。

 殺人現場になれてしまった名探偵みたいに。

 感覚が、麻痺しているんだ。


 けれどあいつを楽にしてやろうと考えたとき、

 必死に頭を回転させようとしても、

 頭が上手く回らなかった。

 新しく手に入れたスキル石の機能で、

 あいつを浮かび上がらせる事は出来ないか、

 結局そんな逃げ道みたいな事しか思いつかなかった。


 そうじゃないのはわかってる。

 HPが僅かでも残っていたら、この世界では苦しいから、

 俺の手でPKしてやれって事だ。


 勇者クレゾールが落ちてくる。

 スキル石を選択しようとする。

 指が震えて、ボタンが押せなかった。

 ちくしょう、なんでこんな簡単な事ができないのか。


 もう何をやってもあいつは助からないと分かっているからだ。

 何をやっても無駄だ、だって、あいつの傷が見えないのかよ。

 大怪我だろ。

 放って置いても、落下した瞬間に出血でうまくショック死するかもしれないだろ。

 もしそれで即死できなくても、放っておけば、後はゆっくり死ぬだけだろ。


 知らなかった。

 ほっとけば死ぬだろ、なんて言える立場は、なんて楽だったんだ。


 いや、ちょっと待てよ、スキンヘッド。

 あいつを楽にしてやれって。

 なんでお前がそれを俺に言うんだよ。


 あいつがそれを望んだのかよ。

 俺とあいつの関係は、お前達勇者が望んでいるような、そんなお友達ごっこじゃない。

 そんなお友達ごっこしたところで、効率が悪いだけだろうが。


 いや……本当に効率が悪いのか?

 ……そうだ、本当に効率を重視するのなら、

 もし死に切れていない勇者がいたら、すぐに復活できるよう、すぐに息の根を止めてやるべきじゃないのか?

 そしてリスタートさせてやるのが、一番効率のいい方法なんじゃないか。


 なんだ、結局俺はドライな関係の方が楽だったから、

 創作なんかで良くあるそれっぽい関係を真似して、そんな関係に逃げていたかっただけだ。


 友達ごっこが逆向きに変わっただけの、反友達ごっこでしかなかった。

 上辺だけの、単なる強がりだ。


 召喚石(L)をダッシュからブリーズに切り替えると、

 スキル石(L)がストームに切り替わった。

 飛竜のツメの周りに、繭のような風の流れが生じる。

 空っぽになったゲージに力が全部溜まるまで、しばらく待つ。


 ……


 ……あいつも、本当は。

 このジレンマから逃げたかったのか。


 ちくしょう、いつから俺は、

『仲間』みたいな存在に、希望を抱いてしまっていたのか。

 あいつを楽にしてやれ、なんて軽く言い残して先にいけるのがこの世界での正しい仲間の在り方だ。

 決して生かす繋がりじゃない、お互いに気楽に殺せる覚悟を持った繋がり。


 俺も、勇者クレゾールも、

 そんな絶望しかない仲間という関係から逃れたかったんだ。


 俺は飛竜のツメを、地面に叩きつけるように振り下ろした。

 岩を浮かせることが出来たから、

 人を浮かす力もあるはずだ。

 一発だったのにうまくいった。

 あるいは、飛竜が俺をアシストしてくれたのかもしれない。


 俺のツメから放たれた竜巻に、

 ふわりと巻き上げられた勇者クレゾールは、

 そのまま瓦礫の上に横たわった。


 脇腹を押さえ、苦しげな息をしている。

 頭からも真っ赤な血が流れていた。


 瀕死の人間をこんなに間近で見たのは、そういや初めてだった。

 ただ、静かに横たわって死を待っている。そういう風に見えた。


 勇者クレゾールは俺の姿を認めた。


「……恩返しはしないんじゃなかったのか」


 記憶力いいんだな、こいつら。


「……そんな約束、もう忘れちまったよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ