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32 内務監査疑惑

 俺がジャンプを開始して間もなく、

 謎の勇者から通信が入った。


 通信要請:勇者No.DEA006578から通信要請が入っています、

 通信を許可しますか? Yes/No


 ……誰だ?

 迷ったが、この世界に勇者を名乗るスパムはきっとないだろう。

 とりあえず【Yes】と念じると、

 俺の脳裏に、前方を行くスキンヘッドの声が聞こえてきた。


「いきなり通信をしてすまん。仲間から、お前の勇者番号をこっそり聞いた」


「いや、いきなり通信されても俺は驚かねぇけど……勇者番号? 何に使うんだ」


「通信だけだ。相手の勇者番号が必要だからな」


 あ、そうか。

 通信のためには、勇者番号が必要だったのか。

 今までネトゲみたいに、名前だけで通信を試していたからから分からなかった。

 この機能は覚えておかないとな。


 確かに、ネトゲじゃプレイヤー同士のチャットはキャラクター名を入力するだけでできたが、

 それは同姓同名のアカウントが作られない仕組みになっているからだ。

 普通は、同姓同名の勇者がいる可能性もある。だったら勇者番号が必要だ。


「気を悪くしたならすまん。俺の仲間は、少し特殊な能力を持っていてな……」


「ああ、あのエルフ耳か。相手の心を読めるんだろ?」


「なるほど、すでにお見通しだったか……ふっ、さすがだ、勇者マキヒロ」


「……えっ」


「貴様が本当の実力を隠しているのは、私も知っているぞ……この世界に来てたった4時間で、飛竜のツメの操作方法を習熟し、この世界のルールを理解し、トップクラスの勇者にまで登り詰めてしまった。

 そんな勇者が、他の世界の一兵卒程度の実力も持たない小僧のフリをしているのだ。……何かおかしいと思わない方がおかしいだろう?」


「いや、だから……面倒くせーな。発想が逆だよ。ここに至るまでに偶然が色々と重なったんだよ。もしそうだとしても、この世界で真の実力を隠してて、何か得する事あんの? 厨二病じゃないんだから」


「軍の内務観察官……というのはどうだ?」


「内務観察官……? それって……」


「そうだ、異世界から召喚された『歩兵勇者』に対して、別に『歩兵』が300人いた。これは明らかに軍の内部戦力だ。彼らは今、どこで何をしている?」


 俺は、幼女軍師との会話のログを出した。

 それは最初の方にあった。


 パーティ編成

 歩兵勇者 23万人

 魔法兵勇者 2万人

 法力兵勇者 1万人

 歩兵   300人

 召喚師  2000人

 ドラゴン 20匹

 合計   約26万人


 確かにいた……こんなもん、よく覚えてるな。


「俺は召喚師でも守ってるのかなーと、なんとなく思ってたんだけど……だって、人数的にそのくらいじゃね?」


「そうとも考えられる。だが、軍人の質を高め、軍紀を守るために内務監査は必要な措置だ。少なくとも、私の世界の一般的な軍隊ではどこでもやっている事だ。

 この世界にも、一般の勇者達の中に紛れ込んで、我々勇者の行動をチェックする役目を持った軍の兵士がいても不思議ではない」


 へー、さすがスキンヘッド。

 強いし頭は回るし正義感はあるし。

 こいつマンガなら絶対主人公格だな。

 あるいは、最後の方で敵に回るキャラだ。


「そうなんだ。俺バカだからぜんぜん気づかなかったよ……」


「そうそう、内務観察官はそうやって何も知らないフリをしているのが一番だ、なぁ、勇者マキヒロ」


「ああ、お前俺を疑ってんのね……」


 周りの勇者にも俺の経歴は不自然に見えるらしい、身内から思わぬ疑惑を向けられてしまった。

 けど参ったな、こういう場合、どうやって疑いを晴らせばいいんだろうか。

 俺が召喚された背景をこの場で説明しても、こいつ頭いいからきっと設定乙と言って納得しないだろうな。

 第一、素直に飛竜や幼女軍師や召喚師の事をこいつにバラしたところで、いい事がありそうな気がしない。

 やれやれ、弱ったな。


「説明するのがいちいち面倒くさいんだけどさ……。とにかく、お前はこの世界の事を買いかぶりすぎだって。俺は内務観察官なんかじゃないし、この軍がそこまできっちり勇者の事を管理してるかどうかも怪しいって。スキルのレベルアップなんてマジでゆるゆるだぜ? 俺なんかがトップクラスになれるんだからさ」


「ふっ、なかなか言うな、勇者マキヒロ」


「いやいや、謙遜でも何でもねぇし。俺の実力見たら、ぜったいお前どん引きするって」


「ならば、そういう事にしておこう。この話は、これまでだ」


 うそー……こいつ、強引に話を切りやがった。

 まあいい、俺が内務観察官だなんていうのは、しょせんコイツの脳内設定でしかない。

 放っておけば、そのうち飽きるだろう。


「このまま勇者クレゾールに加勢する! 腰の鱗を剥ぐぞ!」


「おう……え」


 えー、ちょっと勝手に仕切られても困る。

 俺としては自然に1ポイント稼いで、自然に不正を誤魔化したいんだが。

 いくら叩いても0ポイントの可能性がある鱗よりも、安全にうなじを狙いに行きたい。


「あの……俺は出来たら、今回うなじを狙いに行きたいんだけどなー。……なんつーか、今はパーティよりもソロでコツコツ稼ぎたい気分なんだよ……」


「ほう? なんだ、我々に隠れて1人でこそこそやりたい事があるのか? ふっ、そうか、ああわかって居るぞ、自分の存在に気づかれたら放っては置けまい、すぐに上司に報告しなくては」


「いやだから、そうじゃねぇんだってば……いちいち俺の内務監査疑惑に結びつけるなよ」


 参ったな、俺が何しても内務監査疑惑に結びつけるぞ、こいつ。


 ビヒーモスの背中まで、直線距離で400メートル。

 その背中も間もなく突き当たりまで到達しようとしている。

 ジャンプを1回溜めて、4本分使えばなんとか届きそうな距離だ。


 奥の方で群れを作っているドラゴンの数匹が、すでに飛び上がっている。

 どうやらビヒーモスの動きをかく乱しようとしているようだ。


 と、思ったら、

 ビヒーモスはドラゴンの群れのど真ん中に、頭から突っ込んでいった。


 凄まじい地響き。

 砂ぼこりが、通常の倍以上の高さまで吹き上がっていた。

 けたたましいドラゴンの悲鳴が、広大な格納庫じゅうに反響した。


 顔をあげた奴の口には、悶え苦しむドラゴンが1匹咥えられている。

 スライディング躍り食いだ。

 あの図体でモンハンみたいな動きしやがった。


「1匹やられた! 急げ!」


「信じられねぇ……!」


 そのとき、

 隕石が衝突するような凄まじいエネルギーの爆発から、

 はじき飛ばされた1人の勇者がいた。


 俺はその人影を見上げた。

 ……どうやら、遅かったか。

 天井近くからゆっくり地上に落ちてくるのは、

 多分だが、勇者クレゾールだった。

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