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31 エルフ耳とスキンヘッド

 200人の小隊で行動しても、無駄に命を散らすだけだ。

 それよりも、援軍と合流していった方が効率がいい、との判断で、俺たちはしばらくそこに待機していた。


 勇者クレゾールは100人や200人助けたところで、この世界ではどうにもならないと言っていた。

 それより1撃でも多く、1ポイントでも多く、ダメージを与えておきたい。その思いは伝わって来るが、

 1人で100回攻撃を成功させるのと、

 100人の盾やサポート役になって、彼らの攻撃を数回成功させるのとでは、どちらが効率いいか?


 そんなものは、火を見るよりも明らかだった。

 彼は明らかに焦っている。

 感情だけが先走っているように見える。

 残された勇者達は、だいたいそういう話に落ち着いた。


 勇者クレゾールはたった1人、うねるビヒーモスの尻尾をかいくぐり、すでに攻撃を繰り出していた。

 俺も早く向こうに行って、1ポイントでもダメージを入れたい。

 そんな状況だったが、ここには『俺の心が読める』と思しきエルフ耳勇者がいる。


 下手にこいつから目を離すと、何か言われやしないか。そんな気になってくる。


 ……あーあ、なんか急にやる気なくしたな。

 ……こんな勇者のパシリとして操られるぐらいなら、もういっそ帰ってやろうか。

 ……コイツのBL楽園に俺みたいなクズが入る理由はないもんなぁ。


「勇者、マキヒロ」


 心の中でネガっていたら、エルフ耳は俺に近づいて来た。

 俺は無意識に身を固め、数歩引いてしまった。


 それ以上俺に近づくな、ギャルゲ勇者。

 そう念じると、エルフ耳はポーカーフェイスのような笑みを浮かべ、俺の前でぴたっと止まった。


「これを渡そう……私の故郷から持ってきた、お守りだ」


 そう言って、エルフ耳は小さな葉っぱを俺に押しつけてきた。


 所持品:《クリフの若葉》0→1


 見た感じは琥珀が近いだろうか。

 エルフの工芸っぽい、葉っぱの形に押し固められた樹脂か何かだ。


「これは……なんの効果が?」


「ただのお守りだよ。持っていると少し気分がよくなる。強いて言うなら……信頼の証かな?」


 爽やかに笑うな。

 うぜぇ、爆発しろ爆発。


 こいつの手駒として使われるのは嫌だ、

 そう思った途端に、

 埋め合わせのように、渡された信頼の証。


 ……なんか裏がありそうだな。

 ……盗聴器とかは仕込んでないよな、これ。

 エルフ耳はポーカーフェイスをくずさない。

 違うのか?

 それとも、ただ単に『敵対意志はない』とでも言いたいのか?

 ああ、なるほど。

 コイツの特殊能力を俺が見破ってしまったから?

 周囲に自分の特殊能力をバラされると、困る?

 それとも問題なのは性癖の方か? マジでBLなの?


 すると、エルフ耳勇者は急に困った表情を浮かべた。

 何か言いにくそうにしている。


 ……ああ、困るな。そりゃ確かに困る。

 自分の心が読まれると分かったら、誰がこの勇者の周りに集まるだろう?

 下手な事をしたら、こいつの口からどんな秘密をバラされるか、分かったもんじゃないからな。

 別に俺の反応が珍しい訳じゃない。誰だってこの勇者を警戒するのは当然のはずだ。

 しかもイケメンでBL趣味だなんて言いふらされたらもう……。


「正直に言うと……」


 エルフ耳は、困ったように長い耳を下げた。

 額をぽりぽり掻いている。


「キミは私とは違うタイプの勇者みたいだ。私とは無理でも、せめてキミと勇者クレゾールには、友好的な関係を築いてもらいたい」


 やっぱり。下手を打ったな、エルフ耳勇者。

 言葉を選んでるけど、もう自分には関わって欲しくないって言ってる訳だ。

 厄介払いという訳か。

 もうこっちからは関わらないけど、敵同士にはなりたくない、その為の手土産。

 まあ、一応もらっておくか。

 俺の方も秘密をバラされずに済んで良かったし。


「ああ……じゃあ、そっちも、自分の仲間を大切にしてやってくれ。

 俺はお前たちのような勇者達こそ、本当の勇者だと思っているからさ」


「私たちのような、とは?」


「つまり……仲間を大切に思いやるって事だ」


 ああ、前半は本音だったのに。

 後半は心にもないことを言ってしまった。


 まあ、地球でも珍しい事じゃない。

 日本の武将は性欲のはけ口に、少年の小姓を連れていって仲良くしていたと言うし。

 かつて古代ギリシャには、同性愛者のみで構成された軍隊があったと言う。

 そんな事を思い浮かべると、エルフ耳はすげぇ嬉しそうに笑っていた。


「キミなら分かってくれると思っていたよ」


 鳥肌が立った。

 やばい、やばい。気に入られた。

 これ以上ここにいるとマジで攻略対象に含まれかねない。

 速やかにこの場を立ち去らなければ。


「か、勘違いすんなよ! べ、べつにそんなんじゃねーし!」


 おい、しっかりしろ俺、自分のキャラを保て。

 ツンデレと捕らわれかねない発言をするな。

 けど、他にどうやって言えばいいんだ。

 俺にその気はないって言うのは直接的すぎるし、もっと露骨に拒絶するのも違う。

 ここに来て、コミュ能力の欠如という障害が立ちはだかる。

 他の勇者達も目を丸くしているじゃないか。

 こいつら多分、ツンデレって言葉自体、知らないんだろうな。


「よし、ならば私も行こう……」


 スキンヘッド勇者が申し出てくれた。

 ギャルゲ勇者よりも心強い。


「ただ待っているのは、性にあわないからな……それに、勇者マキヒロの実力も見てみたい」


「えっ、なんで俺の実力なんて見たがるんだ……?」


「ふむ……」


 スキンヘッドは、エルフ耳に目配せしていた。

 言っていいのか悪いのか、確認しているようなアイコンタクトだ。

 あ、そうか。

 エルフ耳が俺の事を吹き込んだのか。

 こいつらと何度か接触したから、剥いだのが俺だって、気づいてたんだ。

 ……おのれギャルゲ勇者め、俺をいい晒し者にしやがって。


「い、いや、俺の実力なんてほんと見る価値もないから……」


「それでも構わないさ、どうせ暇つぶしだ……それに、この世界では『本当の実力を隠している勇者』というのは、さして珍しい存在ではないからな?」


 などと言って、もう一度皮肉げな笑みをエルフ耳勇者に向けた。

 エルフ耳は、苦み走ったような顔をしている。初めて見るような表情だ。

 ……あれ、こいつ。

 ひょっとしてエルフ耳の特殊能力の事も、知ってるんじゃないか?


「いくぞ!」


 スキンヘッドは自分でタイミングを決めると、俺の弁明も聞かず、剣を高く振りかざした。

 そして凄まじい速度で、ビヒーモスの背中に向かってダッシュする。

 すげぇ速さだ。

 そういえば、彼の武器は飛竜のツメではない。

 それでも、全身に金色のオーラを纏って、特殊技能で同じ効果を得られるようだ。

 なるほど……それがスキンヘッドのチート能力という訳か。


 スキンヘッドの背中はみるみる小さくなってゆく。

 俺は慌ててその後を追って、ジャンプした。

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