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30 行き過ぎた友情物語

「この世界じゃ、俺たち勇者が人を1人2人、100人200人助けたぐらいじゃ、なんの意味もないんだよ」


 勇者クレゾールは、彼らのお友達ごっこが、端から見ていてよほど腹にすえかねたのだろう。

 すげぇ怒っている。


「お前のために犠牲になったのは、目の前で死んだそいつだけじゃねぇんだよ。死んだ連中も、いま生きている連中も、みんなそういった小さな犠牲の積み重ねの上で生きているんだ。

 けど、誰もそんな事にまでいちいち感謝や責任を感じる必要はないだろ。

 たまたま自分の近くで死んだからって、過剰に反応しすぎなんだよ。

 そうやって無駄に嘆いている間にも、お前は自分の見えないところの犠牲を無駄にしているんだ……いい加減気づいたらどうなんだ、いま俺たちに必要なのは、先に進むことだけだろ」


 俺はなるべく知り合いだと思われないように、端っこの方に居た。

 ……というか、なんで勇者達って自分の意見をびしばし言えるんだろう?


 エルフ耳勇者は何も言わない。

 本当に苦痛に耐えているのかもしれない。

 スキンヘッド勇者が、じっと勇者クレゾールを見ていた。

 見ているだけだ、何も口出しをしない。

 プレッシャーをかけている、と言われればそうかもしれないが。


 お陰で、一触即発の事態にはならなかった、

 お互いに引っ込みのつかないほどの争いには発展しなかったらしい。

 勇者クレゾールも居心地の悪い視線にさらされながら、

 鼻を鳴らして、すぐに背中を向けた。


 俺とすれ違ったが、ひと言も発さなかった。

 ガン無視だ。

 まあ、俺もガン無視してたけど。

 脱色の金髪を揺らし、飛竜のツメを振りかざして、ビヒーモスの背中に向かってジャンプしていった。


 しかし、よくこんなに知り合いがいたものだ。

 だが生存者は少ないとは言え、200人も生き残っている、

 そのうち3人くらいが知り合いという事も、たまにはあるだろう。


「おい、立てるか……」


 スキンヘッドは心配そうな面持ちで、

 エルフ耳勇者に手を差し伸べた。


「いや、いい。立てるさ。まだ戦える」


 エルフ耳勇者は立ち上がると、俺よりも背が高かったが、ひどく青い顔をしていた。

 なぜか足がふらついているようにも見える。

 最初見たときはまるで気づかなかったが、ずいぶんやつれている。

 大丈夫だろうか、この勇者。


「勇者マキヒロ……彼の友人か」


 いきなり名前を呼ばれて、俺は焦った。

 ……えっ、なんで俺の名前を知っている。

 死に神の目でも持ってんのか。

 俺は当惑したが、エルフ耳の勇者は俺をじっと見て言った。


「実は、キミ達が一緒に居たところを偶然見かけたんだ。ただの知り合いでも構わない、勇者クレゾールと一緒に居てやってくれ、その方が彼も気分がマシになるだろう」


 なんなのコイツ。

 なんてイケメンなの。

 ちくしょう、惚れてしまいそうだ。

 なんでこれほどの人数の中で、俺みたいな目立たない勇者の名前までしっかり覚えて、しかも的確な指図を出しているんだ。

 面倒くせぇ……。学級委員長タイプだな……。


 まあ、確かにその役目は俺が適任かもしれないな。

 あいつ、こういう友情ごっこは毛嫌いしてたし……俺なら黙って側で戦ってても……。

 ……あれ。

 なんで俺たちが一緒に居たところを見てたんだ?


 俺が勇者クレゾールと一緒に居たとき……たしかコイツ死んでなかったか?

 別の勇者を背負って走ろうとして、共倒れになってたよな?


 そうか、ひょっとして……こいつ、人の心とか記憶を読めるんじゃないのか?

 それでさっきすれ違った時に俺たちの記憶を覗いて、俺にそんな事を言ったんだ。

 九天は広いのだ、そんな特殊能力があっても、不思議じゃない。

 ……なるほど、それでこいつは「周囲の人が死ぬと、その苦痛を感じて~」みたいなキャラ立ちなのかもしれないな。


 ……なんか厄介な勇者が現れた感じがする。

 ……下手をすると、俺のチート能力の秘密まで、知られてしまうかもしれない。


 そう思っていたが、エルフ耳の勇者は大して動揺せず、

 ふ、と笑った。爽やかなスマイルだった。


 こ、コイツ……!

 本当に俺の心を読んで……!

 いや、待て!

 落ち着け……状況を判断しろ!


 とにかく、エルフ耳が並の情報収集能力の持ち主ではない事は確かだが、

 エルフ耳が俺の不正を知ったところで、大したメリットがあるとは思えない。


 そうだ、奴は俺と同じ、この世界に召喚された『勇者』の一人でしかない。

 俺がチートを利用して大きな成功を収めたのなら、俺を脅せば旨みもあるだろう。


 ……だが残念ながら、それはない。確実にない。

 俺には、誰かに脅されて相手に得をさせるほどのメリットがない。

 せいぜいこうやって、手軽なパシリとして操られるぐらいだな……。


「まったく……お前は仲間を放っておけない性分なんだな……」


 そう言って、エルフ耳の背後の勇者達がほほえましい物を見るような表情を浮かべていた。

 得に、背後のスキンヘッドはどこか誇らしげだ。


 不意に、怖気が走った。

 うわ……なんだこの空気。

 近寄りがたい……偽善と幻想と曲解と希望で完全に理論武装してやがる……。


 ああ、なるほど……。

 エルフ耳がやっているのは、決して意味の無い友情ごっこなんかじゃなかったんだ。

 意味があるんだ。

 なぜなら、この友情ごっこに、どのくらい効果があるのか。こいつは自分の目で確認できるのだから。


 そうなれば、印象操作なんてお手の物だ。

 強い奴には可愛がられて、弱い奴には慕われる、最高の勇者に自分を仕立て上げる事が出来る。


 たとえるなら、こいつの目には、

 ギャルゲみたいに、周囲の勇者の好感度がパラメータみたいに見えているんだ。


 エルフ耳で、イケメンで、パーフェクトで、しかもギャルゲの主人公かよ……。

 絶望しかねぇ……。


 俺が心の中で「近寄りたくねぇ……攻略対象になりたくねぇ……」とか不敬なことを考えていても、

 エルフ耳のイケメンフェイスは、全く動かなかった。


 もし俺の心が読めているんだとしたら、逆に不自然なくらい動かない。

 ……ひょっとしたら、凍っているのかもしれない。

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