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29 背中を追いかけながら

『現在、召喚師は蘇生魔法の効果範囲を、格納庫Aから格納庫Bに移行させている!

 格納庫Bの蘇生魔法フィールドの構築に数ターンを要する!

 歩兵部隊、まだ格納庫B内での死者蘇生はできないので気を付けろ!』


 どうやら、格納庫Aで死んだ者をまだ全員復活させられていないようだ。

 ドラゴンの蘇生に手間がかかったのかもしれない。

 攻撃を中止しろ、とは言われていないが、

 進んで追撃をする者はいなかった。


 飛竜のツメのダッシュ機能で出せる速度はどの勇者も同じだ。

 常人よりも遥かに速い勇者達のダッシュを、

 ぐいぐい引き離していくビヒーモスの背中に向かって、

 俺は飛んでいった。


 早く、一撃だけでもいいから早く攻撃しなければならない。

 その思いの出所は、他の勇者達とは多少違っていたが、

 そんな俺の行動は、

 どうやら他の勇者達を刺激してしまったらしい。


 俺の左右から、ジャンプ機能で空を飛ぶ勇者達が次々と現れたのだ。

 さきほども鱗を攻撃せずに、

 ひとり弱点を狙ってダメージを与え続けていた勇者も飛んでいたが。

 そいつの場合は、俺がナンバーワンじゃないと気が済まないと、そういう勢いだろうか。

 自分の得点しか考えない勇者もいるにはいるらしい。


 それに釣られるようにして、

 気が付くと、ほとんどの歩兵勇者達がジャンプで空を飛んでいた。

 集団心理って恐い。

 まだ1000人以上の数が居るので壮観だ。

 これだけの数で一斉攻撃したらどうなるんだろう。


『歩兵部隊! 魔法部隊の攻撃射程内に入っているぞ! 高度を下げろ!』


 その声と同時に、俺の視界は明るく染まった。

 ツメを前に向け、体をひねって背後を振り返ると、

 格納庫Bの左右にあった2つの高台から、

 合計5000個近くの炎の塊が飛んできていたのだ。


 やばい。

 ビヒーモスの背中が空いた所を狙って、

 総火力攻撃を放っていたらしい。


 俺につられて飛び上がっていた歩兵勇者達が、数名巻き添えを食って燃えていた。

 味方にも容赦ないな、この世界は。


【スキル石(L)、ロック】


 俺はジャンプ機能を途中でロックし、地上を歩く事にした。

 やはり途中で機能を停止させるのは、ロックであっているようだ。


 飛竜のツメが浮き上がる力を利用して、着地の時の衝撃を上手く調整する。

 飛竜のツメを空に向けながら、砂の上に無難に着地する。

 そしてそのままダッシュ。

 だいぶん扱いに慣れてきた。

 もう5時間近くプレイしているからな。


 新幹線じみたビヒーモスの姿は、格納庫Bの中央付近まで差し掛かっていた。

 またじりじりと距離を開けられるが、

 俺の勢いはまだ多少残っている、電車ぐらいの速さでその背後に追いすがる。


 俺の前方を行く勇者達は、ツバメみたいにスムーズに高度を下げて、

 火の玉の河のために進路を開けている。

 彼らの世界では、炎を飛ばす魔法なんて見慣れたものなのだ。

 俺みたいに必要以上に離れない。

 炎からどのくらいの距離を取ればダメージがないのか、経験的に分かってしまう。

 最低限の動きでかわしつつ、最速の動きで飛び続けている。

 やはり、精鋭達は習熟度の早さでもぬきんでていた。

 そして間もなく、彼らは尻尾に到達しようとしていた。


 2条の火の河が、ビヒーモスの弱点部位に、大量に注ぎ込まれる。

 ダメージは2から6までばらつきがあるが、効果はある様子だ。


 ビヒーモスは明らかに今までとは違う、大きな悲鳴を上げた。

 痛みを訴えるような鋭い悲鳴だ。

 効いている。はじめて聞く声だ。

 歩みも急に遅くなり、山のような背中が一気に近づいて来た。

 気が付けば、1本目のライフゲージは、もう7割以上削れている。

 まだ2本と少し残っているが、一ヶ所を集中して攻撃されればそれは痛いはずだ。


 と、

 何かビルディングの壁のようなものが、俺の視界の右から左へ通過していった。

 ビヒーモスの尻尾だ。

 上空を飛んでいた勇者達が、

 その風圧でまとめて横になぎ払われた。

 遅れてその風圧は

 俺の所にまで来た。


 ビヒーモスは、ウシが虻をはたくみたいに、鋭く尻尾を振っている。

 すごい勢いだ。

 炎が渦を巻いて、竜巻が何本か生まれていた。

 魔法で呼び寄せたみたいになっているが、

 炎を尻尾で強めに払っただけだ。

 トカゲみたいな尻尾で、そんな事もできるのか。


 その行動で、またしても死者数が800膨れあがる。

 炎の河が消えたとき、俺とビヒーモスの背中の間にはもう誰もいなかった。


 それは俺たち勇者の突撃を止めてしまうほどの、

 大きな一撃だった。

 今まで率先して攻撃をしかけていた勇者達が、根こそぎ息絶えている。

 多くは死体となって風に運ばれ、空から降ってきた。

 綺麗に灰になっていた。

 化け物だ。

 奴はまだ全力を出していなかった。

 そして、あいつにとっては食事の方がよほど重要なのか、後ろも振り返らずにまた歩き始める。


 俺の周りに残された勇者達の生存数は、すでに200人にまで激減していた。

 みな意気消沈してしまっている。

 もうビヒーモスにとっては吹けば消し飛ぶような数でしか無い。

 この人数では陽動は愚か、満足なダメージを与える事さえできなかった。


「くそっ、援軍が遅れているのか……!」


 気が付くと、スキンヘッドが俺のすぐ近くに居た。

 どうやら無事だったらしい、


「このままじゃ魔法部隊がいい的だぞ……どうにかならないのか! ……おい!」


 よく見ると、近くにエルフ耳もいる。

 足元に倒れている勇者の亡骸の前に跪き、顔をじっと見下ろしている。


「なんという世界だ……この世界は」


 おいおい、感傷に浸りすぎだろ、また蘇生するのに……と思ったが、

 エルフにはエルフの、人間にはない感覚があるのかもしれなかった。

 俺には見えない他人の痛みとか、魂のようなものでも感じるのかもしれないし、

 それぞれの世界に宗教的なものがあるのかもしれない。

 そう思うと、ちょっと不思議な光景に見えた。

 少なくとも、俺が馴れ馴れしくツッコんでいいタイミングではない。


「おい、馴れ合いはその辺にしておけよ……くだらない」


 そんな雰囲気をぶちこわしにする、鋭い意見が放たれた。

 見ると、勇者クレゾールだった。

 ……勇気あるな、お前。

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