28 格納庫B
ビヒーモスからいったん背を向けて走り出すこと、約5分。
ようやく2つの格納庫を繋ぐ非常通路を見つけて、俺は先を急いだ。
『ビヒーモスが格納庫Bに侵入した! 第五十勇者連隊は全員、格納庫Bに集合しろ!』
視界に映るマップを指でドラッグすると、
視点を上下左右にずらすことが出来る。
ビヒーモスを示す巨大な赤い点が、いつの間にか壁をすり抜け、
格納庫Bに侵入しているのが見えた。
その周囲に、歩兵勇者を示す複数の緑色の点が集まっている。
俺が格納庫Bに到達したときには、
他の勇者達とビヒーモスとの戦いはすでに始まっていた。
いつものように、ちまちまと0や1ポイントのダメージが飛び交い続けている。
背後のうなじまで飛び上がる勇者達は、思ったより少ない。それでも継続して5ポイントのダメージを稼ぎ続けてはいるが、途切れがちだった。
ほとんどの勇者達が、それ以外の低い場所を狙って叩いている。
なんで、と思ったが、俺の鱗を剥いだ位置がすこし悪かったらしい。
どうやらビヒーモスを包囲して全方向から叩く戦法だと、鱗を剥いだのが背中のうなじだけでは、まだ効率が悪い、という判断のようだ。
それもそうだろう。
格納庫Bに足を踏み入れたビヒーモスは、
ひどい猫背のくせに、地面から両肩まで100メートル近い高さがある。
おまけに、首をきょろきょろさせるだけで、
弱点が2、30メートルは左右に動く。
せっかく弱点を狙って飛び上がっても、攻撃が届くまえにジャンプのゲージが尽きてしまえば、そのまま落下してしまうだろう。
歩兵勇者が効率よくダメージを与えるには、もう少し低い位置に弱点が必要なのだ。
どうやらさっきの少数精鋭の勇者達も、それを理解しているらしい。
多くの勇者が、ビヒーモスの腰の、やや背中寄りあたりに集まって、しきりに攻撃を繰り出している。
そこにはスキンヘッドやエルフ耳の勇者の姿が、当然のようにあった。
さすがだ。
そこが最も効率のいい攻撃場所なのだと、俺は解釈した。
戦争中に自分がポイントを稼ぐことだけしか考えない、どっかの軽いトカゲとは大違いだ。
まあ、俺も彼らの攻撃に加わるかどうかは、考えなければなるまい。
なぜなら、俺はまだ1ポイントもダメージを与えていないからだ。
どっかの軽いトカゲが計らってくれたおかげで、
1ポイントもダメージを与えていないのに、ファーストアタックを成功させた事になっている。
このまま戦闘が終わって、俺の総ダメージが0ポイントのままだと、ちょっとマズイ事になる気がする。
主にどっかの軽いトカゲが。
あと、下手をすると俺の召喚師にも火の粉が飛ぶかも知れない。
ならば、今のうちに1回でもまともにダメージを稼いでいた方がいいだろう。
召喚師に迷惑がかかるのは嫌だしな。
鱗を叩くと0ポイントになる可能性がある。狙うは弱点。
ぐずぐずしていたら、ビヒーモスが暴れだして、剣が触れる前にまた俺が即死するかもしれない。
そのうち幼女軍師が現れて、陽動やドラゴン救出クエストなんかに駆り出されたりするかもしれない。
災いの種は早く摘んだ方がいい。
そう思って、俺はビヒーモスの背中側に進行方向を定めた。
ダッシュしながら敵の状況を把握する。
ビヒーモス自身は、勇者達のそれぞれの思惑のからんだ攻撃を受けている事より、
格納庫Bの奥に居るドラゴンたちの方が気になって仕方がないみたいだ。
どれから襲うべきか品定めしているようにも見える。
すでに拘束は解かれた後だったらしく、ドラゴンはみな壁際に寄り集まっている。
ドラゴンは数体復活させられていて、現在12匹。
どういう計算があるのか分からないが、
5匹しか復活していない。
さっきの戦闘で13匹ほど食われたはずだが。
どうやら襲う順番は決まったらしい。
ビヒーモスの100メートル近くある尻尾がぶわり、と波のようにうねり、
ティラノサウルスみたいな歩調で、ドラゴンに向かってゆっくり前身しはじめた。
尻尾が軽く地面をはたいただだけで200人、
足が地面につくだけで500人勇者が死んだ。
俺がまっすぐ向かっていた背中は、大きく位置を変えてしまい、
飛竜のツメを90度ひねって、向きを調整しなおさなければならなかった。
そして俺は、はるか前方をゆくビヒーモスの背中を真正面に捉えた。
さっきよりも遠くなっている。
ビヒーモスの加速がやばい。
横幅30メートル、縦がその3倍くらいの足を交互に前に突きだしている。
デカいくせにその1歩のストロークが長い。
3歩目には、もう電車くらいの速さが出てる。
さっそく置いて行かれそうになった。
おい、まて。
俺を置いていくな。
せめて1発だけでもいいから入れさせろ。
【スキル石(L)、アンロック】
とっさにジャンプ機能を発動して、
俺はビヒーモスの背中を追いかけた。
空から降ってくる血まみれの勇者達や、
地上を走る大勢の勇者達をごぼう抜きにして、俺はビヒーモスの背中を追いかけていった。




