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25 25万分の1の勇者

 飛竜のツメを適当に遠隔操作していたら、いきなり俺のスキルが5ランク上昇した。

 さらに、《飛竜のツメ使い》の称号を獲得。


 ……うまい話には、何か裏がある。

 ……だって、明らかにおかしいだろ、それ。

 なんで鱗を剥いだだけで、そんなに過大評価されているんだ?


『では、各機能の説明をするぞ……!』


「ま、待てよ! おかしいだろ、話が急すぎるじゃないか」


 俺は慌てて飛竜の声を遮った。


「俺の評価が高いとかそれ、明らかにウソだろ、ブラフだろ!?」


『はぁーっはっはっは! ウソでもブラフでもない! 貴様の勇者としての評価は、同じ時期に召喚された勇者と比較しても、現在トップクラスだ!』


「う……そ、だろ……! だって俺は、鱗剥いだ以外は、失敗ばっかりで、ほとんど何もできなかっただろうが!」


 確かに、ビヒーモスの鱗を剥いだのは俺だ。

 だけど、その他の事に目を向ければどうだ?

 悪い事をあげれば切りが無い。

 序盤のチュートリアル聞き飛ばしてまともに攻撃できなかったり、

 その攻撃だってやっと1回成功しただけじゃないか。

 上手く行かなかったらいちいちネガってふて腐れて、どうしようも無いクズ勇者だったじゃないか。

 それで俺の評価が『他の勇者と並んでトップクラス』って、どんだけだよ、ゆとり仕様どころじゃないだろ、明らかに不当な評価だぞ?


 飛竜は、そんな俺を笑っていた。


『はぁーっはっはっはぁ! 何を言っている、貴様のミッションはこれまで3つ、ちゃんと「成功」したではないか! 軍からも貴様のそのような成績が正式に報告されているぞ! 世の中は基本、成果主義というやつだからなぁー!』


 それを聞いた俺は、さっと青ざめた。

 俺は、震える指でミッションのログを見る。


「ドラゴン救出」成功

「敵の陽動」成功

「緊急:敵の足止め(3ターン)」成功


 そうだ、確かに俺はミッションをすべて「成功」している。

 最初は、おかしいと思わなかった……。

 けど、これはぜんぶ、他の勇者達が凄かったから成功できた事だ……。


 俺なんて、まるで役に立たなかったじゃないか。

 俺は何一つできなくて、周りに助けられて、ただ足引っ張ってただけで……。


 ……なんで、これが俺の成績になっているんだ?


『それに加えて、これまで貴様のなしてきた戦績からボーナスポイントを加算すれば、第五十連隊の他の勇者達よりも頭ひとつ分ぬきんでた好成績を収めている、と言うことだ!』


 ああ、くそ……そう言うことか。

 俺は激しいデジャブを覚えた。

 出来損ないの俺の良いところを、無理して見つけて伸ばそうとしている教師陣の顔を思い出した。

 自分勝手な希望を押しつけようとする、小賢しいだけの営業トーク。

 もういい……もう前の世界の事は、なるべく思い出さないようにしよう。


 俺は、深いため息をついて、飛竜にダメ出しをした。


「あのさ、それなんだけど……ファーストアタック成功って、普通はダメージが1ポイント以上入ったらファーストアタック成功って言うだろ? 俺まだ0ポイントなんだけど。なんで鱗が剥げたのカウントに入れてんの?」


 カマをかけてみた。無論、この世界のそんな詳しいシステムの事は知らない。

 ただ俺の知っているゲームには、ダメージ0ポイントだと攻撃ミスとみなされ、ファーストアタックに数えられないものがあったのだ。

 すると飛竜は、


『げ、げふん、げふん、はぁーっはっはっはぁ!』


 と、笑いで誤魔化していた。


 ああ、やっぱりな。

 ……大体裏が読めてきたぞ。


 つまりこいつは、飛竜武器開発評議会とやらで自分の成績を上げるために、俺のボーナスポイントを水増ししたんだ……。

 だってこの武器、『こいつのツメ』だもんな。そうでなくとも、自分の担当責任とかあるんだろ。


『さすがだ勇者よ! この吾輩にかかれば評議会からスキルポイントボーナスをちょろまかすなど容易いことなのだ、感謝するがいい、ぐあーっはぁーっはぁーっ!』


 軽い、さすが飛竜、軽い。


 ……異世界だからって、そこに住む生物や社会に夢とか理想とかの希望は抱いていなかったけど、

 やっぱり世の中って理不尽だよな……。


 そう考えると、どいつもこいつも自分の成績を上げるために、俺の事を過大評価して周りに売り込んでいるんだな、という空気をうっすら肌で感じた。


 そりゃそうだろうな……25万人も勇者が居たら、軍もひとりひとりの能力をきちんと精査なんてしやしないだろ……ましてや国家の存亡がかかっている緊急事態だし、恩賞や評価をより素早く与えられる事の方が重要なのかもしれない。


 おそらく幼女軍師かその上司は、ダメな部下を無難な合同ミッションに参加させて、適当に成果を上げさせているんだ……デキる中間管理職ってこういう仕事するんだな。


 そして俺がたまたま他の連中に先んじて鱗を剥いだから、飛竜はその尻馬に乗っかって、『ファーストアタック成功!』というボーナスポイントを俺に付け加えたんだ……。


 なぜって、成果主義で言えば、他の勇者と俺の違いは、そのくらいでしかない。

 第五十連隊の奴らは凄い奴らで、何度も攻撃を成功させていたけど、もともと1ポイントか0ポイントぐらいだったし……1人当たり、たかだか2、30ポイントのダメージじゃ、このビヒーモス戦では毛が生えたようなものなんだろう。

 後はドラゴンの鎖を解いたとか、サポート呪文唱えたとかぐらいだ……それよりも、鱗剥いでダメージを5倍にしただとか、ボスドロップを手に入れた事の方が評価が高い……。

 かくして俺は、他の勇者達と足並みを揃えた状態で、開発評議会とやらに自分の成績を触れ込まれた……。


 最悪じゃねぇか……。

 俺にこんなつもりはなかった……どうしてこうなった……。


 俺は昔から甘い言葉を囁いてくる教師の言葉の裏には何かある、と常々勘ぐっていたからな。

 このぐらいの世間のカラクリはもうバレてる。

 まあ……こうなるともう、先の展開はだいたい読めてくるわけだが。


「……別にどうでもいいけどさ。俺はこの後もどうせ良い成績なんて残せないだろうし、このビヒーモス戦が終わったら、すぐに帰るぜ?」


 俺がかねて決めていた事を告げると、飛竜は思いっきり笑い飛ばした。


『はぁーっはっはっはぁ! いきなり何を言い出すのだ、勇者よ! お前は今後もこの世界でずっと活躍をし続けるのだ! そして吾輩と共に未来永劫語り継がれる、伝説の勇者になるのだァー!』


 ……バッドエンドじゃねぇかそれ。

 やる気ねぇし……。


「こんな絶望の世界で戦い続けるとか、不吉な予言にしか聞こえねぇよ? 俺は伝説になんてなりたくねぇし、なれるわけねぇだろ、バカじゃないのか、なに言ってるんだお前」


『ほほう、貴様、吾輩を愚弄するか! ふははは、面白い! なかなかの気骨ではないか、気に入ったぞ! それでこそ吾輩の見込んだ、真の勇者よォ!』


 かちんときた。

 それで俺はもう、ぶちキレた。


「ふざけんな……! じゃあなんで俺はずっと武器回収なんて無意味なミッションやってるんだよ!? 俺は勇者のくせに、お前をここから出すことも出来ないんだぞ! 他の勇者達が命がけで戦っている間、ビヒーモスに格納庫Aが攻略されるのを、俺はただ黙って見てるしかなかったんだぞ……!


 リスタートするために自分の頭かち割る勇気も出ないのを、屁理屈こねて正当化しやがって! そのくせこんな所で、ただ地面の下のお前をちまちま遠隔操作してるだけで少しは何かやってる気になってるんだぜ……! いい気なもんだろ、他の勇者がどんどん先に行っている間に、俺はいつまで経っても同じ場所で立ち止まってうだうだしてるんだ!


 他の勇者だったらこんなミッション一発で終わらせて先に行ってたし、そもそも召喚師に頼めば一発でお前を召喚できたはずだろ! なんでそれが俺には出来ないんだよ! 簡単な事だろ、俺みたいなクズはしょせんどの世界に行ったって結局クズにしかなれないんだよ、どいつもこいつも、そんな俺を持ち上げてフラグだの伝説の勇者だのヘラヘラしやがって、俺に希望を押しつけてんじゃねぇ!」


『くっくっく……なんだ、その口ぶりではなかなかの人気者のようではないか?』


 俺は、瓦礫の下にうっすらと見える飛竜のツメを、がつんと殴りつけた。

 くそ、やっぱり硬い。手の皮がすりむけて、血がにじんだ。

 飛竜は、そんな俺を面白がるみたいに、くつくつと笑っていた。

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