23 格納庫A 陥落
フィースワールドの召喚師は、実力や過去に召喚した時の戦歴をあらかじめ精査し、優先度の高い勇者から先に召喚し、連隊を組むものらしい。
ナンバリングが一桁台の第一~第九勇者連隊は、ひと言で言うと、俺たちが無課金なら、課金厨のような連中だった。
つまり、最古参なのだ。装備から戦い方から、全てが違っている。
ネトゲなら、きっと中身は廃人クラスだ。
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
巨大な稲妻を剣代わりに振り回す、第三宇宙の雷鳴の勇者ファルウ。
雷の精霊の加護を受け、空中にぴたりと制止した状態から、地面まで切り裂くぐらいの超巨剣を振り回す。
両手で代わる代わる光の剣を生み出しながら、それを見事な体技によって高速で振り回し、息もつかせぬ連続攻撃を放った。
周囲の勇者達は、その圧倒的な迫力に近づくことさえできない。まさに台風の目。
目立ったダメージを与える事は無いが、確実に1ポイントのダメージを重ねていく。
「貴様の命運は……ここで尽きる! 業火に焼かれて、悶え苦しむがいい!」
その台風の最中に攻撃を重ねられたのは、第二宇宙、巨大な光の翼を広げた異形の勇者レントス。
額に角が生えていることから、人間とはまるで別の種族なのだと分かる。
背後に広がった4枚の光の翼から、2頭のドラゴンの首が出現し、ビヒーモスに向かって極太の火炎放射を放った。
さらに勇者レントス自身も光の槍を構え、翼をはためかせて空を駆け、ビヒーモスに突撃して行く。
その攻撃のダメージは、なんと6ポイントにも及んだ。
目も眩むような個人技の数々。
第一勇者連隊は、まさに個人技で見れば他に類を見ない、圧倒的な火力を誇っている。
それらがビヒーモスのヘイト値を高めるには、充分だった様子だ。
雷鳴の勇者を片手でひねり、つま先で異形の勇者を踏みつぶし、あっという間に壁や地面に沈めた。
「かかったな……俺の、全ての魔力を込めた、この魔法を食らうがいい……!」
ふと気づくと、俺の背後の高台の上に、凄まじい光が集まっていた。
そこにいたのは、ぼろきれの様な服を纏った、第七宇宙の魔法勇者アベンド。
どこかで見たことのある顔だ。
俺と行き違いに買っていった魔法の聖水を飲んで、全身に魔力を漲らせている。
「か――――――っ!」
彼が両手を前に振りかざすと、瞬時に、周囲の風景が青色に染まって見えた。
ビヒーモスを光の柱が貫いた。
それも一本や二本ではない。
10ポイントものダメージの光の柱が、縦横無尽である。
そして浮かび上がる、ダメージ500ポイント。
勇者の格が違う。
圧倒的な魔力、そして破壊力。
これが……勇者の力。
だが、やっぱり1000人で殴った方が効いたはずである。
ビヒーモスはけろりとして、極大化炎放射を吐いて、魔法勇者をこの世から消滅させた。
そして俺はその後、彼らの姿を見ることはなかった。
あれだけの実力者だったら、元の世界でも重要なポストについていて、かなり忙しかったはずだ。
少なくとも、俺みたいな世捨て人は1人もいないだろう。
時間が無いから、最後にやるだけやって元の世界に帰っていったのかも知れない。
ゲスト出演者みたいだな。
ゲスト勇者か。
荒れ狂う一桁勇者連隊の猛攻は、それを期にぴたりと止まったが、その頃には俺の加速状態も残り1分を切ってしまっていた。
両手の光も弱々しくなっている。
俺は一か八かバリケードの影から飛び出して、飛竜のツメの回収に向かった。
運良くたどり着いた飛竜のツメは、瓦礫の下に埋もれているらしく、姿が見えなかった。
手で掘り返せばいいと考えていたのだが、どうやら上にのしかかっている瓦礫のデカさが半端ない事に気づいた。
両手を使っても、全身の力を込めて持ち上げても、まったく持ち上がらない。
えっ、ちょっと待て。
ちょっと待ってくれ。
なんだこれ。一体どういう事だ。
俺のネトゲ知識じゃ、普通、こういうのは運良く瓦礫の下敷きを免れているものだった。
魔物を避けて、岩の間に転がっているのを発見して、素早く回収するものだ。
リアルで下敷きになってて取れないって、どう言う事だ。
思わずマップで確かめてしまった。
確かに、飛竜のツメはこの下にあるらしい。
それは間違いない。
どうやら俺は、アイテムの選択を間違えてしまったようだ。
スピードポーションだけじゃダメだったのか。
瓦礫の撤去作業が出来る、パワーポーションが必要だった可能性がある。
俺は、愕然とその場に跪いた。
……ここまで来て。
またリスタートするしかない、という事実。
現実とゲームはこうも違う物だ。
ネトゲの知識があるからなんだって言うんだ。
もう一度ビヒーモスがジャンプするか、火を噴くかしてくれるのを待っていたのだが、
どうやら今度は、通常と違う動きをし始めているようだ。
頭を低く、前に突き出すように構えて、ずしんずしんと地鳴りを響かせながら、走り出した。
ジャンボジェット機みたいな凄まじい速さで壁にぶつかると、岩壁はあっけなく崩落した。
そして隣の巨大な空洞に続く、見事な大穴を開けてしまったのである。
ビヒーモスは、その巨大な空洞を見つけるや、ぐわああああ、と勝ちどきのような咆吼を上げていた。
気が付くと、俺の周囲に勇者達の姿が見えなかった。
ずしん、ずしん、と隣の部屋に向かうビヒーモスには、残された僅かな勇者達が攻撃をするばかりで、
4つある転移門はどれも勇者をはき出してこない。
どうやら戦闘はすでに次の局面に移っているのかもしれなかった。
俺が武器を拾っている間に……である。
俺はビヒーモスを追いかける事さえできずに、そこにじっと座り込んでいた。
俺の両手の光は、すでに消えている。
……どうすればいいんだ。
4つあった高台は、どれも甚大な被害を受けて崩落していた。
最後の高台も火炎放射を受けて、いまだに燃えさかる火炎に包まれている。
ガチで取り残されてしまった。
このまま時間切れになって、
召喚師が召喚してくれるのを待つしかない状況なのか。
誰か助けを呼びたいが、通信機能の使い方はいまだに分からない。
どうやってもダメだ。
特別な呪文が必要なのか、あるいは新米勇者にはロックがかかっているのかもしれない。
あるいは――まだ道は残されている。
俺は、ふと自分の足元を見た。
俺の隣には、俺の頭を砕く為の瓦礫はいくらでも転がっている。
そうでなくとも、近所の雑居ビルみたいな高さの崖になっている所もある。
これを使えば、命と引き替えにこの世界に精神的ブラクラを召喚する、例の儀式が行えるのではないか。
俺に残されていたそれはまさに、絶望的な選択肢だった。
だが、そうすれば、素早いリスタートを行える。
俺はその辺の石を手に取った。
そして、考え直して捨てた。
無いな……これは無い。
もし一発で死に切れなかったら、中途半端なダメージを食らって動けなくなるだけじゃないか……。
だいぶん慣れたとはいえ、ああいう苦しい死に方は嫌な部類なので、なるべく避けたい。
そもそも、俺が素早いリスタートを望んだ所で、
生まれてくるのはまた『俺』じゃないか?
スキンヘッドたちみたいな『数のうちに入る勇者』ならともかく。
そこまでしてポーションを飲んで、ツメを拾って、で、結局俺に何ができるんだって話だろ……。
そこには絶望しか残らなかった。
そこで俺の思考は止まってしまった。
けっきょく、俺は死ぬことも歩き出すことも出来ずに、
ただぼんやりと、去って行くビヒーモスの背中を見送っている事しかできなかった。




