18 Q.戦闘中に武器をなくした場合は?
次に俺が蘇った場所は、
戦場ではなかった。
どこかの町の、円形広場のようである。
両側から圧迫してくるような、石造りの建物の間に、
なだらかな坂道が続いている。
様々な大きさの建物が建ち並ぶ、
いわゆる市街地のようである。
そんな町の円形広場にある、
魔法陣の真ん中に出現した俺は、
ぼーっと辺りの風景を見渡す。
俺の右手を見る。
飛竜のツメは、右手に持っていなかった。
やはり、戦場で手放してしまうと、落としてしまった扱いになるのか。
どう考えても、ここは戦場ではない。
壁から等間隔にペナントが垂れ下がって、
国旗のようなものに見える。
外観はただのRPG風の町だ。
だが、道路を俺と同じ勇者が猛ダッシュで行き来しているのを見ると、
今もなお戦闘が継続しているのが忍ばれる。
視界の隅に浮かんでいたビヒーモスの不快なステータスは、今は隠されているが、
ときおり壁の向こうから、ずしん、という印象深い足音が響いてくる。
後は、がしゅがしゅと鎧の音が響いているだけだ。
一般人が外を出歩いている姿は見えない。
戦闘はまだ継続しているのが分かる。
天井に照明みたいな光る石が組み込まれていて、
そいつが等間隔に並び、
町全体を照らしている。
ここも同じ地下世界である事は間違いなさそうだ。
視界の隅に現れた幼女軍師が、俺に声をかけた。
『連続戦闘時間が1時間を超えた兵士、および、武器を失った兵士は、
15分間戦闘から離脱する権利を有する!
各自、市街地にて補給を行い、すぐに戦場に復帰しろ!』
要約すると、
15分で用意しな!
という事だった。
俺は、慌てて準備に走る。
どうやら、勇者には普通に休憩時間が用意されているものらしい。
それはそうだ、30時間ぶっ通しで戦い続けたら、どんなに屈強な戦士だろうと精神がどうにかなるだろう。
ゲームでも1時間プレイするごとに15分は眼を休めなさい、と言われている。
変な所で共通点が多いな、この世界は。
とりあえず、飛竜のツメに替わる新たな武器を調達しなければならない。
あるいは、【サモン・ロッド】とかいう『ひのきのぼう』だ。
この世界の事だ、きっと武器も多種多様だろう。
俺は魔法が一切使えないので、
ダッシュ機能がついている武器があればなおいい。
そう言えば、俺はこの世界の金を一切持っていない。
召喚された勇者は、この世界の金をどう工面しているのだろう。
幼女軍師は、その辺りの説明は適当だ。
他の勇者に聞けば一番早いかもしれない。
休憩が15分しかないので、周りの勇者は準備に忙しいらしく、それどころではなさそうだが、
通信機能の使い方が分かれば、知り合いの勇者と通話できる。
それか、一番手っ取り早いのはNPCから情報を得るか、だ。
それがゲームの王道である。
そう思って、円形広場に面した大きな店に、飛び込んでみる。
転移門から出て一番目につく店、というのが重要だ、
初心者勇者はまずここに入っていく奴が多いだろう。
彼らのための案内所のようなものがあれば、まよわずそっちに行けと教えて貰えるかもしれない。
木製のテーブルが幾つも並んだ、大きな食堂。
場所の変更が頭上に表示される。
場所:円形広場→ルコの宿屋
今は絶賛戦闘中のため、閑散としているが、
いかにも冒険者の集まる店、といった雰囲気である。
タルがごろごろ転がっていて、
喧嘩によってできた傷跡が巧妙に隠されている。
奥にカウンターつきの調理場が見えて、洗い物をしている女性の後ろ姿が見える。
よし。冒険者に関する情報が集まってきそうな場所である。
女性は、高校生ぐらいの年齢に見えたが、俺よりは年上のように見えた。
というのも、背が高い。170センチぐらいある。
肉付きの良い、健康的な体をしている。
というか、同級生の女の子なんてリアルでは話しかけるのをためらうレベルだ。
NPCに話しかけるような気軽さで話しかけられるものではない、
入り口の辺りで戸惑っていると、
俺の背後からだみ声が聞こえてきた。
「魔法の聖水!」
振り返ると、ぼろっちい服を身に纏った男が居た。
身なりが悪いせいで、どこの何者かは分からなかったが、『杖』を持っている。
先端から曲がりくねった、木の枝のようなものが飛び出している『サモン・ロッド』。
それを持っている所を見ると、たぶん魔法勇者だろう。
「おい、聞こえてんのか、魔法の聖水だよ! 早くよこせ!」
カウンターの女性は、棚からボトルを一本取ると、
振り向きざまにボトルを思い切り投げつけてきた。
凄まじい速さで店内を横切り、ドアの所まで飛んでくる『魔法の聖水』。
手首のスナップを効かせた最小限のモーションで、
にもかかわらず豊満なバストに揺れが残っている。
赤い髪もぶわっと揺れ、白い顔に一瞬見えた恐ろしく鋭い目を覆い隠した。
つり目気味で、大きいくせに、鋭い目だ。
俺の背後の魔法勇者は、
片手でばしっと魔法の聖水を受け取ると、
去り際に親指でコインを一枚、ぴんっと弾いて床に落としていった。
そして魔法勇者はあっという間に買い物を終え、情けなくもその場に座り込んでいる俺が残った。
……い、いまのがフィースワールドの買い物か。
……も、物を売るってレベルじゃねぇぞ。
どうやら魔法勇者がMP回復薬を買いに来た、という事はわかったが。
あまりに大雑把で乱暴すぎる手続きに、俺は度肝を抜かれていた。
最初はいきなり聖水とか言うから変質者が卑猥な言葉をわめいているのかと思った。
ずずーん、と店内にビヒーモスの足音が響いて、
女性は赤い前髪の間から、じっとこっちを睨んでいる。
「で? あんたは何が欲しいの?」
この店を選んだのは、正直失敗だった気がしてきた。
ここは素人の来る店じゃない。熟練プレイヤーの来る店だ。
けれど、補給完了まで、残された時間は、12分。
ここまで来たら、もう後には引けない。
「ぶ、武器……無くしたんだけど、どうしたらいいんですか?」




