16 チュートリアル「『武器』ってなんですか?」
俺は鱗の上でゆっくりと立ち上がり、
遥か遠方に突き刺さった《飛竜のツメ》を睨みつけた。
今はまだ動く事は出来ない。
俺のスペックはたしか100メートル13秒前後だったが、
それも均された平地を全力で走ってだった。
革の鎧を装備した状態で、《飛竜のツメ》までの恐ろしい傾斜を登り切る事は出来ない。
5000発の爆発音がビヒーモスの足元から響いてくる。
まるで山を登ってくる登山隊みたいだった。
ビヒーモスは恐らく、そいつを狙っている。
ビヒーモスが大きく振り上げた上半身を、
思い切り振り下げた瞬間を狙って、
俺は猛ダッシュした。
ごう゛ぁっ、という凄まじい音がして。
俺の両脚がいっしゅん宙に浮いた。
極大火炎放射の凄まじい火勢が、
地面に群がる勇者の軍勢を黙らせる。
無数のライフゲージが視界に現れ、
一瞬でゼロになっていく。
死亡数 7500勇者→1万2000勇者
一瞬で4500勇者膨らんだ。みるみる増えていく。
俺の眼下に広がった炎の渦が、
ビヒーモスの太った胴体を、包み込むようにのぼって、
行く道の左右に壁のように立ち昇っていく。
空気に鉄粉が混ざったように息苦しい。
視界が真っ赤になった。
どうやら余熱がここまで届いているらしい。
自分のライフゲージも視界に現れ、ガリガリ削れていく。
少しでも炎の壁に近づいたら、たぶん俺のライフゲージは消滅する。
一瞬で消滅するはずだ。
もう『攻撃』できるかどうかなんてどうでもいい、
《飛竜のツメ》にたどり着くだけの体力が残されていれば良い。
あれを手放したまま死んだら、
たぶんもう二度と立ち直れない。
俺はもう二度と立ち上がれない。
というか、どうして俺はチュートリアルをかっ飛ばしたりしたんだ。
せっかく幼女軍師が舌っ足らずの声で解説していたじゃないか。
今さらながら悔やまれる。
ライフゲージの減る速度は恐ろしく速い。
あと4、5秒もたない。
うなり声をあげる。
剣の柄に右手を伸ばす。
もう、間に合わない。
まあ、いいさ。
最初から間に合うなんて希望、これっぽっちも持っちゃいなかったから。
すると、俺の脳裏に、
《飛竜のツメ》が呼びかけてきた。
俺の視界の隅に、
四角い画面が表示される。
中に映し出されたのは、
『飛竜』だ。
第五宇宙の、飛竜。
青白い顔をした竜が、俺に呼びかけた。
「フヌゥーハハハー! ようこそ、絶望の世界フィース・ワールドへッ!
ここでは吾輩の《飛竜のツメ》の仕組みと機能について紹介するぞッ!
《飛竜のツメ》は、複数の召喚石を組み合わせた【サモン・ロッド】によって召喚されている武器だ!
それぞれの召喚師がエネルギーを送って、はじめて武器の形を成している! 反乱など起こしてもすぐに消されるだけだ、くれぐれもよからぬ気は起こさぬようになッ!
【本体:サモン・ロッド】
召喚石(L) 召喚石(R)
スキル石(L) スキル石(R)
持ち手
召喚石(EX)
召喚石(L)……吾輩の【ダッシュ機能】がデフォルトで搭載されている! 移動の際に必要な、運動エネルギーを、常に第五宇宙から召喚しているぞ!
スキル石(L)……吾輩の【ジャンプ機能】がデフォルトで搭載されている! 召喚石(L)の召喚する運動エネルギーを、少しずつこちらに溜めて、一気に放てるようにしているぞ!
召喚石(R)……これが吾輩の【ツメ】を顕界せしめている魔導の石だ! 小指、薬指、中指、人差し指、親指と五段階レベルアップする! 他の宇宙の武器と取り替えも可能だが、うぬのような貧弱な戦士には、ちと難しいかもしれんなッ! ちなみに魔法勇者は四属性魔法の使える【黄竜の石】を召喚しているが、黄竜はダッシュが使えん! 気を付けろ!
スキル石(R)……吾輩の【攻撃機能】がデフォルトで搭載されている! 剣をぶつければ攻撃になると思っていたか? あほうが、見知らぬ世界からやってきた無免許の赤の他人にいきなり武器持たせるんだぞ、安全装置ぐらいつけるわ!
スキル石Lよりも強力なチャージ機能があって、召喚石Rの召喚する攻撃エネルギーは、ほとんどすべて溜めこんでいるのだ!
溜めたエネルギーは【スキル石R(L) + アンロック】と念じることで、一気に放つ事が出来る!
さあ、まずは実践だ! 体で覚えろ! ……」
俺は飛竜のチュートリアルを聞き流して、
ビヒーモスの背中に手を向けたまま、
【スキル石R、アンロック】
と念じた。
ずがんっ!
鱗の隙間に挟まっていた、俺の《飛竜のツメ》が、
凄まじい光を放ち、
それと同時に、爆発を巻き起こし、
真っ直ぐ真上に跳ね上がった。
まともに攻撃が成功したところで、1ポイント。
もったいぶっていてもどうにもならない。
ビヒーモスは、背中の衝撃に気づいたのか、
ぐらり、と身を起こした。
もともと、『陽動ミッション』の為にかけられた、特別な付与魔法だ。
ヘイト値がぐんっと高まったのが分かる。
すると、背中の上にいた俺は、炎の渦から一気に遠ざかり、
俺のライフゲージ減少が、食い止まる。
……行ける!
残り10メートルほどの距離を、《飛竜のツメ》めざし、
俺は一気に駆けのぼっていった。




