表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/131

15 見過ごしていたチュートリアル

 ビヒーモスの背中で横たわっていると、

 幼女軍師の声が、どこか遠くから聞こえてくる。


『3ターンの足止めに成功した! 転移門は3基復活、通常通り運行を再開する!』


 緊急クエスト「敵を足止めする(3ターン)」の点灯が消え、


 Conquest

  成功!


 の文字が浮かんだ。

 さらに、


 死亡数 7500勇者


 3万勇者ちかくあった死亡数も、

 第四十連隊と第五十連隊、計1万人の勇者が引っ掻き回している間に1万勇者ずつ復活し、

 どうにか3ターンで1万勇者以下のラインに落ち着いている。


 格納庫Aに、ドラゴンの姿はもうない。

 すべてのクエストは解除され、戦闘はようやく次の局面へと移った。


『これより、通常戦闘に戻る! 各勇者は順次攻撃を再開しろ! 1ポイントでも多くのダメージを与えるんだ!』


 見渡すと、周囲に低く見える高台のあちこちから

 どこからともなく現れた勇者達がときの声をあげて、雪崩のように、こちらに迫ってくる。


 それらに対し、

 ビヒーモスが首をゆっくり巡らせて、

 凶悪な眼で見渡している。

 俺は全身でその荒々しい動きを感じながら、鱗の間に挟まった剣を見つめ、ぼう然と考えていた。


 この世界はクソゲーでもない、ムリゲーでもない。

 なぜなら、俺はゲームの参加者ですらなかった。

 この剣を取っても、『攻撃』ができない。

 つまり俺はただ……ダッシュ機能を手に入れてその辺をうろちょろしていただけの、ただのモブキャラでしかなかったのだ。


「……はは、は、そうだ、よな、いつから、『俺が攻撃できる』と、錯覚していた?」


 乾いた笑いが漏れてきた、

 もう笑うしかなかった。


 なんか適当なモーションをつけて、剣を力一杯ぶつけたら『攻撃』になると思っていた。

 だってそれが俺の世界での『攻撃』の当たり前の形だったじゃないか?

 どこの世界でもそういうもんじゃないのか?

 それが出来ないとなると……じゃあ、一体どうやって『攻撃』しろっていうんだ?


「……そうか、ゲームだ」


 俺は今までのことを思い返していた。

 通話機能があったり、マップがあったり、

 なぜか俺の世界のゲームの機能と、よく似た共通点があるじゃないか。

 だったら、ネトゲの知識から、

 この世界の仕組みを推理することだってできるはずじゃないか?


 くそっ、思い出せ、思い出せ。

 ネトゲの知識がこの世界で唯一の俺の武器じゃないか。


 こういう時、ネトゲじゃどういう事をしてた?


 チュートリアルで攻撃の練習をしていたときの場面を、いくつか思い出す。

 普通のネトゲは、そう、画面にコントローラーの映像が浮かんでて、

 このボタンを押すと攻撃、このボタンを押すとダッシュ、

 それぞれ専用のボタンがあって、その機能を解説していた。

 コントローラーでキャラの動きをすべて操作できるタイプで、

 どれか1つボタンを押せば、攻撃が発動する。

 そうでないネトゲは、メニューから『攻撃』を選択する。

 もしくは、画面上のカーソルで攻撃する敵を定めてから、

 メニューの『攻撃』コマンドを押して、攻撃を開始する。


 むろん、俺の体を動かしているコントローラーなんてものはない。

 となると……さっきから俺の視界に映っている、不思議な文字。

 これを利用するのではないか。

 ひょっとすると、これを利用して、どこかから『攻撃』コマンドを呼び出す必要があるんじゃなかろうか。


 ためしにビヒーモスを指さして、念を込めてみる。

『たたかう』、『メニュー』、『開け』と念じてみるが、

 何も起こらなかった。


 焦りばかりが募っていく。

 マジで『攻撃』ってどうやるんだ?


 そうこうしているうちに、

 ビヒーモスが大きく首を振って、

 俺の体は一瞬、地面との接点をうしなった。


 一面の鱗が眼下を凄まじい勢いで流れてゆき、

《飛竜の爪》の突き刺さった鱗が、俺からどんどん遠ざかっていく。

 アレを失って死ねない。

 あせった俺は、

 全身を打ち付けてごろごろ転がりながら、だだっぴろい背中になんとかへばりつく。

 少しでも気を抜くと吹き飛ばされる、凄まじい風圧に、

 一体ビヒーモスが今、どういう動きをしているのかさえ把握できない。


 おちつけ、ネトゲでもチュートリアルなんか何度もかっとばしてきた。

 適当に試してもダメで、操作方法が分からなかった時の事を、

 考えるんだ。

 

 攻略法の乗っているサイトを見て、

 ダメなら、掲示板の初心者スレを覗いて、

 やっぱりチュートリアルを見て、

 ダメだ……どれも、現状じゃ不可能じゃないか。


 もう、それでもダメなら……。

 隣のプレイヤーがやってるのを、見るしかねぇな……。


 鉄板のような鱗の一枚の端に、指をひっかけていると、


 じゅうッ! と、


 その指から焼けるような音がした。


「……ッ!」


 鱗に触れている部分が、火傷するように熱い。


 風圧にあらがいながら目を見開くと、

 ビヒーモスが、大きく直角に伸び上がり、

 天井に向けたその口腔に、息を吸いこみ始めている。


 口から漏れる光に、見覚えがある。

極大火炎放射アポカリプティック・ファイア》だ。


 2万8000人の勇者を一撃で葬り去った。

 鱗ごしに、どくんどくんと、凄まじい勢いで、エネルギーが流れているのが分かる。

 一点に集まっている。

 体の中の熱源が、

 どんどん膨張している。


 この体を保護しているシールドがなければ、俺はもうとっくに焼け死んでいたはずだ。

 まるで火山を覆っている、中途半端に熱の冷めた、どす黒い溶岩の上に寝そべっているような心地がした。


 どこか遠くから、ぼんぼん、という爆発音が聞こえる。

 攻撃は、勇者達の先制攻撃からはじまった。

 素早さの順で攻撃がはじまる。

 今にも炎を吹かんとする、圧倒的な怪物に四方八方から果敢に飛びかかり、攻撃を繰り出している。


 俺は、俺と同じ《飛竜のツメ》を使っている勇者を見やった。

 軽い宇宙、いい加減な文明の多いと言う意味でも、軽い宇宙、第五宇宙の素材で出来た、巨大な剣。

 傾けた方に浮いていくので、進行方向を定め、ダッシュができる便利な剣。


 それらを持った勇者達が、手前で妙な動きをしているのを見た。

 攻撃をする前に、何か柄の所をいじっている。


 柄の所には、岩石のような丸い物体がくっついている。

 それに片手を添える。

 すると、その勇者は遥か高くまで飛び上がってきた。

 俺のいる場所にはまだまだ届かないが、それでも巨大な体の腹や背中などの高い部分に、

 そのまま、直接斬りかかっているではないか。


 いまの、あの動きは、

 ダッシュ機能ではない。

 ジャンプ機能だ。


 俺は、首が痛くなるぐらい遥か上の方になってしまった、

《飛竜のツメ》を見上げ、

 その柄が同じように、岩石が複数集まったような構造になっているのを見た。


 次の瞬間、

 俺のネトゲ知識が、

 そこからとある答えを導き出した。

 いままで何気なく握ってきたけど、

 ひょっとして、あれは『剣の柄』じゃない、別の物なんじゃないか。


 ああ、そういう事か。

 だから、そもそもあれは『剣』ではなくて、《飛竜のツメ》という物なのだ。

 なるほど、そうか。

『柄』のついた『ツメ』なんだ。


 腑に落ちた途端、怒りがこみ上げてくる。


 ……最初っから『コントローラー』って言えよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ