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13 2ターン目 通話機能の発見

 ――聞こえますか……。


 周りの音が一瞬遠くなり、

 どこからともなく、穏やかな声が聞こえてきた。


 まったく聞き覚えのない、男性の物とも女性の物ともつかない、奇妙な声。

 瓦礫に埋もれた俺は、確かにそんな声が優しく呼びかけたのを聞いていた。

 それが繰り返し、俺に呼びかけてくる。


 ――聞こえますか、勇者マキヒロ……。

 ――25万分の1の選ばれし勇者よ……。

 ――いま、あなたの脳内に直接よびかけています……。


 誰だ。

 一体誰だ、こいつは。

 ドラクエシリーズにもたしか6あたりでこんなのがあったっけ。

 あれは登場キャラが全員勇者になれるバランス崩壊ゲームだった。

 これは一体なんのフラグだ。

 それとも、誰かの手の込んだイタズラか?

 貴方だけにっていうサギか?


 異世界で不思議現象が起こっているのに、サギの線で疑っているなんて。

 冷静なのか、周りの状況に頭がおいついていないのか。

 自嘲気味に笑いながら、俺はそのとき視界の隅に、

 いままで見たことも無い、文章が表示されているのに気づいた。


 通話申請

【勇者ドバル】が通話を申請しています。

 許可しますか? Yes/No


 お前かよ……オタク勇者ドバル。

 ああ、間違いない……これは、ただの手の込んだイタズラだ……。

 さすが勇者ドバル、やるじゃねぇか。王道の展開を熟知してやがる。

 今のは危なかった、この俺が危うくなんかの奇跡が起こったんじゃないかと希望を抱くところだったぜ。

 神に選ばれし者フラグとか、マジでありえんという話だ。


 いまだに視界に情報が現れるシステムは謎だらけだが、

 どうやら「相手に名前を教えただけで通話ができる」システムという事は飲み込めた。

 だって、ネトゲでも名前が分かったプレイヤーとチャット通信ができるしな。

 問題は、どうやったらこいつをブロック出来るんだろう、という事だ。


 とりあえずYes/Noボタンを押してみようか?

 VRゲームは大体そういう操作方法だった気がする……といっても、ラノベの話だが。


「これ、押せば……いいのか」


 ビヒーモスの攻撃は2ターン目にさしかかっていた。

 巨人が歩いて行くような凄まじい地響きが起こるなか、

 砂利の中で懸命にもがいて、なんとか片手を出す。

 とにかく、視界の端に映っているYesボタンを押してみようとする。

 その度に俺の上に積もった大量の瓦礫が動き、全身に痛みが走る。

 指で適当な所を押すと、通話申請が許可された。


「…………はぁ、はぁ、はぁ……な、なあ、勇者マキヒロ……も、もし、俺が死んだら、俺の召喚師さまに、つ、伝えて欲しい事があるんだが……ぐ、ぐふっ」

「お前はどんだけ俺を絶望させれば気が済むんだよ!? 勇者ドバル、開口一番死亡フラグ立ててんじゃねぇよッ!?」

「…………お、思った通りだ、お前なら、この定型句に宿った、禍々しいフラグの存在を見破る事ができると思ったぜ……ああ、そうだ、このままじゃ、俺は死ぬな、もう、ご、50回目くらいか……」

「なあ……勇者ドバル、俺たち、生き返るんだよな? このまま目を閉じたら、本当に、生き返るんだよな? まさかお前、本当に死なないよな?」


 法力兵は1万人。

 その全員が蘇生魔法を使えるとしても、蘇るのは1万人ずつ。

 まだ2万人以上の勇者が死んだ状態で、

 重傷者を含めると、これからさらに増えていくはずだった。


 万が一蘇生部隊が死んだら、誰も俺たちを復活させられきない。

 蘇生部隊が全滅しない限りは、俺たちはいくらでも蘇られるはず。

 パーティが全滅しても、教会で復活するゲームみたいに。

 俺は今まで、何の考えも無しにそんなシステムを鵜呑みにしていた。


 あの蘇生魔法の魔法陣と、この格納庫Aは、転移門で繋がっている。

 一体どれくらいの距離があるのかは分からないが、戦場から離れた安全圏には違いない。

 けれど、蘇生魔法はどんなに離れていても効くものなのか?


 すぐ壁の向こうだったらどうなる?

 復活する回数に制限はないのか?

 もし、安全圏が別の理由で危うくなって、法力兵がそこから逃げなければならなくなったら、俺たちは一体どうなるんだ?

 それらを思うと……正直、不安になってくる。

 一体どんな原理で生き返っているのか、俺はまるで知らされていない。

 楽観視するのは、希望を抱くのと同じくらい危険だと、俺はよく知っている。


「…………回数制限は、心配ねぇよ、多分だけど……知り合いの知り合いの知り合いに、もう100回以上死んでる奴もいるし……」

「ソースがぜんぜん当てにならないじゃねぇか……」

「あ、頭では、分かってるんだ、死なねぇってのは……けど、こんだけ何回も死んでたら、なんか、感覚がおかしくなってきちまってな……死ぬ前にかならず死亡フラグを立てとかないと、次は死ぬって……自分の中で、そういうルールができちまって……」

「小学生みたいな自分ルール作って遊んでんじゃねぇよ!? お前はなんでそんなにポジティブなんだよ、勇者ドバル! 少しは俺を見習えよ!」

「ゆ、勇者、マキヒロ……あの時、お前に伝え忘れてた事が、ひとつだけ、あったんだ……。

 この世界に、すげぇ勇者は、25万人も、いるけど、お前は、たった、一人、すごいのかすごくないのか、何だかよく分からん勇者だって……」

「もっとはっきりしてから言えよ! なんなんだよお前はやる気無いのかよ! 無理矢理死亡フラグを立てるためだけに通話すんじゃねぇよ! 俺だってもうこれから死ぬ所なんだから!」

「フラグは、もう、た、立ってんだよ……お前が、この世界に、召喚された、その時点で……。

 だから、あ、あきらめるな、最後まで……お前が一体、何者なのか、俺の直感を、証明して……あ、あ、こし……こし、いて……!」


 適当に指で押しまくっていると、

 勇者ドバルとの通話は切れた。

 気が付くと、視界の隅に、先ほどの通話のログが表示されている。


 ……召喚言語の利便性はよく分かったが、

 はやく通話の使い方を習得しないと。

 これから一方的に死亡フラグを聞かされるはめになりそうだ。


 ……そのとき、俺の頭のすぐ傍に積もった瓦礫が、がしゃんと音を立てた。

 見上げると、そこには飛竜のツメを持った歩兵勇者が一人居る。

 脱色したみたいな薄い色の金髪を揺らして、ハートマン軍曹にしごかれそうな、にやにや笑いを浮かべていた。


「よう、リア充勇者マキヒロ。何してるんだ?」

「……なんだ、お前かよ」


 脱色勇者クレゾールが、俺を瓦礫の下から引っ張り出した。

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